8日の木曜日のことだった。スポクラのバレエ・クラスとピラティスのクラスに出ているので、そろそろ出掛けなければ…という時間になっても、何だか億劫である。全身何とも言えない倦怠感があり、妙に腰が痛い。何故か歯が浮く不愉快さと、ついでに間歇的に襲って来ては体力を消耗する深く湿った咳の発作があった。
風邪だろうか。じわりと背中を冷や汗が垂れる。ここで風邪など引いたと言おうものなら、家人がまた得意そうに「だーかーら、この寒い中を上井草なんかに行くからだよ」と叱言を垂れるに決まっている。よし無理は禁物、ここは自重して体調を整えることにしよう。ピラティスとバレエは泣く泣くお休みである。
億劫ながらも時間が出来たので、ゆっくりゆっくり掃除や洗濯や晩御飯の仕度などに取り掛かる。ふとした気紛れで、翌日金曜日の晩御飯に出せそうな煮物なども下拵えしてしまった。前以てやっておけば、当日、慌しく時間に追い捲られながら準備することもなくなる。
ところが、晩御飯を食べ終わった後でどうにも怠くて我慢出来なくなった。その辺りで家人も様子が変だと気付いたらしい。熱を計ってみろと言うので体温計を咥えてみると…39度ジャスト。あれ? この体温計、壊れてない? 真面目に最初はそう思った。
翌朝までに下がってくれないと色々困るなあ、などと暢気に構えていたが、そこから延々36時間、わたしの体温は39度を下回ることはほとんどなかった。一番下がったのは金曜日朝の38度5分(ほんの1時間ほどだけ)、最大瞬間体温は実に39度9分(汗)。もうちょっとで大台なので、つい「おっ、あとちょっとやん、頑張れ♪」などと思ってしまったくらいである(阿呆)。
もちろん金曜日のバレエも出られないので欠席。寝ている途中で「これは病院へ行かないとマズいかも」と思ったものの時既に遅く、徒歩5分の病院まで自力で辿り着く体力がない。隣家の義父母や母にヘルプを出す訳にも行かない。インフルエンザだとすると、65歳以上はハイリスク・グループと呼ばれ、下手すると重症化し易いらしいからである。
義父母や母に感染した上に重症化されたらこちらも後悔し切れない。
そんな訳で家人が帰宅早々、クルマに積み込んで病院へ連れて行って貰った。細長い麺棒で鼻腔内をぐりぐり拭い、それをエッペンドルフ・チューブの液(生理的食塩水か?)に懸濁して試験に持って行く。インフルエンザのウィルスのDNAがあるかどうかを調べるのだろう。どういう仕組みかな? PCRかな? 昔齧ったジャンルなので、ちょっとわくわくする。
診察してくれたお医者さんに「検査ってPCRでやるんですか」とつい訊いてみた。昔はPCR、時間もお金も莫大に掛かったものだが、今はたったの15分で結果が判るようになったのだろうか、凄いなーと思ったのだ。
残念ながらそこまでは進歩していなかったらしく、PCRで調べるのではないと言う。迅速診断キットなるものが販売されていて、それを使うと簡単に、インフルエンザかどうかが判るのだそうな。ちなみにこの回わたしは陰性だった。
普通の風邪でどうしてこんな熱が出るのか疑問だった。変な病気だったらちょっとイヤだなあ。ともあれ、頓服を呑んで眠ったら、翌朝は多少熱が下がっていた。自力で動けるうちに…と、昨夜のお医者さんに言い付かった通り、改めて受診。受付を済ませて内科待合に座っていると、看護師さんが「もう1回インフルエンザのテストを受けて下さい」と言う。
何でも昨夜のサンプルは、時間が経ったら陰性から陽性へと変わったのだそうな。そんなことってあるのか(びっくり)。まあ確かに、あれだけ熱が出てインフルエンザじゃないとしたら…? という疑問は解消されるので、スッキリはしたのだが。とは言え、看護師さんが仰るように「確実に診断するには発症後48時間経っていないと」ダメなら、それって結構不便な診断法ではないだろうか。
迅速診断キットの原理はイムノクロマトグラフィー法らしい。キットは細長い板状で、端っこにはコントロール(対照)と判定部がある。真ん中辺りに検体を乗せる部分があり、反対側の端には展開液の入った小さなパウチが付いているようだ。検体(鼻腔拭い液)中にインフルエンザ・ウィルスがあったら、それがキットの真ん中部分に仕込んである抗体に結び付く。その抗体には特殊な酵素が接続してある。
検体をセットし終わったらパウチを潰して展開液を浸み出させる。抗体と結び付いたウィルスはキット表面をじわじわ流されて行って、判定部の特定位置に仕込んであるまた別の抗体に引っ掛かる。そこで特殊な酵素が働き、キット表面に塗ってある色素の元を分解して色を出す。2種類の抗体はどちらもインフルエンザ・ウィルスにしか結び付かないように出来ているので、色が出たら間違いなくインフルエンザ・ウィルスがある証拠、と言う仕組みである。
参考資料はこちらのサイト。モノクローナル抗体なんて昔懐かしい単語だなあ…(汗)。ちゃんと機能してくれるモノクローナル抗体が作れなくて、4年生時は大変苦労したものである。もっと大変だったのはヘボで怠惰なわたしと一緒に組まされた上級生だったが(汗)。
しかしこの原理だとすると、時間が経ったら陰性が陽性に変わっちゃった、ってのが良く判らない。どういうことなのだろうか。
ともあれ再度鼻をグリグリされて、今度はしっかり陽性が出た。噂のタミフルを出され、48時間くらいは人に感染す可能性が高いから人ごみには出るな、特に小さい子供には接するな、と言われて帰宅。さてそこでハタと困ったのは家人のことである。
感染しちゃってるだろうか。マズい。一応昨夜は寝場所を別々にしたのだが、それまでに充分、面と向かって会話したり隣り合って座ったりしちゃってるしなあ。どうしよう。家人はわたしより病気慣れしていないので、もしもインフルエンザに罹ったりしたら相当面倒臭いことになるに決まっている。わたしから見ると「大した熱じゃないじゃん」な体温で、大袈裟に見えるほどに苦しがって唸るわ暴れるわ、とにかく騒がしい病人なのである。
わたしだってまだ本調子ではないのだから、勘弁して欲しい。しかしその切なる願いは届かなかった。インフルエンザは、家人にもやっぱり感染っちゃっていたのだった(涙)。(以下続く?)