北京雑感1993年9月号

これからの日中関係について

編集長 根箭芳紀

   最近、中国や韓国を始めとするアジア各国の、日本に対する評価が未来志向型に変化してきたように感じられます。原因はいろいろありますが、最大の原因は、アジア各国が自力を付けてきたことだと思います。

   アジア各国が日本との関係を、未来志向型に切り替え始めたことは、日本の過去にこだわるよりも、現在の日本の能力を活用する方向を選んだことを物語っています。これは過去が免罪された訳ではないが、お互いに新しい関係を作り出すべき時期が来たと理解すべきでしょう。

   細川首相の就任演説は、アジア各国から概ね評価されたようですが、具体的なアジア外交については、まだ明確ではありません。かつて日本がアジアに描いた青写真は“大東亜共栄圏”として知られていますが、それが失敗した原因について明らかにすることが、今後のアジア外交の出発点になるべきではないでしょうか。そしてその答えは、日本がアジア各国と政府間はもとより民間に至るまで、イーコールパートナー(対等の仲間)の関係を樹立する事だと思います。

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   戦後の日中間の経済交流は、日中友好を前提に、平等互恵・有無相通を原則として開始され、一九七二年の国交正常化、七八年の平和条約締結を経て今日に至りました。そして昨年は国交正常化二十周年を、今年は平和友好条約十五周年を迎え、いよいよ未来志向型のビジネスを展開できる条件が整ってきたわけですが、この条件を満たすにはまだ幾つかの克服すべき課題が有るようです。

   一つは、友好とビジネスを混同する傾向です。友好がベースであることは変わりませんが、今後は、ビジネスはビジネスとして割り切った考え方を、日中双方に定着させる必要があります。そうすれば、商売なのか寄付行為なのか不明確な契約を減らすことが出来るのではないかと思います。

   もう一つ気になるのは、お互いが相手に抱く優越感や劣等感の問題です。これらは風俗習慣の違いから来る単純な場合から、歴史や経済力に根ざす深いものまで様々です。この問題を解決するのは、お互いの自己努力以外にないわけですが、しかし合弁会社のように日中双方が共同して一つの会社を経営するような場合は、この問題への対処が非常に大切です。

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   逆説めきますが、自己の利益にとことんこだわることが、課題の解決方法だと思います。つまり本当に自己の利益を守ろうとすれば、相手の利益や感情を考慮せざるを得ませんし、客観的に相手を掌握する努力を怠ることは出来ません。“曖昧な道徳家ではなく、徹底した功利主義者でなければならない。しかる時に初めて真の親善が生まれ、我々の利益がその中に図られる”との故石橋湛山氏の言葉がありますが、イーコールパートナーの関係を見事に言い表しています。日常の中国のビジネスのなかでも、なんとかこの姿勢を身に付けたいものです。

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