第10話

夢見る笑顔

原画

伊藤良太 福田紀之 吉岡 勝 内田 考

横山謙次 若山政志 細田直人 加藤政広

今村麻美 熊岡利治 和田伸一 坂本 力

松岡秀明 沢田正人

99年6月6日放送 (TV埼玉、千葉TV)

脚  本:藤田伸三 作画監督:斉藤英子
               千羽由利子

絵コンテ:村田和也 演  出:村田和也

(アイキャッチBGM)

Aパート直後 

 Bパート直前

マルチ

あかり

 

 みなさんに喜んでいただけること。それが、私の幸せなんです

・アバンタイトル

 階段で大きな荷物を持った少女がよろけてしまう。丁度その場に居合わせた浩之がそれを助けた。一見普通の女の子だが、彼女は自分がロボットであり、マルチという名だと語った。

・Aパート

 そのマルチは最新型のメイドロボであり、テストとして入学してきたのだった。

 ここからはマルチが様々な手伝いをする様子が続くが、彼女はどこかドジなところがあるようだ。しかしパンを買いに行かせたりと、誰もかれもマルチをパシリのように扱っているのもなんであるし、好奇心で近づいたりかまってやる人間もいないようである。まぁマルチが「何かご用はないですか?」と自ら志願したと見るべきであろう。そんな中、浩之だけが対等に扱ってやることとなる。

・Bパート

 マルチと一緒に下校した浩之とあかりは、バス停でもう一人のメイドロボのセリオと会う。こちらは能力にすぐれ、対人態度も最低限度のロボットらしいものだった。そのため「ロボットってのはセリオみたいな奴をいうんだよな」とマルチの特殊性を再認識することとなる。

 放課後、一人校庭の掃除をしているマルチ。そこに来た浩之とあかりは、マルチとセリオのテスト結果の優秀な方が商品化されること、セリオが選ばれた場合、マルチはデータを入れ替えられてまた別の実験に使われることを知る。それを聞いた浩之は、学校中をきれいにしたいというマルチを手伝ってやることにした。ここでのおなじみのメロディーが流れながら学校内を掃除するマルチのシーンは、情緒あふれるものでゲームにはないアニメ版ならではの感覚を表現したものとなっていた。

 掃除も終わり、夕焼けを見ていたマルチはその場にくずれ落ちる。エネルギー切れを自分で察知できないロボットというのも困りものと思えるが、先ほどの掃除の無理がたたったか、それによる満足感によるといった人間味的なものと見えなくもない。
 図書室に連れていって充電するが、その際に内部のメカが見えるかどうかはかなり重要だと思っていたのだが、残念ながらそれはなかった。そして「やっぱり、ロボットなんだよな…」という浩之のセリフで次回に続くこととなる。

・総評

 マルチというロボットの登場となるが、ではその特殊な存在をどんなふうに見せるか注目していたのだが、具体的に説明するでもなく強引に「そういうものだ」と言い切ってしまったのがいい。変に説明や解説をつければ不自然さが強調されかねないからだ。
ただ「メイドロボ」というものの概念や、程度こそ違うものの、この世界にはメイドロボが普通に存在するということは一言でもあった方がよかったかもしれない。

 今までの回ではゲームのイベントはあくまで一部として使われてきたのだが、階段で荷物を運んでいたマルチとの出会い、パンの購入法を教えるシーン、気合いの入れた掃除の仕方を教えるシーン等、この回は大半がそうである。そういうわけで、ゲームファンにはゲームをそのままアニメにした回と見えてしまうかもしれないが、マルチという特殊な存在を扱う以上、あまりオリジナル的なシーンは作れないのかもしれない。

 見ため的にはゲームそのままの印象を持つかもしれないが、よく検証してみるとマルチに関する情報が伝えられる順番が、ゲームのそれとはかなり異なる。なんといってもゲームでは中盤で物語が佳境になるきっかけとなる「テスト期間は1週間」という情報が、このアニメ版ではいきなり最初に「2週間のテスト入学だってさ」と浩之のセリフで判明する。また、図書室の充電シーンがゲームでは序盤に対し、アニメではラストとなっている。
 こうしたことはゲームがストーリーを第一にし、アニメではテーマを訴えることを第一にしたためだと見ている。「実はこうだった」と驚かせるのではなく、情報をオープンにしてマルチという存在を考えてもらおうということだろう。最初にロボットであることと2週間のテストであることを提示し、その後はロボットであることを忘れる程、愛敬や人間味のあることを見せ、最後に今一度ロボットであることを再確認するという構成といえる。マルチがロボットであることを印象づけて次回に続けるために、ゲームでは序盤の図書室の充電シーンを最後に持ってきたのは大正解といえよう。

 ただひたすら「みなさんのお役に立ちたい」と行動するマルチ。ロボットでありながら手際や要領の悪さがあるが、そのひたむきさや褒められて喜ぶ姿には人間の感情のそれに近いものがあった。それすらも作られたプログラムではあるが、メイドロボとしての能力ではなく、そうした「人間らしさ」を追及して作られたといえる。
だからマルチは努力する。みなさんの役に立てるようになりたいと「夢」を見る。本来、そうしたことは機能や性能として付けてもらえばいいだけのことなのに。

 「夢見る笑顔」──。それはマルチ独自の一番の性能かもしれない。

 

 

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