黒騎士の訓辞
騎士見習いに語るには

    貴方は誰ですか
       私はウィスコント家の黒騎士、”黒きランスの”リチャード。我が大叔父エドワードは エシルリスト卿と共にミスラル山脈を越えた四十二騎の一人である。
       私の役目はお前の様な自由騎士として出立する騎士見習いに黒騎士としての心得を教育する 事だ。

    世界はどのようにして生まれたのでしょう
       そのような事に関してはマルキオンの聖典を読むがいい。
       しかし、そこに如何なる真実を見いだせるか否かはお前の資質次第である。
       一つだけお前に教えておくなら、闇は目をそらしても必ず其処に在る事を 知れ。と言う事だ。

    人は何処から来て何処へ行...
       えぇい、その様な事は神学者共に聞くが良いと言うたであろうに。
       私がお前に示してやるのは黒騎士となる為にはどのように生きるべきかと言う事だ。

    では、黒騎士とは何なのでしょう
       うむ、黒騎士とは深淵なる闇を覗き込む者だ。
       我らは暗黒を知りつつ、その恐怖に挫けぬ者だ。
       名誉と忠誠を重んじる騎士であり、暗黒の魔道に長けた魔道師でもある。
       エシルリスト卿に忠誠を誓い、婦人を助け、臣民を外敵から守らなくてはならない。 しかし、必要とあらば我らは非情の騎士、暗黒の権化と化してこの世界に地獄の片鱗を 垣間見させる事もする。これは思慮深く行われねばならない。何故なら最も危険なのは 統制を欠いた力だからだ。
       いずれはお前もお前の父の暗黒剣を履く事になるだろう。

    暗黒剣とは何でしょう
       鉄と闇の金属である鉛を秘義によって鍛え上げた合金、黒鋼の剣。それが暗黒剣だ。
       暗黒剣を履くと言う事は黒騎士として闇に相対するだけの術と強さを身につけた証で ある。
       闇に対する強さとは、暗黒の恐怖に呑み込まれ無い事、そしてそれを拒絶しない事 である。
       闇に対する術とは、恐怖を麻痺させる事ではなく、ただ単に恐怖を受け入れる事 でも無い。それはお前自身がこれからの旅で起こる事から、身をもって見いださねば ならない。

    闇とはなんでしょう
       世界は闇の中から生まれた。そしてやがて光があらわれた。光がある限り影は いつも存在する。
       昼の次に夜が来るように物事には必ず二面性というものがあるのだ。
       お前が何かを見た時、その物は見た通りの物では無いかもしれぬ。本質を 知ろうとすれば、常に物事の暗黒面について考えを巡らさねばならない。
       お前の安穏とした少年期は今、終わりを告げたのだ。

    暗黒魔道とはなんでしょう
       エシルリスト卿が偉大なる地界へのクエストより持ち帰った秘義だ。
       我らはマルキオンの信徒であり、アーカットを聖人として奉じる暗黒異端派であるが、 この秘義を知るのは我ら黒騎士だけである。
       無用に暗黒魔道を余所者の目の前で用いる無かれ。彼らは無知故に闇を恐れ忌み嫌う。 もっとも、ドラゴン・パスの蛮人達は魔道そのものに警戒心を抱いていおるがな。
       勿論、お前の敵に対しては暗黒の業を用いて徹底的に打ちのめすのだ。
       外の世界へ出ていくお前が、志半ばにして倒れる様なことがあっても暗黒魔道の 秘密は守らなくてはならない。これは闇に魅入られるかもしれぬ、か弱き者共の為で もある。

    外の世界で出会う者をどう扱えば良いのでしょう
       まずトロウル。この闇の種族の中には我らの暗黒の業を快くは思っていない者もいる。 人が闇に通じる事を恐れているのだ。しかし、彼奴めらは我らの闇の力に抗う術も知って おり、また屈強の戦士でもある。無用の闘いは避けるにこした事は無いだろう。

       次にドワーフ達。かの魔道に通じた侏儒共は我らの黒鋼を不浄なる物と決めつけて いる。そのくせ知識欲に溢れたこの職工達は黒鋼の秘密をどうにかしてお前から 引き出そうとするだろう。彼らと取引をする時はよくよく注意することだ。

       ルナーの帝国は混沌を是とする不浄の輩共だ。かつて暗黒に精通した聖人アーカット がそうした様に混沌は粛清されねばならない。しかし、大多数の帝国民は日々の生活に おわれる只の市井の者共でしかない。卿の下した賢明な判断の様に地上にて日常を 生きる者としての現実的な選択を忘れる無かれ。

       グレイズランドに住むポニー飼い達。かの小さき馬に乗る遊牧民達は、太陽を崇め 炎の魔術を用いる。もし、お前が悪魔の馬を手に入れる事があれば彼らの炎には気を つける事だ。

       嵐を崇める蛮人達。彼らは世界法則を知らぬ無知なる者である。彼らは無駄な慣習と 信仰に縛られているが、彼らには彼らなりの名誉も美徳もあるのだと言う事を知らね ばならぬ。

       最後にドラゴニュート。この半ば竜である奇妙な生き物は、我らと同じ世界に生きながら 異なる法則に従っておる。竜の理は我らにはとうてい理解出来るものでは無く 、我らには大した価値も無いものだ。彼らには関わろうとしない事だな。

    外の世界の者達が崇めるという神々について教えて下さい
      イェルムは?
       イェルムとは天宮を駆ける陽に付けられた記号である。
       かの神の信者達は彼を高潔なる炎、光の皇帝と捉えているが、陽は一日の半分は地界に在る。
       この様に陽にすら闇の側面はあるものなのだ。

      オーランスは?
       オーランスとは蛮人達の神で擬人化された暴風の力、黒雲を伴い世界に闇を呼んだ者で ある。彼は暴力と混乱の源であるが世界に夜をもたらす為に必然とされた法則であろう。
       オーランスは最初に世界を暗黒に染め上げ、やがて陽をもたらした。かくて、世界は 現在の様に機能し始めたのだ。

      カイガー・リートールは?
       陽に追われて黄泉路を辿り地上に昇った闇。それがこのトロウルの神だ。
       凡庸な人が触れるには余りに深い永劫の闇ではあるが、我らは必要以上に恐れる事は なく、また侮る事もない。

      混沌は?
       混沌は闇以前の世界、秩序無き力だ。正でも負でもなく無ですらない。 忌むべきこれらの現象は世界法則を乱すものだ。
       我らは闇の力をもってしてこれを退けねばならない。

(3,feb.'00)


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      参考資料:グローランサより「はじめに読んで下さい!」(芥obby Japan)他