突然の雨に追われながら、身を隠せるような
場所を探し、2人走った。
「だいぶ濡れちゃったね」
飛び込んだ古い大木の下で息を切らしながら
それでも妙に楽しそうに笑って愁一が言う。
「まぁ夕立だろうしな。しばらくしたらすぐ
 上がるだろ」
天を見上げながら、瑛里が呟く。
――沈黙に、雨音だけが耳に届く。
空から落とされる雫は地面に叩き付けられて
派手な音を立てているというのに、静寂という
名が似合う気がするのはなぜだろう。
水のカーテンに遮断された、1つの空間が
そこに出来ている。
「…寒くないか」
「ん、大丈夫」
答えた愁一の頬に、軽く瑛里の手が触れる。
「…嘘つけよ、こんなに冷たくなってるくせに。
 体がちっせぇんだからすぐ冷えるだろお前。
 もしこれで風邪ひいたりしたら、一体誰が
 面倒見なきゃいけないと思ってんだ」
優しくはない言葉の中に垣間見える気遣いが、
愁一には嬉しい。
「だって…由貴だって寒いのは同じじゃん?」
「…じゃあ、お互いに温まれる事でもするか?」
悪戯ぽく瑛里が笑む。こういう表情をする時の
瑛里を変に刺激してはいけないという事を、
経験上、愁一は既に承知している。
「あ、温まれることって、な、何かな〜…」
微かに顔を赤くする愁一を瑛里が見逃す筈も
無く、瑛里はますます加虐的な笑みを浮かべた。
「さぁ?なんだろうな?」
そう言った刹那には、愁一は樹を背に身動きが
取れないように固定されていた。
影が下りてくる。
ゆっくりと重ねられた唇は、やはりいつもの
温度じゃない。
「由貴だって…冷たいじゃん…」
でも割って入ってくる舌の熱さはいつもと同じ。
合間に吐かれる息も。心までもが。変わらない。
「…んぅ…はぁ…っ」
強く押し付けられても、背中の「壁」以上には
下がれない身体にいつもよりも更に深く絡み合う。
お互いの持つ「熱」を感じ合いながら―――。

浄化された大気に、2人の温度だけが伝わる。
既に雨は止み、一筋の光だけが雲の隙間から
地上に零れ落ちていた…。


■2001.8.23
 75000HITの瑛×愁。珍しくプチ小説なんかをつけてみました。
 ↑これ、瑛里さんの表情が結構好きですね。