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オンライン版「ロシア文学を読もう」

「巨匠とマルガリータ」のめくるめく世界

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2002年4月8日訂正

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   「巨匠とマルガリータ」の訳者からひとこと

『巨匠とマルガリータ』の全編を朗読したCD
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 ノヴォジェーヴィチイ修道院にあるブルガーコフの墓

 

ブルガーコフのモスクワ、ちょっとだけ
「ああ、そういうことなら、当然、新しい建物を建てねばなるまい」
「建てられますとも、閣下」
(『巨匠とマルガリータ』第28章より)
 

再建されて間もない救世主キリスト教会の金色に輝く巨大な丸屋根を眺めていると、ヴォランドとコローヴィエフの交わすこの会話が頭の中を何度もよぎっていく。この教会は1931年に宗教を否定するスターリンの命令で爆破され、その後には久しく温水プールがあった。『巨匠とマルガリータ』の中でイワン・ベズドームヌイがヴォランドを追ってモスクワ川で水浴するシーンを覚えているだろうか? 彼がモスクワ川に飛び込んだのはちょうどこの教会の跡地の前という説がある。「追跡」の軌跡からはほんのちょっと外れているかに見えるが、紙の聖像画と蝋燭を持った彼の水浴は、キリスト教の洗礼を想起させるもので、宗教的な匂いがすることは間違いない(身を清めて悪魔払いするつもりがタールまみれになるのだが)。こうした視点から救世主キリスト教会の荘厳な姿を見ていると、まるで現代にブルガーコフの遺言が実現されていくような奇妙な感覚にとらえられる。
 

ヴォランド一味が滞在したサドーヴァヤ通りの50号室は、現実のブルガーコフの住まいがモデルになっている。訪れるファンが絶えないため自然発生的にブルガーコフ博物館になってしまったというからその人気は計り知れない。建物の構造としては日本の団地を思い浮かべてもらえばいいかもしれない。ひとつの建物に何箇所か階段があってその階段を上がっていくと左右に部屋のドアがひとつまたひとつとあるあの感じだ。ただし階段の入り口にはそれぞれドアがある。壁の落書きはその6番玄関のドアの外側から始まって50号室に至るまでびっしりと続く。お世辞にもきれいとは言えないが、色とりどりのペンキで描かれた言葉(ヴォランドの出現を望む声が多い)やヴォランドやイエスの大きな絵が印象的でまさに噂どおりだ。ただ階段の踊り場には足で蹴破って中庭に飛び出せる高さに窓はなく、階段の折れ曲がりの間に空間はまるでないので下まで見通せないから、キエフのおじさんの持ち物が下まで落下していきそうにはない。
 

50号室の内部には入って左手に書き物机がひとつ置かれた部屋、右手には黒い模造紙で作ったベゲモートやコローヴィエフが影絵のように壁に伸び、作家の写真が数枚貼られた部屋があった。奥の部屋は小説の場面を描いた数人の画家の展示室になっていた。
ブルガーコフとエレーナ夫人が眠るお墓があるのはノヴォジェーヴィチイ修道院だ。ここには政治家を始め作家や俳優や作曲家など数多くの著名人のお墓がある。その広大な墓地の第2区画の21列目にある小ぶりながら風変わりな墓石がそれだ。この墓石には曰くがあって、同じ区画の9列手前に彼の同郷で大好きな作家ゴーゴリの墓があるのだが、それが建替えられることになり、前の墓石をたまたま居合わせたエレーナ夫人が譲り受けたというのだ。その名もなんと「ゴルゴダ」というのだそうだ。不遇の晩年を送った作家がこんな一流の墓地に埋葬されたわけは知らないが、やはり「作家と権力」の微妙な関係がなせるわざなのだろうか。
 

ブルガーコフが青少年期を過したキエフのアンドレイ坂の家もまた博物館となり、サンクトペテルブルグで彼が滞在したアストリア・ホテルのエレベーター脇の壁の金のプレートには著名な滞在客の名前の中に彼の名も加えられ、現在まで追った丹念な家系図が出版されている。『巨匠とマルガリータ』はバレエ、映画、演劇化され、漫画本もあるし、全編の朗読がCDやカセットで発売されている。ローリングストーンズが作品に触発されて曲を作り、小説の一説が商業的なコピーになったりと、遅まきながらロシア古典文学として、世界文学として当然の市民権を獲得し、定着したようだ。と同時にペレストロイカ後の爆発的な出版事情により、現代文学として今また新たに読まれ始めているとも言えるだろう。

法木 綾子(群像社刊『巨匠とマルガリータ』訳者)

 
 


「巨匠とマルガリータ』の舞台にもなった
ブルガーコフが住んでいたサモスクワのドーヴァヤ通り50号室の
プレートの前に立つ訳者の法木さん。
作家の写真の隣には「巨匠」と刻まれている。
(写真提供 法木さん)

編集部よりお詫び
上の写真のキャプションに誤りがありました。
訂正してお詫び申し上げます。
 
 
 
 

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 『巨匠とマルガリータ』の漫画
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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