ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%            ハ ー ト ウ ェ ー ブ %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% ハニー号 2000.01.07 %%%% ◎A happy Millennium! みなさま、お久しぶりのハートウェーブです。12月 はY2K対策のため発行がめちゃめちゃになってしまってごめんなさい!と言 うのは冗談ですが、発行が滞ってしまったことについては本当にごめんなさい です。今年はまた新たにいろいろ挑戦して行きたいと思っていますので、どう ぞよろしくお願い致します。 2000年最初のハートウェーブ・ハニー号、今日のテーマは、『夢』。 どうぞ、初夢代わりのささやかなお年玉をお楽しみください。 φ本日のメニューφ  1.契約 Yurie.H  2.浮橋(うきはし) Momoyo.K  3.ミレニアム ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ @契約@  アトランタの空は、眩しいほどに晴れ上がっていた。太陽は、暖かいと言う より熱いと言ったほうが相応しいほどの光を燦々と降らせている。  その太陽を見ながら俺が思ったのは、ついに俺の願いが叶ったんだ、という 喜びと、そのわりには、どこか実感のわかない不思議な感慨のこの正体は何な のだろう、ということだった。  ぎらぎらと照りつける太陽が、眩しい。でも、俺は太陽をこの目で再び見る ことが出来る幸せを噛みしめようと、無理矢理目をこじ開けるようにしながら、 既に真上に昇った太陽を見上げた。  辺りは照りつける太陽の眩しさに、白く輝いている。アトランタの砂漠は、 見渡す限り続く砂が、はるか彼方までうねっている。風もないのに、砂はひと りでにさらさらと流れ、不思議なうねり模様の形を様々に変えながら、どこか に向かっているように見えた。  サボテン一つ、生えていなかった。俺は奇妙な既視感を覚えた。この砂漠を、 以前どこかで見たことがあるような気がする。  俺はただ、歩いていた。道のない砂漠の中を、ただ歩いている。何かを、探 している。それは、さっきの既視感と関係があるのだ。  でも、どんな関係があるんだろう。  水があればいいのに。少し喉が渇いてきていたし、それに、顔が洗いたかっ た。さっきから大分、汗をかいている。じりじりと太陽が照りつけているから だ。  白いシャツは、身体から吹き出す汗にじっとり濡れて、肌に張り付くような 感じがした。それも不思議なことだ。もう二百年くらい汗なんてかくことはな かったのに。  二百年。それは一体どんな年月なんだろう。気の遠くなるような長さに違い ない。でも、俺はそれだけの時の中で、生きてきた。  なぜ? なぜそんなに長い間、俺は生きていられたんだろう? 足元を、すくわれた。と言うよりは、払われた。前のめりにつんのめった俺は、 そのまま何の防御も出来ないまま、砂の上に思い切り倒れ込んでしまった。 音のない砂漠に、どさっという音が響いた。その音だけが、妙に生々しく聞こ えた。  じゃり、という不愉快な感触が口の中で広がる。汗にまみれた俺の身体の、 洋服に覆われていない部分にざらざらとした砂の粒がはりついた。 (なんなんだよ、これは)  憧れの地。そして、夢が潰えた地。俺のアトランタは、こんな場所じゃない。 「くそう!」  声に出してそう叫んでみると、意外と自分の喉がそんなにからからに乾きき っているわけじゃないことがわかって、なんだかほっとした。 俺は両腕を砂の上に着くと、力を込めて起き上がった。疲労は相当なものだ。 でも、心地良い疲労だ。なんと言っても、ここはアトランタなのだから。 俺の足を止めたものの正体は、一輪のひまわりだった。眩しすぎる太陽の陽射 しに何もかもが白いハレーションに飲み込まれている中で、そのひまわりだけ が鮮やかなそのものの姿をくっくりと浮かび上がらせている。 背は、三十センチくらいだろうか。だから、気付かなかったんだ。こんなもの に躓くなんて。絶対に笑われるから頭領には内緒にしよう。 花は、かなり大きい。頭でっかちのわりには、しっかりとまっすぐに伸びた茎 と、まるで羽ばたこうとするかのように大きく張り出した二枚きりの葉は、何 ともいえないみずみずしい緑色をしている。 そのひまわりは、まるで本当に羽ばたこうとしているように見えた。 黒々とした種がびっしり埋まった花の中央を取り囲む花びらは、重なり合うよ うに連なっている。まるで太陽の陽射しをそのまま吸い込んだかのような、く っきりと鮮やかな黄色をたたえた花びらは、一枚一枚がふるふると震えていた。 その様は、まるで飛び立つ歓喜に沸く心そのもののように見えた。 俺はなんだか、無性にそのひまわりに愛しさを覚えた。 (頑張れよ) 俺は思わずそんな言葉を心の中で呟いていた。ああ、俺もこんな風に羽ばたこ うとしていた時期があったんだ。自分の夢に向かって。掴めると信じた栄光に 向かって。 でも、本当に飛べるようになりたかったわけじゃなかった。 辺りの色が、不意に沈み始めた。太陽の光は急速に陰りだし、それまで白く輝 いていた辺りの景色から、あっと言う間にその眩しさがはぎ取られていく。 一体何が起こったのか、俺にはわからなかった。ただ、目の前の光景は、そん な俺の戸惑いなどお構いなしに、どんどんその鮮やかな輝きを、太陽のくれた 色彩を失っていく。 俺はそうすれば何が変わるというわけでもないのに、わけもなく空を掴んでは 抱き締めた。 この世界から、全てが吸い取られようとしている。確信があった。 けれど、奪わせはしない。絶対に。俺から何も、奪わせはしない。 突然真上で轟音が響いた。びっくりして見上げた俺の目に、空をまっ二つに割 くぎざぎざの稲妻が飛び込んできた。 空は、今や真っ黒な墨の色をしていた。何もない。ただただ果てしなく続く地 の底の闇の色に満たされている。 足下の砂が、一斉に流れ出した。どこへ向かおうとしているのだろう。けれど、 砂ははっきりとした意志を持ってどこかへ流れていこうとしている。俺を飲み 込んで、どこかへ連れ去ろうとしている。 奪わせはしない。再びその想いが俺の中でいっぱいになった、その時だった。 あのひまわりが、ゆっくりと傾いた。なすすべもなく砂の上に横倒しになった ひまわりは、そのまま砂の波に抱かれるようにして俺の方へ流れてくる。 せめてこれだけでも。この手に掴んで引き留めてやる。 けれど、ひまわりを抱き込んだ砂は突然方向を変えて、俺の視界から消えてい こうとしていた。 駄目だ。なくしては駄目だ。これだけは、絶対に。 だって、俺は間違いなく栄光に手の届くところまで行き着いていたのだから。 それなのに、ここで失うわけにはいかない。  あのひまわりは、俺の夢だ。俺が探していた、求めていた夢なんだ。 けれど、どんなに手を伸ばしても届かない。あとほんのちょっとなのに、その 長さはもうちょっとだけ指を伸ばせば届くほどのはずなのに、どうしても届か ない。 ひまわりは、俺の目の前で砂に飲み込まれ、姿を消してしまった。もう、どこ にも、その姿は見えない。 自信に満ちあふれ、輝くように眩しい花をつけ、そして、今にも飛び立とうと していたあのひまわりは、もう、二度と太陽の光を浴びることは出来なくなっ てしまったのだ。 そして、再び世界は輝きを取り戻した。 じりじりと照りつける太陽。焦げるほどのその陽射しをうけて、白く白く輝く 景色。先程と変わらない輝きに世界は満たされていたが、すべては、失われて しまった。何もかも、二度とこの手に掴むことは出来ない。 でも、俺はそれを知っていた。そうだ。もう、あの夢を手に入れることは出来 ない。なぜなら、俺は契約を結んでしまったからだ。 けれど、これが、契約なのか。俺は、望んだものを手に入れるためにそれを結 んだはずだったのに、本当は、何もかもを失っただけなのか。 再び稲妻が轟いた。けれど、今度のそれは、俺の頭の中で爆発するように響い た。 それが、契約だ。永遠の命と翼を手に入れるために、おまえは契約したのだ。 そのことを忘れるな。 声なき声は、頭の中で何度もリフレインしていた Yurie. H @浮橋(うきはし)@ ――ぬしさま  色めいた声に呼びとめられて振りかえると、白瑩(しろみがき)の着物に唐 織らしい前帯をしめた女であった。髷は、頭の上に蝶が羽を休めているように、 髪をふたつに結い上げた立兵庫。暗黄色やあめ色の簪(かざし)、それに蒔絵 のついた二枚櫛をさしている。簪の数はそう、十数本といったところか。  細い眉は三日月に似て、紅の目張りも艶(あで)やかな……位の高い遊女と みえた。左右前後にさした簪は、玳瑁(たいまい)鼈甲(べっこう)あたりで あろう。  ふくりとしたくちびるは、金膏を帚いて碧にひかる。 ――貘をお見かけなんしたかえ?  訊ねる声は匂鳥、わずかに傾げた首の細さは鵠のごとく。  知らぬと応えて、貘とはなにかと問うてみる。 ――寝目を喰らう四つ足でござりいすよ  女が答え、それにつられるようにして、びょう、と風が吹きすぎた。足元の 草がゆれて、足袋をくすぐる。  ふと見れば、草の陰に、なにやら白いものが覗いている。  貘ではないかと指さして、女の白い手をとった。なめらかな手ざわりであっ た。 ――あれは、銀鼠(ぎんねず)でありいす  婀娜な秋波をちらりとくれて、女はうすく微笑んだ。 ――ごらんなまし  見れば、草の陰から仄かな光がさしている。さてなんであろうと思ううち、 風に転げて、からり、と鳴った。なるほどそれは、髑髏(されこうべ)であっ た。 ――わちきの貘は藤色で、兎(う)ほどの大きさでありいす  女がつい、とより添った。 ――それに、紅い目張りがちぃとさしてありいすよ  鼻先を青い匂いが掠めてきえた。なんの香かと訊ねる前に、あたりが花に満 ちているのに気がついた。  うす紫の菊であった。  一面の菊が、極楽にたなびくという紫の雲を思わせる。  と、花びらの一枚ずつが音もなく離れ、いっせいに天にむかって昇りはじめ た。さかさに降る雪のように。ひそとも音をたてずに、昇ってゆく。  握りしめた女の手が、急に湿ったように思えた。 ――ぬしさま、これもなにかの縁と思うて、わちきの貘を一緒に探しておくん なまし  濡れ濡れとした声である。なんとなしに胸苦しさを覚えて、握った女の手を 離す。  ざわり、と縄が擦れるような音がした。あたりを見渡すが、河原のように、 角はまるいがごつごつとした石があるばかりで、ほかのものはなにもない。  ざわり、ざわり、と音がする。  ようく目を凝らすと、石の隙間を這うものがある。蛇のようだが、鼬(いた ち)のようにも思われる。  これが貘か、と訊ねれば女は目を伏せ首を振った。見もせず違うといえるの か、と糺すも黙って首振るばかり。  では、と片膝をついて隙間を覗く。  細いものが見えた。四つまで数えて、指だと知れた。それは、人の腕であっ た。二の腕までの、どうやら左の腕であるらしい。節くれだつ指を、わずかな 水かきまでもいっぱいに広げ、石の間に爪を立てて拳を握るようにしながら少 しずつ動く。  なにかに向かうつもりがあるのか、腕は、止まることなく蠢いている。  何があるかと辺りを見るが、大小のまるみを帯びた石ばかりで、変わった物 はないようだった。  ざわり、とまた腕が蠢く。  もういちど目を凝らすと、独楽(こま)があった。腕の這って向かう先に、 中ぶりの独楽がひとつ、転がっていた。朱と藍の縞に塗られた胴の所々が傷つ いている。胴を貫く心棒の、先が潰れてささくれている。あれではうまく廻る まいと思われた。  独楽を廻す切縄がないかと懐を探るが、葛縄のひとつさえも出てこなかった。  いつのまにか、腕は独楽に辿りつき、指先が白くなるほどきつく握りしめて いた。廻そうにも、左手だけではどうにもできずにいるのだろう。  独楽を掴んだまま、跳ねるようにしながら激しく手首を振って、石地に独楽 を打ちつけている。心棒が石にあたってたてるのだろう、かすかす、と乾いた 音が耳をうつ。  あわれな、と呟いたとき踝あたりがきゅうと痛んだ。驚いて見れば、数本の 腕に掴まれていた。太さも長さも様々な指に爪を立てられ、たまらず両の膝を ついた。別の腕がまた這い登り、腿や尻まで千切ろうとでもするように、きつ く握り締めてくる。  気がつけば、左とおぼしき腕が群れて、ざわと音をたてながら、こちらに這 い寄り取り囲もうとしているのだった。 ――おや、こんなところにおりなんした  ふいに、女の声が耳元で響いた。  すぐ目の前に、女が顔を寄せていた。黒々とした星のない夜のような目に見 つめられ、耐えるまもなく目を閉じた。  ずぶり、と細い指が四本、目玉の周囲に突き入ったのがわかった。ちゅ、と 湿った音がして、温(ぬる)い流れが頬を濡らす。 ――たいそうな寝目を喰ろうたようす、たんと重うなりいした  左の目玉を抉られたのだと気づいたが、無傷のはずの右目も瞼があがらない。 ――ぬしさまの目は、わちきがもうろていきまいす 目を奪われては、彫り師づとめにさしさわる。返してくれと腕を伸ばすが、 寄り添うはずの女の躰に、さわとも触れない。 ――ならば、笹屋の浮舟をお訪ねなんし  浮舟といえば、音に聞こえた吉野太夫に並ぶ松の位、一見(いちげん)なん ぞは声も聞けまい。つてを辿って借を願うことができても、花代が。 ――一両二分でありいすよ  太夫を揚げるに花代ばかりですむはずもない。心づけ、道中支度、銘酒に珍 味、身代うっても足りはすまい。 ――ぬしさま、おあしが震えておりいすえ  笑いながらささやいて、太夫は、ふいと消えてしまった。 あとはただ、気配のひとつもない暗闇が、遠く九界の底まで続くばかり。  二度と光は拝めまい。目玉は、浮舟太夫が食べてしまうにちがいないから。 Momoyo. K @ミレニアム@  ミレニアム、ですか。20世紀最後の年、なのですね。  でも、私達が願うことは、変わりません。  世界中が平和でありますように。  愛が満ちあふれますように。  そして。  良いお話が書けますように。  一つぐらい、自分のことを願っても良いでしょう?  だって、焦がれるほど、欲しいものなのだから。 ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ ☆こんにちは、花山ゆりえです。  ハートウェーブ・ハニー号、お楽しみいただけましたでしょうか。今年もみ なさまに少しでも楽しんで頂けるよう、二人で頑張りたいと思います。  それではまた、7のつく日にお会いしましょう。                 ☆1月17日は花山ゆりえの花号、27日は上代桃世の桃号を発行の予定です。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆ 発  行  ハートランド ☆本日の担当者  花山ゆりえ(yn6y-iruc@asahi-net.or.jp) ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して  発行しています。( http://www.mag2.com/ ) ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま  す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。 ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪ ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞