ポクロフカ劇場の 「検察官」  「三人姉妹」  「結婚」 
 
 

検察官

抱腹絶倒。エロティックでナンセンスで、グロテスクな絶品。ゴーゴリの「検察官」

ロシアの地方の町を舞台にしたゴーゴリの名作喜劇。白黒ストライプ模様のブロックが転がっているだけの空舞台。中央の扉から、男がふらつきながら現れる。これがアルツィバーシェフ演じる市長である。そこへ、酔いつぶれた男たちが運び込まれ床に投げ落とされる。この町の名士たちだ。一見美容院風あるいは会員制クラブ風場面の中で、舞台は進んでいく。

戸惑いながらも予期せぬ待遇に、たらふく飲み食いし、自慢話をまくしたてるフレスタコフの天真欄漫な、アクロバティックなはしゃぎぶりに、観客は大喜び。競ってフレスタコフに接近する市長の妻と娘を手玉に取ろうとするフレスタコフ。エロティックな遊びを散りばめた演出でありながら、下品に堕さないのは、アルツィバーシェフならではの力量と言う他ない。フレスタコフを小心ながらお調子者で、天真燗漫な若者に徹しさせているところが、ここの喜劇の抱腹絶倒ぶりを一層際立たせている。フレスタコフと下男のオシップ。この二人の奇妙なコンビネーションのおかしさは、アルツィバーシェフ演出のユニークな見せ所の一つである。

一家にもたらされるはずの栄華を思い、夢見心地の市長一家。すると三人の背後に、きらびやかな礼服姿で群がる紳士・淑女を描いた書き割りが下りてくる。憲兵が登場し、本物の検察官が到着したことを告げると、そのとたん、書き割りが……。エンタテインメント性に溢れ、最後の最後まで意表を突き続けるアルツィバーシェフの演出に、観客は引き込まれ、歓喜の声を上げる。
 

三人姉妹

演出の魔術で現代に甦ったチェーホフの傑作。アルツィバーシェフ芸術の原点「三人姉妹」

ポクロフカ劇場の旗揚げに上演された作品。舞台上には、白いテーブル・クロスを掛けた長テーブルが置かれ、その上にはグラスや皿が並び、ローソクが立ち、花が飾ってある。登場人物の男女が交わす会話とその間合い、リアルな発声。この劇が、「古典」ではなく、心憎いまでの演技力をもって展開されるに違いないという予感を確信させられる。観客は彼らに、同時代人としての親近感と実は彼らが百年前の帝政ロシア末期に生きた人物たちだったという哀惜の両方を胸に抱きながら、この劇を見守っていくことになる。やがて、誕生パーティが賑やかに始まると、ここで驚くべきことが起こる。なんと、観客20余人もがテーブルに誘われ、登場人物たちに混り、「ハッピー・バースデイ」を合唱し、乾杯するのだ。

仮装踊りの夜、再び客たちが集まって来る。すると突然、火災警報が鳴り始め、客間は赤い照明で満たされる。1年余り後のシーンに移ったのだ。テーブルは運び去られ、立方体の箱が置かれた舞台では、災害救助と家庭内のイザコザが現代的仕草で展開されていく。マーシャとヴェルシーニンの別れのシーンが深い感動を呼ぶ。やがて、平々凡々の生活の中に残されるプローゾロフ家の人々。寄り添い立つ三人姉妹の「生きていかなければ……」の台詞も決して大仰には語られない。それは等身大の我々自身なのだから、祈るような希望のつぶやきなのだから……。アルツィバーシェフはこの戯曲を、同時代性と親密さに溢れた、流れるような芝居に仕上げた。
 
 

結婚

ロシアの大地が生んだ愛すべき人間たちのパフォーマンス。ゴーゴリ会心の喜劇「結婚」

薄暗い舞台。主人公のポドコリョーシンが、独身生活のわびしさを一人愚痴っている。一方、なんとか彼を結婚させたい親友のコチカリョフは、仲人おばさんのフョークラに頼んで、見合いの約束を取りつける。場面は、未婚の娘アガーフィヤの客間へと移るが、ここで、妙なるハーモニーと共に、ギターやバヤンを抱え、ノスタルジックなロシアの農民風民族衣装を着た若い男女数人が「月あかり」を歌いながら登場。この芝居では、戯曲にはないアンサンブルが、芝居を見守ったり、舞台転換を担ったりする。やがて、アガーフィヤの家にはフョークラが集めた5人の花婿候補の男たちが次々と到着。長椅子に一列に並んで待たされる。彼らはひとりづつ自己紹介をしながら、自分を売り込むため、パフォーマンスを繰り広げるが、この懸命な奮闘ぶりが切なくも滑稽で、涙がこぼれるほどおかしい。郷愁を誘うロシアの大道芸のようであり、また、日本の「竹取り物語」がふと思い出される。

その夜、三面鏡の前でひとり思い悩むアガーフィヤ。すると、ロウソクの灯りに映し出されるようにして、鏡の中に、男たちの顔がひとりひとり浮かび上がる。コチカリョフは、彼女をそそのかし、ポドコリョーシンとの結婚を承知させる。なんとかプロポーズするポドコリョーシン。恥じらいながらも承知するアガーフィヤ。それでも、ポドコリョーシンは、落ち着かない「結婚するのも悪くないが独身の気儘さを手放すのは惜しい」優柔不断だった彼が初めて自分でとった行動―それは…。
 
 
 

このページの掲載物は「ロシア演劇2002」(2001年2月22日発行)によります。

 

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2001年ポクロフカ劇場来日公演プログラムより
ポクロフカ劇場「検察官」の一場面
 
 
 

2001年ポクロフカ劇場来日公演プログラムより
ポクロフカ劇場「結婚」の一場面