何がおきてる?
中國經濟

         第三回

内陸地域開発の「新思考」

日本貿易振興会アジア経済研究所海外研究員 大西 康雄

近の中国では、従来にも増して内陸地域開発の話題が取り上げられるようになった。江沢民国家主席などの指導者が演説でその重要性を強調しているし、各メディアもこぞって報道に力を入れている。こうした動きの背景には、建国五○周年に際して後進地域への配慮を強調するという政治的な意図があることが推測されるが、これに加えて、沿海地域主導の高度成長にかげりが生じており、二十一世紀にかけての持続的成長のために内陸地域経済の底上げが必要になってきたという経済的要請があることも見逃せないだろう。

<沿海主導型発展の問題点>

   1980年代から90年代半ばにおける高度経済成長は目覚ましいものだったが、そこには構造的問題もはらまれていた。第一の問題は、不合理な産業構造の残存である。同時期の成長は、主として労働集約的製造業における比較優位(安価な労働コスト)に基づき、製品の販路、原材料の調達も多くは海外に依存し、地域的には沿海地域を、所有制別では非国有部門を中心としたものであった。このため、第二次産業の比重が大きすぎるという既存の産業構造を変える力が弱く、国有部門の近代化を促す力も弱かった。第二の問題は、地域間格差の拡大である。高度成長のエンジンとなった外資の流入は沿海地域に集中したため、同地域と内陸地域の経済格差は拡大した。この点は、外資流入が本格化した90年代に入って格差が拡大していることからも明らかである。第三の問題は、国際化の遅れである。沿海地域では市場競争を通じて否応なく国際化が進展したが、沿海と内陸の経済的交流の弱さもあってそれが内陸地域まで及ばなかった。さらに地方保護主義(「諸侯経済」)がこの傾向を助長する結果となった。内陸地域開発には、中国経済の抱えるこうした構造的問題の解決が期待されているわけである。

<求められる「新思考」>

   しかし、実際に内陸経済振興が必要となったこの時点で、皮肉なことにそれに不利な要素ばかりが目立っている。ここまで述べたことのちょうど裏返しの理由により、そもそも内陸で輸出志向型産業を育成することは困難である。地理的ハンデがあるし、製造業も重厚長大に偏しており輸出向きでない。最近やや回復したとは言え「東アジア経済危機」後は輸出需要自体が減退している。国内需要を見ても「買い手市場」という言葉があるように不振で、まだまだトンネルの出口が見えない状態である。
   恐らく内陸経済の活路は、自身の有する比較優位を見直し、それを市場における競争優位にまで高めることにしかないだろう。従来、内陸の比較優位といえば、天然資源の豊富さなどに求められたが、それだけでは充分でない。たとえば、資源をそのまま出すだけでは開発コストや運輸コストの高騰から輸入資源との競争に勝てない。製品にしても低価格だけを武器にしても飽和した「買い手市場」には食い込めない。市場の動向をつかんだ製品開発・販売戦略など、内陸にはこれまでにない「新思考」が必要とされている。四川省という内陸に位置しながら、軍需企業時代の技術力を生かし、独自の販売戦略で全国一のテレビメーカーとなった長虹電子は一つの啓示を与えてくれる例といえる。こうした企業が輩出するようになった時、内陸経済の振興もまた成就することになろう。

戻る