何がおきてる?
中國經濟

         第六回

中国の国有企業改革と中小企業育成

在中国日本大使館 専門調査員 藤田 法子

  中国の国有企業はこれまで生産活動のみならず、多くの雇用を支えるほか、社会保障や学校・病院などの社会的機能も担ってきた。計画経済体制下の国有企業には経営自主権はなく、政府の計画に従って生産活動を行う単なる「工場」に過ぎなかった。硬直的な経営を行う国有企業は、自主性や創造性に欠けることから、改革開放の進展に伴い、ニーズの変化や外資系企業の進出、非国有企業の隆盛、経済のグローバル化による競争激化に対応できず、その優位性を失っていった。
  国有企業は工業生産部門ではシェアを低下させている(工業総生産に占める割合…七八年七十七・六%→九八年二十八・五%)が、基幹産業(エネルギー、インフラ部門)については依然圧倒的なシェアを占めるほか、財政、雇用の面でも重要な役割を担っていることから、国有企業の経営改善は重要な課題であり、これまでも企業経営自主権の拡大、経営請負制など様々な改革が試みられてきた。
  九三年の党十四期三中全会以降、中国では「現代企業制度」の確立を中心とする新しい国有企業改革が展開されている。企業組織の改革と同時に、学校、病院などの社会的機能の分離、膨大な余剰人員の削減・再配置、養老金(年金)、医療保険などの社会保障制度の整備も進められている。
  昨秋開かれた党十五期四中全会でも国有企業改革は主要テーマとして取り上げられた。会議で採択された決定は、国家がコントロールすべき産業を国家安全、自然独占、公共財・サービス提供、ハイテク産業の重要企業に絞る方向で国有資本の再編を行うことをうたっており、今後、国民経済における国有経済の比重低下は一層進むものと考えられる。
  こうしたなか、中国では経済成長の鈍化と国有企業改革の進展に伴い、雇用問題がクローズアップされてきた。九九年の都市部登記失業率は三・一%だが、九九年末で六五〇万人にのぼる国有企業のレイオフ労働者を含めると実質的な失業率は七〜八%と推測されている。雇用不安の増大に加え、政府が取り組んでいる社会保障制度整備、住宅制度改革(企業が低家賃住宅を社員に提供する制度を改め持ち家に切り替える)などの改革は、いずれも個人の負担を増加させる方向にあることから、市民の財布のひもは硬くなり、内需不振にさらに拍車をかける。
  政府は九八年より積極財政に転じ、固定資産投資等を通じて景気を押し上げるとともに、再就職サービスセンターの設置、失業保険制度・最低生活保障制度の整備を進めることで、雇用問題を解決したい考えだが決め手に欠ける。
  そこで雇用吸収の受け皿としてクローズアップされているのが、中小企業の育成である。中国の中小企業は、全体雇用の約八割を担っていることに加え、中小企業が経済の中心を占める台湾、シンガポール等において、アジア金融危機の影響が比較的軽微であったことから、政府は中小企業の重要性に着目、高い技術力をもつ中小企業の育成によって足腰の強い産業構造への転換を図ることとした。
  具体的には、国家経済貿易委員会(日本の通産省に相当)に中小企業問題を専門に取り扱う中小企業司(局)が新設されたほか、信用力に劣る中小企業に対して信用担保を提供する中小企業信用担保基金、中小企業技術開発基金の設立、技術型企業の創業を支援するインキュベータの設置、銀行における中小企業専門窓口の開設など、様々なメニューの施策が採られつつある。
  中小企業のなかでも最近は私有企業の成長が著しい。九九年三月の全国人民代表大会(日本の国会に相当)は憲法を修正し、私有経済の位置づけをそれまでの補完的役割から「重要な構成要素」へと大幅に引き上げた。今後、私有企業に対する業種制限、銀行貸出の国有企業との条件格差など様々な規制が撤廃され、自由な経済活動が可能になれば一層の発展が予想される。
  これまで日本企業が対中投資をする際、中国側のパートナーは政府の推薦により国有企業となることが多かったが、今後はこうした私有を含む中小企業の発展が期待され、要注目と言える。


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