1939年1月に作曲された第1稿 "Muenchen - ein Gelegenheitswalzer" (特定の機会に演奏されるワルツ) を1945年2月に改訂し、サブタイトルを "ein Gedaechtniswalzer" (記念のワルツ) とした。
第1稿 "Muenchen - ein Gelegenheitswalzer" は1939年5月24日にミュンヒェンの UFA (Universum Film AG あえて訳せば宇宙映画株式会社? ) における市長主催の非公式上映会にて Carl Ehrenberg 指揮の地元室内オーケストラにより初演。第2稿 "Muenchen - ein Gedaechtniswalzer" は1951年3月31日、ウィーンにて Lehmann 指揮のウィーン交響楽団により初演。
第1稿はミュンヒェンを題材としたドキュメンタリー映画の背景音楽として作曲された。第2稿ではこれに短調の中間部を加えて3部構成とした上で、独立したオーケストラ曲とした。
最初は2つの主題の組合せが「生き生きとしたワルツのテンポで」奏でられる。 (このうちホルンの主題の方の下には "Muenchen! Muenchen!" という呼びかけの文句が書き加えられている。) その後全曲通して現れる重要なリズム動機を含む短い経過部の後、自作オペラ "Feuersnot" から引用された第2のワルツが奏でられる。再度の経過句をはさんで第2のワルツが軽快に1フレーズだけ奏でられた後、短調による服喪の挿入部分が始められる。ここでは他にも "Feuersnot" からの主題が引用され、戦争で破壊された生地ミュンヒェンに対する哀惜の念が表現される。 (この中間部には "Minore - In Memoriam" 「短調 - 追憶によせて」 という書き込みがある。) この重苦しく、時に激しい中間部はすぐに収まり、かわって主部の穏やかなワルツ主題が徐々に復活してくる。曲は次第に高潮していき、あくまで明るく、快活に全曲は締めくくられる。
全曲通して10分に満たない小曲ですが、あの "Metamorphosen" 同様戦争により破壊された建物や失われた文化に対する哀悼の気持ちを表現した重要な作品です。 ("In Memoriam" の書き込みも "Metamorphosen" と共通するものです。) 第1稿は映画上演の際の背景音楽として作曲されましたが、その映画自体ヒトラー政権下で上映が禁止され一般公開されることはありませんでしたし、第2稿で加えられた短調の中間部も戦争によって破壊されたものへの追憶の気持ちから作曲されたものです。軽い内容に不釣り合いなほどに戦争が影を落とした作品と言わざるを得ません。派手さもなく、 "Metamorphosen" ほどの情熱もありませんが、ただ一方でとてもシュトラウスらしさにあふれた作品でもあります。主部の天真爛漫なワルツの部分を聴いただけでも、おそらく多くの人がすぐにシュトラウスの曲と気が付くのではないでしょうか。シュトラウス自身が1901年に作曲した、ミュンヒェンを舞台とした1幕のオペラ "Feuersnot" (『火災』『火難』『火の試練』『火の欠乏』など様々に訳されている。) からの引用が特徴的な佳品です。
第1稿の副題 "ein Gelegenheitswalzer" の "Gelegenheit" とはドイツ語で「機会、好機」の意味で、他の単語とともに使われる時には「特定の場面、機会のために (臨時に) 作られた...」という意味が加わることもあります。しばしば機会音楽と訳されます。また第2稿の副題 "ein Gedaechtniswalzer" の "Gedaechtnis" は「記憶、記念、回想」の意味ですが、この曲について見る限り、単なる「記念」よりも「追想、思い出」の方が合っているような気がします。シュトラウスが自作の曲に込めるメッセージはどちらかというと個人主義的な色彩の強いものである場合が多く、この曲もあくまで自分の心の中の個人的な悲しみ、追想、思慕の念をうたったものと見た方がいいように思われるからです。多分に公的に制定されたものを日本語では連想させる傾向のある「記念」という言葉とのギャップをこの曲の場合には少なからず感じてしまうのですが...
ついでですが、 "Feuersnot" は「フォイアースノート」と読みます。「火災、火難」の意味ですが、「火の欠乏」という訳も時々見かけます。 "Not" に「苦難、欠乏、困窮」の意味があるためと思われますが、参考までに辞書で他の単語を調べてみると "Wassersnot" には「水の氾濫、水難」、 "Wassernot" には「水不足」の意味が出ています。間に -s- の要素があるかないかで意味が180度変わってしまうのがおもしろいところです。この例から類推すれば "Feuersnot" は「火難」となるところでしょうけど...さてどうなんでしょうか。