中関村レポート(W)

鹿児島県立短期大学教授
(北京大学光華管理学院訪問学者)
八杉 哲

「Cyberspaceとホントによく言ったもんだ」


Cyberspaceとは

   Internetの仕組みそのものは、複数のcomputerを何らかの通信回線でつなぎあわせ、networkを形成した単純なものだが、人間がそれを利用すると、現実の三次元空間とは独立したcyberspace(電子で形成される別次元の空間)がinternet上に出現する。これをspace、空間、あるいは「次元」と認識するか否かは、その人間次第だが、cyberspaceという言葉が一般的になると、つまり新聞や書物で「cyberspaceが出現した」と主張されると、人間は、「なるほど」と、その空間の存在を認識してしまう。特に、internet上にe-mailのsiteをはっている場合は、internet service provider(ISP)のserverにmail addressがあるのとは異なり、そのsiteがどこにあるか、その所在が物理的に見ないので、我々の住む空間とは独立した、cyber、電子計算機のnetwork上のspace、空間、次元にそのsiteが如何にも存在するが如き感覚に陥り、cyberspaceの存在を人間は受け入れてしまうものだ。
   cyberspaceとホントによく言ったものだと関心するが、この情報空間は情報の蓄積、取りだし、アクセス(読み取り)等が極めて単純にできる世界なので、ポピュラーなもの、庶民的なものであるが故に、将来的には、すべての人間がこのcyberspaceにアクセスできると予測して、商行為、生活、教育活動などのすべての人間の行為を組み立てていく必要があると理解する。
   別の言い方をするなら、従来の我々の世界は、アナログが支配する物の世界で、そこでの情報伝達はアトム(原子)がベースになっており、物理的な重量や容積、体積などで商品が構成されていたが、これからのデジタル化情報社会では、アトムに代わり、ビットが情報伝達を行ない、音楽、文書、ニュース、アートなどの直接的な情報だけでなく、金融やその他のサービスと、各種の商品までもビット情報に変換され情報の蓄積、取りだし、アクセスが行なわれ、色々なビット情報が組み合わされて、新たな価値が創造される。この空間がcyberspaceだ。アトムの支配する現実空間には、デジタル化の可能なものと不可能なものがあり、cyberspace上のnetworkによりビジネスとして対応可能な場合と、cyberspaceと実世界の空間とを巧みに結合する境界融合型の事業として対応する場合が予想されるが、いずれにしても、我々の従来の生活様式や事業形態が、デジタル化により大きく変貌を遂げつつある事実は軽視できなくなっている。

Digital network革命により既存のシステムが崩壊する

   新製品開発はcyberspaceを通じて複数の開発者が知識を共有することで、例えば自動車の新車開発で従来の2、3年の期間が1年に短縮されるとか、部品の購買が従来の系列によるtransparency(透明性)を欠いたcostの高い調達から、購買情報をcyberspaceを通じbidding(入札、競売)にもちこみ、つまり情報をすべての供給者に与えtransparencyを高めることで潜在的な供給を増やし、需給関係の変化によりcostを下げることが可能になるなどの、従来は経済学の教科書でしか実現しなかった「情報の効率化」により、革命的な経済効果、既存システムの崩壊、改革が生じている。
   特に、金融のような、その取引の本質が情報により構成され、物理的な取引が必要最小限に抑える事のできる事業においては、その社内においてアトム型の営業方法を固執する勢力と、デジタル型に営業方法を転換する必要性を自覚した勢力の意見の衝突が起きる。例えば、数ヶ月前に米国の有力金融会社のCEOが交替し、今では、米国を代表する証券会社や銀行、保険などの金融会社がそのwebsiteでe-commerceまで展開する激変ぶりが報告されている。また製造業では、日本の伝統的な現場主義が、デジタル化により敗北の憂き目にあっているにもかかわらず、日本の経営者は何も手を打てず、発想の転換の遅れる経営が問題視されている。

勝者は誰?

   この機会に、我々は、すべてのビジネスのやり方について、マーケッティング、知識の蓄積方法、その引き出し方法等などでこのcyber革命に対応できるか、今一度、吟味する必要があるのではないだろうか。
   現実に有りうる話かどうかは別にして、例えばアトム型の営業に固執せざるを得ない伝統的な大規模金融事業者を、金融事業をnetwork事業として割りきり最近時点で起業化したデジタル小規模金融事業者が買収し、伝統的な金融事業者がnetwork上にその事業を転換することを容易にすることが考えられる。そうした方法が取られた方が結果的に事業転換が早く進み、アトム型金融業者の延命に繋がる。少なくとも株価的にみれば、決して非現実的ではない、マーケット至上主義の立場からは、むしろ株式市場がこうした大型買収を期待していると言える。その走りとして、Wall streetでも兜町でも、多くの金融マンがデジタル情報産業へなだれをうって転職している。こうした現象は、金融ビジネスに限らず、従来型の情報産業、金融以外のサービス業、はては製造業でも起こりうることだ。日中合弁会社でも「ITオフィサー」を選任し、cyberspace上のビジネス拡大に対応する体制にないと、ある日突然、TOBをかけられる危険があるかもしれない。
   ともかく、cyberspaceとよく言ったもんだ。

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