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                      「チネリー」という男を「繙く」          櫻 井  澄 夫

   香港の島側、セントラルのフェリーのそばにマンダリンホテルという高級ホテルがある。今でこそいくつも立派なホテルができているが、かってこのホテルは島側で一番いいホテルと言われ、世界のホテルランキングでも上位を占めていた。
  そのマンダリンホテルの二階に、チネリー・バーという壁に何枚もの絵が掛かったバーがある。大きくないが、落ち着いたバーだった。「だった」というのは最近ちょっと雰囲気が変わったからだ。
  さてこのバーの名となったチネリーとは何のことだろうか。私も初めてこのバーの存在を知った二十年ほど前、「チネリー」に興味を持った。十数年前、香港にしばらく住むようになり、香港マカオ関係の古い絵画に関心を持ってからは、「チネリー」に対する興味は深まった。
  「チネリー」の本名は、ジョージ・チネリー(一七七四ー一八五二)、マカオに長く住んだイギリス人の画家である。チネリー・バーはこの画家に因んで名が付けられたバーなのだ。一般の日本人の間でよく知られた人物とは言えないだろうが、珠江デルタ地帯の各都市や人物を描く画家の一人として人気を博し、いまでも欧米人の間では相当の人気がある。最近、ウイリアム・シャング氏(「ジョージ・チネリーと同時代の画家たち」『しにか』二〇〇〇年四月号)や、中野美代子氏(「中国輸出画――チネリー派の画家たちと初期香港」『チャイナ・ヴィジュアル』河出書房新社)などで日本にも紹介され、見ていないが一九九六年には東京でチネリーの絵が初めて公開された(東京都庭園美術館)そうである。
  今、手に入るチネリーについての本としては、パトリック・コナー氏の『George  Chinnery』(Antique Collectors' Club)が一番いい。どういうわけか中野美代子氏はいくつものチネリーについての参考文献をあげているのに、この本については触れていない。しかしこの本がダントツにいい。香港の書店などではもっと前に出たロビン・ハッチョン氏の『Chinerry』(FormAsia)を一番見かける。欧米や香港で開催されたチネリーの絵画展のカタログには色々なものがあるが、変わったものではキャスリーン・オデルの『Chinnery in China』(John Murray・一九七一年)というチネリーを主人公にした小説や、この画家のモデルともなり、二人の関係を噂するものまであったハリエット・ロウの日記を娘のキャサリーン・ヒラードがまとめた『My Mother's Journal』(一九〇〇年)なども面白い。
  さて最近、香港やマカオの書店で『Macao Streets』(Oxford)という英文の本を見かけた方があるだろう。マカオの道路の歴史とその名称について書いたカラー写真付きの大判のきれいな本だ。英文のほかに中文の版(『澳門街』)がある。この本の中に「Rua Geroge Chinnery,George Chinnery Street」(中文では「千年利街」)というページがある。かってチネリーが住んだ場所の道路がそう呼ばれているのだ。この場所を尋ねると家は跡形もないが、丘の中腹にあり、西側の海岸と東側の海岸のどちらにも行きやすく、チネリーが盛んに描いた場所の中心にあるのがよくわかる。チネリーは亡くなる直前まで毎日のようにスケッチブックを持って朝からこのあたりを歩いたという。晩年は不遇で家族もそばになく、数人の友達に囲まれ亡くなったそうだ。
  チネリーは今、マカオの墓地に眠っている。

チネリーの肖像

  


筆者PROFILE       櫻井 澄夫 SAKURAI Sumio

   『北京かわら版』編集顧問。過去に、「中国でのクレジットカード」「北京カラオケ事情」「北京雑感」「北京の地名を歩く」「特別寄稿・毛沢東バッジの収集」「北京を愛した人」などを執筆。


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