ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです  %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%             ハ ー ト ウ ェ ー ブ  %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% ハニー号 98.04.07 %%%%  ◎ハートウェーブ・ハニー号では、毎回、テーマに沿ったささやきをお贈りし   てゆきます。今日のテーマは、『課題その1』です。   どうぞ、ささやかな贈り物をお楽しみください。  φ本日のメニューφ   1.駅までたったの15分 花山ゆりえ(課題;通勤の情景描写)   2.微笑  上代桃世(課題;何気ない休日)   3.十夜の想い出 花山ゆりえ  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @駅までたったの15分 −日常の何気ない風景について−@     カーペンターズの歌にもあったように、雨の日と月曜日は憂鬱になる。それ  が一緒に来てしまったら。   気分は、サイテー。でも、会社には行かなくてはいけない。そんな理由で休  める立場は、もうとっくに卒業している。   慌ただしく家を出た後、寒さにかじかむ前に手袋をはめなくてはと、慌てて  ポケットを探り、今年買った茶色の手袋を取りだした。   右手からはめるのは、何となく出来てしまった習慣。右手からはめると、一  日を無難に乗り切れる。そういう小さなジンクスみたいなのって、意外に気に  してしまう人、多いんじゃないかしら。   今日は北風が、何時にもまして強い。ここでこれだと、駅の手前で渡る運河  にかかる橋の上は、さぞかし凄いことになっているだろう。   せっかくセットしたショートレイヤーのヘア・スタイルは、すでに雨でひど  いことになりかかってっているというのに、おそらくあそこで、だめ押しされ  てしまうに違いない。きっと、修復不可能だろう。   ああ、ユウウツ。   駅に向かって急ぐ人達の数は、駅に近づくに連れて増えてくる。歩道にはす  でに、軍隊よろしく、駅へ向かう人達の一列縦隊が出来上がっている。   雨の日は、傘が幅を取る分、追い越しをかけるのが難しい。その上、必ずと  ろとろ歩く人がいて、結果、歩道が渋滞になる。これは、雨の日のお決まり。   今日はどうかなぁ、と、横断歩道で信号が変わるのを待ちながら、反対側の  歩道の先を眺めた。よしよし、まだ大丈夫。一列縦隊は、軽快なテンポで進ん  でいるみたい。   遅れてなるものかと、信号が変わった途端、ダッシュをかける。一番最初に  向こう側にたどり着かないと、これから来る遅い車ならぬ、遅い人の餌食にな  ってしまうかもしれない。   ようし、一着! と思った瞬間、後ろから追いついてきた人が、隣で思いっ  きり水たまりを踏んでいた。ばしゃっという音と共に、私の左足は、膝から下  がずぶぬれになっていた。   ・・・信じられない。   むかむかっと来たけれど、怒っている暇はない。これは、雨の日に特有の、  アクシデントのうちの一つだ。気にしない、気にしない。こんなこともあろう  かと、雨の日にはいつも大きめのタオルを持っているんだから。   なんて準備が良い私。   ずぶぬれの左足をものともせず、私はさくさくと一列縦隊の中で駅を目指し、  速度を緩めることなく歩き続ける。問題の橋が、近づいてくる。   考えてみれば、きっとあそこで横殴りの風に、私の左側はびしょ濡れになる  だろう。そう考えると、さっきの怒りも何となく和らいでくる。それに、最初  から濡れていると思えば、橋の上で風にあおられても、まあ良いか、と思える  だろう。   橋のたもとに差し掛かった時には、もう気分は直っていた。   前を歩く人達は、みな同じように傘を前倒しにして歩いている。その様子で  今日の風の強さを予想し、橋を渡り始めた。   びゅうっと風が、吹き付ける。うーん、こんなもんか、と思いながら、風に  負けないように橋を渡る。あともう少し。もう少しで駅に着く。   橋を渡りながら、時々視線を左側に向ける。電車が来るのが見えたら、走ら  ないといけないという、小さなプレッシャーがだんだん大きくなってくる。   でもなぁ。雨だし、良いかなぁ。そんな風に思った途端、駅に向かってくる  電車の姿が目に入った。   次の瞬間、、私は走り出していた。何という条件反射。   駅にダッシュで駆け込み、改札を走り抜け、エスカレータを駆け上り、その  まま電車に駆け込んだ。見事、セーフ。いつもながら、年の割にはダッシュの  きく自分を誉めてやりたい。   すっかり濡れてしまった身体やカバンを、取り出したタオルで拭きながら、  私は空いている席に腰を下ろした。今日も良い運動になった15分だったと、  思いながら。                              Yurie Hanayama  @微笑@   コト、とテーブルを鳴らしてカップを置いた。コーヒーがまだ半分残ってい  るせいだろう、意外に重い音だった。  席を立って、床に放りだしたままのバッグを拾いあげる。ゆうべは同僚の送  別会で、抜け出しそこねて三次会までつきあわされた。おかげで、せっかくの  土曜日の半分を眠って過ごすはめになった。  たばこ臭いスーツはなんとか壁にかけたものの、バッグにまでは手が回らず  帰宅したときに投げだしたきり、床にころがしたままになっていた。  その、バッグのなかを探ってモスグリーンの手帳をとりだす。バッグを床に  おろして、手帳のあいだに挟んでいた水色のメモ用紙をとりだした。  メモにかかれているのは、イスのデザイン画だ。   モチーフは、芽の出たチューリップの球根。腕を伸ばしてほんのちょっぴり  目から離して、デザイン画を眺めてみる。   わるくない、と小さく言ってテーブルに戻り、デッサン帳に描きうつす。   座る部分は球根でできていて、女の子のおしりに合わせたゆるやかな窪みを  もたせている。背もたれにあたる芽の部分には両側に、ちいさな羽をつけた。  天使の羽だ。   描線ができたところで、かたわらの色鉛筆をひきよせ彩色にかかる。   羽はパールピンク、芽はペパミント・グリーン、球根は芽の予兆とも言える  ペパミント・グリーンの線をひとすじ抱えこんだクリームベージュ。   できあがったイスのデザイン画をみつめて、ほんのちょっと、首を傾げる。   ほ、とちいさく息をつく。   ちちち、と小鳥のさえずりが耳に入った。カーテンを開けた窓に目を向ける。  青空だった。   マンションの七階、というのは残業で夜遅くなったときや荒天の日にはエレ  ベーターでの昇降に不安感がつのるものだが、晴天の日にはラピュタのように  空に浮かんで住んでいるような感じを少し、もたせてくれる。今日は雲もたい  して多くなく、すがすがしい陽気であるといえた。  席を立って、窓の側に寄ってみる。   空は地上に近づくにつれ青がうすれて白っぽくなり、やがてくすんだ灰色に  なってゆく。  まるで、いまの自分のようだと思った。  夢は天頂ちかくの青い部分。そして日常は、くすんだ灰色とせいぜい青のぬ  けた白っぽい部分……。お茶をいれてコピーをとって、つくりものの笑顔をた  くさんふりまいて――   ちら、と肩越しにデザイン画の乗ったテーブルをみた。かるく……くちびる  をかむ。  ちちち、と鳥がまた啼いた。  視線をおとすと、先週末に届いた専門学校のパンフレットがいくつか、色や  デザインを競い合うように重なりながら散らばっていた。  もういちど空を見あげ、そして、ゆっくりと窓際をはなれた。サイドボード  から便箋をだして、テーブルにつく。   『退職願』   その三文字を書いたとき、口許がゆるんでいるのに気がついた。   美術館やホテルのロビーに、めだたないところにロゴマークを入れた家具を  おいてもらう。映画やドラマの小道具に使われるのもいい。   デザインした家具や小物が知らないだれかをリラックスさせることができた  ら。そう思うだけで笑みがこぼれる。   時間に追われて縛られるのを、少しのあいだやめてみようと思いながら退職  届を書きあげた。   他人の幸福な時間を、心を込めて創った物がささえている。   そんな夢を、叶えるために。                             Momoyo Kamishiro    @十夜の想い出@   こんにちは。花山ゆりえです。花版夢十夜の配信を終えて、ほっとしたよう  な寂しいような、何とも言えない気持ちです。ただ、とても良いお勉強になり  ましたので、課題を下さった井戸様には、心から感謝しております。   今回チャレンジさせて頂くにあたり、いろいろ考えた末に出た結論が、夢の  中なら、出来ないと諦めてしまったことでも、できるんじゃないかな、という  ものでした。何にも出来ないと今まで諦めてばかりきた人生を、もしもやり直  すならこんなのが良いなあ、と、あれこれ思い描いて書いたお話たちです。   今の正直な感想は、と言いますと、近頃忙しいのにかまけてお勉強を怠って  いた自分を思い知らされた、というところなのですが、これを良いステップと  して、きちんと前進して行けるよう、さらにさらに、頑張ろうと思っています。   今は、私の夢十夜にお付き合い下さった総ての読者のみなさまに、心からの  感謝を捧げたいと思います。まだまだ未熟者ですが、これからも努力して参り  ますので、今後とも末永く、よろしくお願いいたします。  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆こんにちは、上代桃世です。   ハートウェーブ・ハニー号、お楽しみいただけましたでしょうか。   それではまた、7のつく日にお会いしましょう。                                 ☆4月17日は花山ゆりえの花号、27日は上代桃世の桃号、   そして5月7日にハニー号(テーマ『課題その2』)を発行の予定です。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ☆ 発  行  ハートランド  ☆本日の担当者  上代桃世(kaidou@fb3.so-net.or.jp)  ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して   発行しています。( http://www.mag2.com/ )  ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま   す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。  ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪  ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞