高 瀬 舟



 
 明治大正を通じて第一の文豪は誰か。おそらくは鴎外、森林太郎博士であろうと思う。あ 
 のひとなどは、さすがに武術のたしなみがあったので、その文章にも凛乎たる気韻があり
 ましたね。
                                 太宰治『花吹雪』

森鴎外のお墓


 
 うなだれて、そのすぐ近くの禅林寺に行ってみる。この寺の裏には、森鴎外の墓がある。 
 どういうわけで、鴎外の墓が、こんな東京府下の三鷹町にあるのか、私にはわからない。
 けれども、ここの墓地は清潔で、鴎外の文章の片影がある、私の汚い骨も、こんな小綺麗
 な墓地の片隅に埋められたら、死後の救いがあるかも知れないと、ひそかに甘い空想をし
 た日も無いではなかったが、今はもう、気持が畏縮してしまって、そんな空想など霧散霧
 消した。
                                 太宰治『花吹雪』


森鴎外の遺書の碑 大きい


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