日中MBA間の学術交流、交換留学                       中関村レポート(Z)

                                                        鹿児島県立短期大学教授
                                                  (北京大学光華管理学院訪問学者)

八杉哲


したたかな早稲田

  母校早稲田大学の奥島総長から、ある会合で、早稲田大学の改革について話を聞いた。大きくなりすぎた早稲田を改革していくのに相応しい、強力な個性をもった総長で、慶応が改革をはじめてから2、3年遅れで早稲田の改革が始まったが、この総長なら信頼できると感じた。私学であるが故に経営資源が限られており、それを乗り越えるために数々のアイディアを実行に移し資金のかからない改革にも取り組んでいる。その一つが、学内に多数の研究所設立を推進していることである。従来は教授の研究室で行なわれていた研究を、早稲田の中に有期限で研究所を作り、そこに移すことを奨励している(実際は看板を変えるだけ)。研究所にすれば、外部からその研究が見えやすくなり、研究資金を国庫補助や民間寄付から受けやすくなる効果を狙う。現在41の研究所が設立され、いずれ、「その中からノーベル賞ものの研究がでるかもしれない」という。大学側は研究費補助が軽減される(日経7月22日14版38面で取り上げられた)。また、研究教育機関にとって、海外との学術交流、留学生交換は研究や教育の高度化を実現する一つの手段であるが、この面でも、総長のアイディアが活かされている。「早稲田3万人学生のうち交換留学で海外に留学しているのは1000人に満たないが、これから交換留学を拡充し2000人、3000人の規模にしていく、海外からの留学生も、交換留学の充実で増加する、東大へ多くの留学生が来ているのは、文部省の要請で予算がつくからであり、交換留学生なら早稲田でも経費負担なしに留学生受け入れを増大させられる」。東大が国の大学予算の1割をもらっているなら、相当の国家資金を使用していると推測されるが(個別の国立大学への予算は公表されていない)、早稲田への国家補助はその1割にも満たない。だから学内に研究所を多数作るとか、交換留学の促進による留学生の増加など、金のかからない改革をも早稲田では推進しており、そこに日本の私学のしたたかさが現れている。

中国と日本のMBA

  経営管理者教育を行う有力な教育機関として、米国を発祥の地として100年の歴史をもつ、MBA(大学院経営管理修士課程)が存在するが、中国では91年に中国版MBAが中央政府主導で制度化され、不足する経営管理者の大量供給を目的に国の重要な教育機関として、その役割を果たしてきている。中国全土で56校の大学院がMBA教育を実施し、これまでに3000人が学位を取得、約12,000人が在籍している(98年末)。一方、日本では、大企業が戦後、終身雇用制度を採用し有名大学卒業者を社内で経営管理者に育成するシステムを採用し外部から経営管理技術を有する者を招聘する機会が少なかったことと、かって大学院は原則として研究者養成の機関として認識され、米国のようなロースクール、MBAという大学院レベルの職業教育を許容しなかったことが尾をひいて、本格的なMBA教育機関が遅々として育たず、今だプロダクトとしてのMBA卒業者を企業経営者として送りこむ役割は充分には発揮されていないが、ここに来て、主要大学ではMBAコースを設置し始めており、国立大学では神戸、一橋、筑波において社会人コースが、一橋、筑波で既存の経営学研究科を改組してフルタイムのMBAコースを開設(予定を含む)したり、私学では、日本で歴史の一番古い慶応義塾大学大学院経営管理研究科に続き、財界の支援を得た大学院大学の国際大学(新潟・浦佐)でのMBAや、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科のMBA等が日本の主要なMBAとして卒業生を徐々に輩出するに至っている。日本の雇用形態の変化に沿って日本のMBA取得者へのニーズは増大すると期待される

日中間MBAの交流

  そこで、早稲田のようなしたたかな日本の大学と中国のビジネススクールとの関係を更に強化して欲しいと願い、過日、北京大学のMBAコース教務担当の教授と私とで日本の主要MBAを回り学術、学生の交流をお願いしてきた。おそらく、日本の主要MBAのうち、数校と北京大学MBAとの交流が実現すると思われる。昨年11月に、国際的なセンスをお持ちの方が駐在代表(遺憾ながら慶応ご出身)をされている、ある日本の大企業が光華管理学院で学生教員対象に本社社長のspeech、継続的なフォーラムの開催等をされ内外で高く評価されたが、こうした企業からのMBA教育機関への支援とともに、日本のMBAとの学術交流、交換留学が進捗することで、中国MBA業界において、日本のプレゼンスも少しは高まるのではないかと期待する。光華管理学院では、この9月の新学期から英語で授業を行うinternational MBAを開講する予定であり、企業から派遣される留学生の留学先として注目される(外資系企業への幹部候補生供給も狙う)。日本に同行した上記北京大学MBA教授によれば、清華大学MBAコースでは朱匪基首相が学院長になっているとのことであり(伝聞であり確認はしていない)、中国政府が如何にMBAに力を入れているか解る。中国で事業展開する日本企業にとって、中国のMBAを利用しないてはない。

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