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「 普 通 」 を集める      

奈良大学教授 森田 憲司

  最近、台北のタウン情報誌に興味を持っている。具体的には、「HERE!」とか、「タイペイウォーカー」だ。北京でこの連載を読んでおられる皆さんが目にされる機会はあまりないだろうが、東京なら、東方書店などの店頭で売られている。

  筆者は、「ウォーカー」を定期購読する一方で、バックナンバー集めにもとりかかっている。「HERE!」の方は、まだ二冊ほどをチェックしただけだが、こちらも面白く読んでいる。

  ご存知の方も多いかと思うが、「HERE!」は台湾東販の、「ウォーカー」は台湾角川書店の発行だから、日本のタウン情報誌がモデルとなっている。とくに、「ウォーカー」の方は、タイトルからもわかるように、日本のそれとそっくりそのままにできあがっている。現地の出版社が出している情報誌も、昨年三月に行った時に書店の店頭で見 かけたが、その後は出かける機会が無いので、くわしくは知らない。

  ただし、こうした雑誌に見られる台湾の都市文化や若者文化について書こうというのが、今回の目的ではない。北京ではどうなのだろうかと思ったのだ。

  もちろん、『北京トコトコ』や『Be―Navi』があるし、欧文では、『Beijing This Month』があるが、これらは、在留の、あるいは観光客の外国人を対象としたもので、現地の人々を読者として発行されているものではない。

  都市としての北京における都市生活文化と、中産階層の形成が、こうした情報誌を必要とするまでには発達していないということはないと思うし、週休二日になって、余暇の消費のための情報も必要になると思うのだが、どうなのだろうか。

  もっとも、筆者が存在を知らないだけなのかもしれないので、もし、タウン情報誌が北京で出ていたら、お教えいただきたい。逃げ口上になって申しわけないが、今年になってから、北京に行きたくても行けない状況がずっと続いているので、徐々に情報が古びはじめてきている。

  では、なぜ情報誌に興味があるかというと、そこに記録されている「日常」への関心からだ。こうした若者向けの情報誌に盛りこまれているデータは、純粋な意味での「日常」を反映しているとは言えないにしても、都市に過ごす人々の関心と、現在とを伝えてくれていると思う。例えば、台湾のコンビニで売られているオニギリがどんなメニューで、いくらなのか、そんなことを伝えてくれる媒体は他にない。新聞やテレビが伝えてくれるのは、特殊で、面白いことだけだ。

  情報誌は、おそらくはそのほとんど全部が、時期が済めば処分されてしまうだろうが、そう遠くない将来においてすら、その記事は、「普通」の記録としての価値を持つと私は考える。普通のことほど分からないというのは、歴史をやっているとしばしば経験することだ。だからこそ、一生にわたって日常を日々書き綴った江戸時代の人の日記が、歴史資料として尊重されるのだ。

  この前の号に櫻井さんも紹介されていたように、私達は、北京に関わるあれこれを、それぞれの分野に経験をお持ちの方々に書いていただく本を作ろうとしている。その本のすべてではないが、一部には、今の北京に住む日本人の「普通」も、書き残されることを期待している。

  「普通」の、「今」の記録という事に関連して、最近では、北京に限らず、中国在留の日本人の方々のホームページやメールマガジンにも興味を持って、読むようにしている。そこにも、少なからず、日々の記録が蓄積され、その中には、おそらくは他の手段では将来に残されない可能性があるものも含まれていると思われるからだ。

  ホームページ作りが容易になった今、膨大な量の「日記」やその他の記録が、作成され消滅していっている。これが、これまでにはなかった歴史史料として、どのような位置付けをされていくのだろうか、と考えるのは、史料学でメシを食う身の性であろう。

タイペイで売られている「タイペイウォーカー」

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