1946年 (オペラは1914〜17年)
1947年6月26日,ウィーン, Karl Boehm 指揮,ウィーン交響楽団
シュトラウス7番目のオペラ『影のない女』の旋律に基づくオーケストラ曲。ただし用いられているのは大部分染物屋夫婦にまつわる旋律のみであり、皇帝と皇后にまつわる部分はうまくカットされている。そのため1幕での人間界への下降の場面、2幕なかほどで皇帝の歌うアリア、3幕で乳母退場後に情緒的なヴァイオリンソロに導かれながら皇后によって歌われるモノローグ、試練の場での皇后の叫びなどの印象的な部分などはことごとくこの曲では聴くことができない。かわりに3幕での染物屋夫婦による Mir anvertraut... (私にゆだねられ) の旋律などが重点的に引用され、オラトリオ風に歌われる最後のクライマックスはほぼそのまま聴くことができる。
オペラの内容は、東洋のとある架空の島で、霊界と人間界に住む二組の夫婦が試練を乗り越えて再び愛で結ばれるさまを描いたメルヒェンである。話の筋はかなり複雑であるが、詳しい内容についてはこちらにある野口方子さんという方の書かれた詳しい解説から知ることが出来る。 (無断リンク御容赦...) これは普段滅多にお目にかかる機会のない小説版『影のない女』についての言及をも含む貴重な資料なので是非御一読をお勧めしたい。
上述のように全体は主として染物屋夫婦の旋律に基づいて組み立てられているので、それ以外の印象的な部分が多くカットされているのがある意味とても残念な曲です。個人的には1幕結尾の夜警の合唱、バラクの兄弟たちの歌などもどうにかして含めてほしかった、という気がしてなりません。また児童合唱、特に黄金の滝が現れる終結部の直前に短く歌われる児童合唱の部分などはとりわけ美しく、オペラとして鑑賞する際には是非とも集中して聴きたい部分なのですが、それも収録されませんでした。もちろん、だからといってこの『交響的幻想曲』のことを欠陥品だなどと言うつもりは毛頭ありませんし、それどころかこのオペラのエッセンスをうまく凝縮したとても優れた楽曲であることは疑いようのないところです。 (とにかく、収録して欲しかった聴きどころがこのオペラには多すぎるので...)
なお、染物屋夫婦の旋律を中心として曲が組み立てられていることにも実は理由があり、自分たち夫婦の姿をより直接的に投影した音楽として、晩年のシュトラウスはこの夫婦の音楽を皇帝皇后夫妻の音楽よりもはるかに重要視していたのだそうです。確かに前者はいろんな意味で人間くささにあふれたキャラクターであることは間違いなく、そちらをメインに据えたとしても無理からぬところがあります。
最近ではいろんな CD がこの曲を取り上げるようになってきているので嬉しい限りなのですが、実際うちにも Jeffrey Tate 指揮 Rotterdam Philharmonic Orchestra のものと、 Zubin Mehta 指揮ベルリン・フィルのものの2種類があります。ただ、このうち後者の演奏は、曲の最後、クライマックスの一番盛り上がる部分でティンパニの叩き方 (休止のタイミング) をわざとずらして演奏しています。まちがいにしてはあまりにも自信たっぷりに演奏しているので、おそらく Mehta 自身の解釈に基づいてあえてそのように叩かせているのでしょう。実際聴いてみると、まあこういうのもありかなあ、という風にも思えてきます。ただ、どちらかというと、もしもシュトラウスがイタリアオペラの作曲家だったらこんな風に叩かせていたかも、という印象を受けてしまうことは否めません。フレーズの最後が次のフレーズの出だしと重複するシュトラウスおなじみのスタイルからいうと、やはり現行のタイミングのままで叩かせるべきだったのでは、という気がしています。
[ 最近 Arpad Joo 指揮フィルハーモニア管弦楽団によるディスク (『ばらの騎士』組曲とのカップリング) を入手したのですが、やはり上記の当該部分を聴くとティンパニの叩き方があいまいで、こちらは休止に入るタイミングを明らかに早まっている感じがします。 (もっとも奏者自身その場ですぐに気付いたらしく、残りの数打を遠慮がちに叩き加えて帳尻を合わせてから休止に入っていますが...) そんなにタイミングを取るのが難しい箇所なのでしょうか? (2003.8.17 記。)]
どうでもいい話ですが、ぜひこのオペラをだれか日本の有能なマンガ家の方にコミック化してほしいものだといつも思います。この作品は、時に「迷宮のような」台本を持つオペラとして言及されることがありますが、日本のマンガであれば十分そのような内容を消化吸収して、独自の表現スタイルを持つ新たな作品として再生できると思うのですが...どこかにそんな漫画家さん、いませんでしょうか? (ちなみに、以前『薔薇の騎士』をとあるレディース系作家がコミック化したものを書店でみかけたことがありますが、いかにもありがち〜な感じがしてさすがに手に取る気にはなれませんでした...) (2003.9.11 記。)]