北京雑感1993年8月号

日中学生会議に参加して

編集長 根箭芳紀

   八月八日、北京大学で開かれた「日中学生会議」に招かれた。会議には、日本から来た大学生と中国の大学生計100人が参加、討論テーマは“日中関係の現状と将来・風俗習慣の比較考察”との事。

   ところで、毎日新聞の網谷氏に日本側学生の幹事から、北京に居る日本人で基調報告のできる人を紹介してほしい、との依頼があったので、氏は親しい居酒屋の経営者T氏を推薦した。T氏は奥さんが中国の人であり、家庭内に日常的に「日中関係と風俗習慣」の問題が存在している、まさにこのテーマにぴったりの人選。ところがT氏は二日前に突然(どうも奥さんが止めたらしい)辞退、私にお鉢が廻って来た次第である。

   とりあえず日本側の学生に、これまでの経過を聞くと、相互理解を目的にこれまで七回交流して来たが、一方通行に終り勝ちで、うまく噛み合わない。今回のテーマも「日中関係」は中国側の提案で、日本側の「風俗習慣」に同意を得られなかったため、併記することにしたという。

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   これは難しい問題である。つまり中国側は交流の中で、日本側の意見を求めているのに、日本側は、相手を知ることを求めており、互に目的が異なっている。換言すれば、日本の学生は知り合いになることを目的と位置付けているのに、中国の学生は目的に合った知り合いを作ろうとしていることになる。

   以下は当日私の報告でも話したことであるが、経済交流だけを見ても、日本人と中国人の接し方は、この十年間で大きく変わってきたと思う。例えば、従来は貿易が主体で、机を間に入れて向い合わせに交渉することが多かったが、最近は合弁会社など現地法人を共同で経営する、つまり机に並んで坐って仕事をするケースが増えてきた。そこで向い合わせの場合は、互に下半身は見なくてよいが、並んで坐ると、相手に見せたくない(見たくない)下半身まで互に見えることになる。従ってこれまでのような表面的な“友好関係”のみでは仕事が出来ないので、違いの認識をも含めた相互理解が必要となる。(通訳の女性が「下半身」を訳すとき、真赤になってなかなか通訳してくれないので困ったが、話の主旨はよく伝わったらしく、好評であった)

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   余談であるが、午後のグループ討論の時、私の参加したグループで、一人の中国の学生が、日本人は中国人に対し優越感を持っているのではないか、との発言があった。この問題も、日中間に横たわる解決すべきテーマであるが、日本側の学生は普段考えたことが無かったらしく、「自分は持っているつもりは無い」式の発言に終わったのは少し残念であった。

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