北京雑感1995年2月号

阪神大震災と北京駐在の安全

編集長 根箭芳紀

   今年の日本は、正月明け早々に阪神大震災に見舞れ、数多くの生命と財産が失われました。読者の中にも、肉親や友人が被災された人があると思いますが、心からお見舞い申し上げます。
   かくいう私も、自宅が大阪府と兵庫県の境にある豊中市にあり、たまたま帰っていましたので、千年に一度の大地震を体験いたしました。幸い私の自宅は、茶碗が割れた程度で済みましたが、西宮市の夙川に住んでいる親戚の家は全壊しましたので、私も二日程現場を見舞いました。

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   ところで今度の地震が、仮に北京で発生した場合を想像して比較してみますと、倒壊する建物の数は北京の方が圧倒的に多いと思います。但し火災の被害は、北京は木造の建物が少ないことと道路巾が充分あることを考えると、ずっと少ないでしょう。

   死者や怪我人の数は、1976年の唐山市の直下型地震の死者が24万人だった事を考えると、北京の建築水準が当時より進んだとはいえ、生埋めになる人は、阪神より桁違いに多くなるのではないでしょうか。

   しかし、政府や自治体の救助活動については、北京の方が格段にしっかりしていると思います。日本の行政機関は、日常の住民サービスについては、丁寧すぎるくらい熱心ですが、非常時に必要な超法規的決断力は備わっていないので、今回の地震でも最初の2〜3日は茫然自失の状態で、救援策を立てる貴重な時間を浪費しています。これに対して、中国の政府や自治体は、行政サービスより行政管理を行う体質が強く、また、超法規的決定も、共産党の一元指導で直ぐ出せるので、直ちに組織的な救援活動を始めることができます。現に唐山地震の時も、当時の華国鋒主席が即刻陣頭に立って、救助活動を指揮していました。

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   北京に住む私達にとっても、災害は無関係というわけにはいきません。地震でなくても、水道や電気がとまり、電話も使えないという事態に遭遇する可能性は無いとは云いきれませんから、貴重品の保管場所や一定の食糧・水のストックなどについて注意しておくべきだと思います。
   現在、北京には日本企業の仕事の為の組織=中国日本人商工会議所と、北京に住む日本人の為の組織=北京日本人会があります。仮に北京で何らかの災害や危険な情況が発生した場合、中国の行政当局の救助を待つだけでは不充分で、必ず日本企業や日本人が自助努力により情況を改善する必要が生じます。具体的には、大使館と商工会議所、日本人会が互いに協力し対処する事になるでしょう。従って、そのような認識を前提とした協力体制を、日常的に備えておくことが大切だと考える次第です。

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