北京雑感1995年6月号

「中国人について」
“孝”は生きているが、仕事は個人主義

編集長 根箭芳紀

   仕事柄、日本人から『中国人はどんな人間ですか?』とか、『中国人は信用できますか?』といった質問を受ける事がよくあります。しかし、12億もいて、しかも多民族国家に住む中国人を一言で言い表すことは、いくら中国に長く住んでいても、容易な事ではありません。とはいえ、この問題に興味を持たれる方も多いと思いますので、私がよくお話しする内容を何回かに分けてご紹介します。

   生活面で、家庭を大切にする習慣は生きていますが、仕事の世界では、一匹狼の集団です。合弁会社の経営で、日本人が必ずと言ってもよいほど悩むのは、従業員のチームワークの難しさです。例えば、課長二人を呼んで、『明日までにこの問題の解決策を、二人で相談して決めよ』と指示したところ、翌日の夕方になってもどちらもなにも言ってこない。そこでA課長の所に行って追求すると、『B課長が来ないから、相談できなかった』との答え。次にB課長を詰問すると、『A課長が来なかったから』と言う具合です。別の例で言うと、給与額を隠す習慣はありませんから、誰が幾ら貰ったかは、その日のうちに全員が知っている。そこで翌日になると、『自分の方が彼より良く働いているのに、なんで金額が同じなの?』といった、苦情の嵐に見舞われる事になります。ところで、中国の人々にとって給料の金額は大切な情報で、お互いに金額を教え合って、少しでも高いところがあれば、素早く転職するのが、能力有る人間の生き方だということになっています。

   日本人は、会社に対する“忠”の意識が強く、まるで会社を家のように考える事ができますが、中国人は、家に対する“孝”は習慣化して残っていますが、会社や国に対する“忠”の概念は希薄ですから、日本人と同じ考え方を期待することは出来ません。つまり、中国では会社は人生の目的ではなく、生活の糧を得るための手段だという考え方が、非常にはっきりしているわけです。しかも、転職率が非常に高いわけですから、現地で経営する日本人の管理者は、人事管理に関しては日本の方式を全て忘れて、現地式の方法を開発しなければ、現地法人の経営に大成功は望めません。

   “日本式”では絶対に止めた方がよいのは、“信頼してまかせる”式の精神的な管理方法です。中国の人は、「信頼してまかされた以上、自分のやり方でやってよいのだ」と解釈しますから、こちらの期待からほど遠い結果が出るのはむしろ当然です。やはり少々めんどうでも、相手の仕事の範囲、その手順を明確に定め、同時に、査定基準を決めて、賞罰をはっきり行う、合理的な管理方法を考えるしかありません。

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