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「巨匠とマルガリータ」のめくるめく世界

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2003年5-6月
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   ボリス・エイフマンのバレエ「巨匠とマルガリータ」

バレエ『巨匠とマルガリータ』の舞台より
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 バレエ『巨匠とマルガリータ』の舞台より

 

 エイフマンは現在ロシアのモダン・バレエの旗手として世界的に活躍しているが、1977年に自分のモダン・バレエのカンパニーを結成し、長年検閲や資金難などの様々な問題に苦しみ続けた後、今日のように大ブレイクするきっかけとなったのが、1987年発表のバレエ「巨匠とマルガリータ」だった。 

エイフマンの作品は文学作品を基盤にすることが多いが、その際彼は、説明的に筋を追ってゆくのではなく、作品に含まれる思想、感情、精神だけを抽出し、それを舞踊で表現する。物語を説明しようとすることは、舞踊の表現力を殺すことになることを熟知しているからである。しかも、このような手法を取りながらも、彼の作品は常に一つのドラマティックなバレエとして完結している。台本作家としての優れた手腕が、それを可能にしているのである。 

「巨匠とマルガリータ」の場合、小説ではブルガーコフの生きた1930年代のモスクワと2000年前のエルサレムという二つの時空が存在するが、エイフマンのバレエではさらに、彼がこのバレエを創作した1980年代のソヴィエト――つまり検閲に苦しめられた彼自身を含めた芸術家達の生きた社会が、30年代と表裏一体をなして存在している。1930年代(=80年代)と2000年前のエルサレムという場面の二重構造は、光の当て方を変えることによって、時折一つに重なり合い、また離れてゆく。精神的に磔にされた巨匠(それは80年代の人々をも代表する)が舞台では実際に十字架に架けられ、その後巨匠とキリストが十字架の上で入れ替わることにより、場面はスムーズにエルサレムの処刑へと移ってゆく。このように二重構造に時折真上から光を当てて二つの場面をぴったり重ね合わせることにより、エイフマンは、原作の複雑な物語から抽出した二本のストーリーラインを、さらに一本の意識の流れに集約させている。それは抑圧された苦悩に始まり、苦悩からの解放という結末へ向かって進んで行く。時空を越えて共存する登場人物達は全て、その意識の流れを身体表現の音楽にして奏でる楽器となり、観客に苦悩や喜びのメロディーを聞かせる役目を負って存在している。抑圧された状態が、盲目聾唖の病人達の徘徊するモスクワとして表現された後に、突然十字架を背負うキリストとローマ軍団兵の場面に受け継がれていっても、バレエの展開に断絶が生まれないのはそのためである。 

エイフマンはこうして意識の流れを取り出すことによって、複雑な構造をもち場面がめまぐるしく展開するこの長編小説を、コンパクトに凝縮された緊迫感あふれるバレエにまとめ上げることに成功したのだった。このような創作法は、原作に力強いテーマがあってこそ大きな成功を収める。ブルガーコフの小説がエイフマンにいかに大きなインスピレーションを与えていたかは言うまでもないだろう。  

(村山久美子  東京外国語大学非常勤講師/舞踊評論家) 
 
 
 

 

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 バレエ『巨匠とマルガリータ』の舞台より