ACT 6.0
僕を変える、君の声

原画

中山勝一 末富慎治 高村和宏 高橋拓郎
石崎寿夫 小野修次 古川尚哉 鶴巻和哉

98年11月6日放送

脚  本:庵野秀明 作画監督:小倉陳利

絵コンテ:鶴巻和哉 演  出:大塚雅彦
     佐伯昭志

四字熟語のコーナー

しらんけっけい
芝蘭結契

徳の高い人同士の上品で美しくうるわしい交際。君子や善人などすぐれた人の交際にいう。「芝」は霊芝(れいし)、「蘭」はふじばかま。ともに香気高い草で、君子や善人にたとえる。
(別意)香り高いきのこや蘭の花のある部屋にいると、いつのまにかその香りがわが身に染まってくる。善人といっしょにいるのも、これと同じで、わが身もいつのまにか善人になっている。
(「芝蘭之交」と同意語)

 

君だけが変わってしまう気がした

 最初に語っておくが、この回は極端に動きが少ないしほとんでデジタル彩色で作られている。裏事情になってしまうがこの回は当初高村和宏氏がコンテを描いたのだがそれが没になってしまい、急遽鶴巻氏が担当したそうである。そのためスケージュル的なことを考慮してのコンテになったのだろうが、さすが鶴巻氏とでもいうようなデキの回である。

 冒頭はやはりというか当然というか、庵野作品ではおなじみの清川元夢氏がナレーションをしてくれていた。(この真面目すぎる語り口は、ナディアファンだった私としてはナディアおまけ劇場の「ナディア大百科」を思いださせるもので笑ってしまう)

 最初の同じデートにおける二人の視点からの語り口は原作通りで、漫画らしく止め絵とふきだしに書き込まれた文字で表現された。ストーリーではなく二人の視点の違いをおかしく見せるシーンなので、別段これで構わないだろう。
大事なのは「自分ばっかり個性があってずるいよ」と有馬が雪野にコンプレックスを感じはじめているということだ。それはその後の浅葉との会話の後の「君だけが変わってしまう気がした」というセリフで明確になる。彼は自分の心に内面を覆い隠してしまう扉のようなものを感じていた。それは長年優等生たろうとしてきた中では存在して当然のもので、だから気がつかなかった。それが宮沢と付き合う中で扉の中のものが反応し、扉の存在に気付いたのではないだろうか。

 Bパートではなんといっても後頭部だけで会話する家族のシーンで驚く。枚数を減らすためにやっているのか、それとも実験でやっているのか判断に苦しむような出来で、という事は面白いという事だ。会話と噴き出しと汗といった表現だけ、つまり漫画的表現でもこういうことができるといういい例だろう。浅葉と雪野の会話でもあったが、「あ、あ、あ、あのねぇ」とセリフと同時にふきだしが増えていくのが面白い。
逆に有馬宅では完全に一枚の絵だけで、会話も少なげなのが非常に対照的だ。

 有馬は雪野に対するコンプレックスから「僕は彼女にふさわしい男なのだろうか」という考えにいたっていた。優等生であることで自分に自信を持てるわけではない。自分を認めてくれる人がいて、初めて人は自信を持てる。

 2話と対照的に、教室で宮沢が見守る中、有馬は目を覚ます。外は雨が降っていた。
この後静かなピアノ曲が流れ出し、壁にはしゃぐ雪野の姿が映しだされる。直後の階段に座る有馬を見上げる雪野もそうだが、この「学校に二人きり」という情緒たっぷりのシーンに正直背筋が氷つくほどの感銘を受けた。原作では何気なかったこのシーンが、「有馬からの視点」で描くことにより彼の雪野に対する気持ちがストレートに伝わるものとなっていた。回ってはしゃぐ雪野を止め絵で順に見せていくところも含め、アニメというよりも映画のワンシーンのような演出である。これも鶴巻氏の力量だろうが、氏が担当した4話と同じく「一緒にいたい」という字での表現も納得のいくものであった。そしてやはり抱きしめるシーンは感情を強調するために線画での表現であった。

 キスが雷で未遂に終わった後、原作ではちょっと書いてある程度だったピンクレディーの「SOS」が本当にかかる。さすが庵野監督は手を抜かない。「体も心も清潔に」という貼紙に遊び心を感じる。

 再び有馬が姿を現わしバケツの水をこぼした後、雪野は「有馬も私に甘えていいからね」と告げる。本当の自分、素の自分を「許してくれる」ことを有馬は初めて実感した。だからこそ自然に雪野の頬に手がいき、初めてのキスに踏み切れたのだろう。

 そしてこの記念すべきファーストキスの後は、再び清川さんのナレーションとともに、二人が優等生だった頃の回想となる。「他に楽しいことがない」という雪野に、「ちゃんとした人間になろう」とだけ考えてきた有馬。その二人はお互いを必要とし、お互いに相手に求められていることを知り、それが何にも優ることを理解したことで変わっていける。つまり以前との比較、決別の意味で回想があった。「君はいつも僕を変える」はこの話のタイトルであると同時に、変わっていく自分を理解し、そしてその原因である宮沢への感謝の言葉だったのだ。

 だから「全然オッケー。雨でも風でも大丈夫!」のセリフに続けて彼は言う。「僕達はこれからなんだから」と。

(この回の次回予告で単行本を持っている女性は、おそらく原作者の津田雅美さんであろう)

全然オッケー。雨でも風でも大丈夫!

 

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