ロシア文学を読もうトップページへバックナンバーの目次へ




ロシア文学を読もう 4号(2000年12月)

ロシア文学を読もう」は
群像社を支援する愛読者が発行する
オンライン版フリーペーパーです。
 

  もうすぐクリスマスです。
というわけで、今回の号は……

 ロシアのクリスマス (ロジェストヴォー)

  ロシアの冬。
 季がめぐるごと白い綿帽子を被り、
 幾世紀も同じたたずまいを見せてきたであろう街。
 ところがどうだろう。
 この本でシメリョフが描くような
 こんな見事な市だけは、
 今じゃもうたつことはあるまい。

 樅の木の枝に下がる飾りも
 口に運こばれるご馳走も、
 百年の間には
 ずいぶん様変わりしたものだ。

 ロシア正教のクリスマスは1月7日。
 この日から17日の聖ヨハネの神現祭までが
 スヴャートキと呼ばれるクリスマス・シーズン、
 またの名を
 「聖なる夜、恐ろしい夜」。

 そこはそれ、
 わが母なるルーシは、
 いつ何時も闇とは袂を分かたず。
 喜びに火照っていた乙女の顔も、
 夜ともなれば「こっくりさん」よろしく、
 鏡と蝋燭を手に魔物と交信し、
 未来の夫を占わんと
 期待とおののきに満ちる。
 聖と俗、明と暗とが混在する。
 それもまた
 ロシアのクリスマスなのだ。

  ここに収められた十三篇は、いずれも
 革命前のロシアを彩る
 クリスマスの物話。
 さすればほとんどが
 亡命作家の筆による。
 永遠に故郷と分かたれた
 彼らの脳裏に、
 マロースに冴え冴えと輝く
 クリスマスの美しい絵姿は、
 生き生きと蘇ったに違いない。
 冬が巡ってくるたびに…
 やがてその記憶はより輝きを増し、
 こうして紙の上に踊りでたのだ。

  ダイヤモンド・ダストに煙る
 幻想的な冬景色。
 白銀に香るいにしえの恋、
 あっと驚く奇談、
 小さき者の物語…
 寒い国から届いた
 心を温めてくれる贈り物。

                 (利府佳名子)        戻る↑
 

   
 ロシアのクリスマス物語」収録作品
 
 

 シメリョフ       クリスマス
 テフィ         ザリガニの鳴いたときに―クリスマスの怪談―
 ブーニン       イーダ
 ゾシチェンコ     クリスマス物語
 ナボコフ       クリスマス
 チョールヌイ     ヨールカ祭の森の精
 ドストエフスキイ   キリストのヨールカ祭に招かれた少年
 ソログープ      雪娘
 グリーン       父と娘の新年の祝日
 クプリーン      車両長―これぞまことのクリスマス物語―
 チェーホフ      クリスマス・シーズンに
 ワグネル      うすのろ―過ぎし昔のクリスマス物語―
 レスコフ       真珠のネックレス
 
 
 

ちょっと立ち読み、してみましょう
 

  シメリョフ クリスマス

   モスクワには
  馬 広場(コンナヤ)という名前の広場があってな、
  クリスマス前にはそこで馬市が開かれるんだ。
  わいわい、がやがや賑やかでね。

  (…略…)

  広場は馬橇に埋め尽くされる。
  何千台もの橇がずらりと並んでいるんだよ。
  凍った豚が丸太のようにごろごろ転がしてある、
  一キロにもわたってね。

  (…略…)

  また大桶もおいてある。とても大きな桶で、
  そうだな…部屋くらいはあるな、たぶん。
  中身は豚の塩漬け肉だ。

  (…略…)

  肉屋は斧で豚肉をぶった切っていたものだ。

  (…略…)

  豚の前には子豚の列がずらりと一キロ。
  で、あっちのほうじゃ、ガチョウや、鶏や、
  アヒルや、
  耳の遠いクロライチョウや、エゾライチョウを、
  橇に載せたままで売っている。
  それも秤も使わずに、
  おおざっぱに一羽売りでね。
  広いんだなあ、ロシアは。

  (…略…)

   クリスマスの前には、三日ほど前には、
  市場や広場は樅の木の森と化してしまうんだ。
  その樅の木の素晴らしいことといったら!
  ロシアには
  このお宝は無尽蔵だ。
  こっちの樅の木とは大違い。
  こんな棒杭みたいなんじゃあないんだよ。
  私たちの故国の樅の木は…
  温められると、
  手足を伸ばすんだよ…
  密林にもなるわけさ。ボリショイ劇場前広場には
  樅の木の森ができてしまっていたものさ。
 

 ……というわけで、つづきは買って読みましょう        戻る↑
 

でも、シメリョフって誰? という方に…

シメリョフ(1873―1950)

 モスクワの中流商家に生まれる。
信仰心篤い家庭環境、
幼い日に中庭にこだましていた職人言葉、
野卑で生き生きした民衆の語り口が、
未来の作家の言語世界を形作った。
 
 ひとり息子が白衛軍で殉死し、
身悶えするほどの悲しみのなかから
長編「死せる太陽」が生まれる。

亡命先のパリで幼い日々を回想した
「主の歳時記」、「巡礼」は
最近になってようやくロシアでも
陽の目を見るところとなった。
革命前のモスクワの市井と
信者の心情の細やかな描写は、
「失われた聖なるロシア」時代を語る貴重な本として、
多くの作家、読者に
驚きをもって読まれている。


 もう買って読んで幸せになった方からは、
 こんな便りが…

ロシアのクリスマス物語」との出会い
                東京都 石原多香子        戻る↑

  3年前の秋、私は
 仕事でモスクワに行く機会があり、
 初めてロシアを訪ねました。

  9月というのに、
 大変に冷え込む日もありました。
 書店で「ロシアのクリスマス物語」を目にした時、
 クリスマスの頃、真冬のロシアは
 どんなに寒いことだろうか
 と思いました。

  その期待は裏切られることなく、
 この短編集で厳寒を越える、
 酷寒(マロース)
 という言葉を知りました。
 それぞれの作家が
 マロースを巧みに描写していて、
 ロシアならではの
 季節感を堪能しました。

  しかし胸を打ったのは、
 凍てつく寒さに対して、物語は
 人の暖かさに満ちていることです。
 例えばソログープの「雪娘」の、
 雪が積もった庭で人形をつくる幼い姉妹や、
 ワグネルの作品に登場する
 「うすのろ」と呼ばれる小作人。
 その純粋な心が
 ファンタスティックに話を展開させていて、
 一編読み終わる度に、
 灯を差し出されたような
 思いがしました。

  ロシアは今、
 混沌とした状況にあると思いますが、
 クリスマスの風俗や精神が
 豊かに表現されている文学があり、
 読み継がれていることに、
 ロシアの人たちの
 重厚さを感じます。
 私にとって、
 心にクリスマスプレゼントをもらったような
 一冊でした。
 
 
 

   編集後記
 

■ 人は何がきっかけで
  一冊の本を手にとるのだろう。
  情報だ、ITだ、とかしましい世の中。
  そのくせ本屋の棚に
  読みたい本はなかなかない。

■ 若い頃、友人のこの一言、
  「この本、おもしろかった」は
  何より効き目があった。
  ロシアではその科白をよく聞いた。
  「この本良かった、あげる。きっと気に入るよ」
  差し出された本は
  いつも的を得ていた。

■ これ、という一冊をすすめること、
  本を贈ること、
  相手のことを本当に知らなければ、
  相手に本当に理解されていなければ、
  できないことかもしれない。 

■ 最近あなたは本を贈られましたか? 
  誰かに本を贈りましたか?    
                       (利府) 

編集部から  

     「ロシア文学を読もう」第4号をお読みになったご意見、ご感想を
「読もう」編集部までどうぞお寄せください。
また、群像社の本や好きな作家についての文も募集しております。
    「読もう」編集部 yomo@gunzosha.com

「ロシア文学を読もう」は群像社の愛読者が
非営利目的で発行する電子フリーペーパーです。
読者と出版社をつなぐ新しい形を模索していきたいと思っています。
                                                                                                            戻る↑