ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%             ハ ー ト ウ ェ ー ブ %%%%%%%%%%%%%%% パラダイス・ハニー号 98.08.07 %%%% ◎今月は、夏のスペシャルプレゼント、パラダイス・ハニー号をお届けいたし  ます。蒸し暑い毎日が続く中、ひとときの息抜きを、どうぞお楽しみくださ  い。テーマは「楽園」です☆ φ本日のメニューφ  1. Wait 上代桃世  2. ワン・ステップ・アゲイン 花山ゆりえ ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ @Wait@  湿った苔の、かすかな刺激を秘めた匂いが胸に沁みる。鼻の奥をかすかに刺 して、匂やかな空気は肺に広がり、胸の奥を満たしてゆく。  あたりの空気は、かすかな粘りとあまさを感じさせる。道管をたどる豊潤な 水のように。  重なりあう濃緑の葉の隙間からさす陽光はわずかで、鬱蒼とした古木の森は ほの暗い。うねりながら露出する太い根は絡まり、苔や羊歯がひしめきあって 地面を覆っている。足もとで、踏まれた苔が青くさい水を滲ませている。  ――そんな光景を、見るはずだったの。  ついこの間。『たけしの万物創世記』がね、見たかったの。  帰りが遅くなるというのに、お家を出てから知ったあたしは、テープをコン ビニで買い込み、周りに録画を頼んでみた。  とっこっろっがっ。  帰るのが遅くて無理な人とか、すでにタイマーかかってるからダメな人、別 の番組を録画する人……とにかく。そんな人ばっかりで、5人に頼んで5回、 断られた。  しゅん、となっているのを見かねた1人が、ちょうど近くにいた友人に頼ん くれた。テープを渡して、よしっ、と安心――しきれない。  なあんかね、むぅん、と思うのだよ。むむぅ、とね。  さぁて、翌日だ。  頼まれてくれたその人は、気の毒だった。いや、新品テープと機械との相性 が悪かったのか、テープの品質に問題があったのか。とにかく、録画はできて なかった。  うきゅぅぅぅ……  と哀しくなった。あたしの、憧れ。千年生きる、でかくてでかい縄文杉。そ れが、見れると思ったのにねぇ。かなしかった。  しかし!   桃世はメゲたりしない。      縄文杉は、先入観なしのあたしに逢いたかったんでは?  そうだ、きっとそうにちがいないっ。  生のあたしが見たいのだっ!  3分後には、そう叫んでたね。ま、最初はちょっぴり、ショックだったんだ けどさ? ま、いつまで泣いても、しょうがないしね☆  ってことで、こう思った。  そうか、そんなに生が見たいのか。よおーし。見せてやろうじゃないか。生 のあたしを。待ってろよぅ。いつかぜったい、生のあたしを、見せてやるから。 @ワン・ステップ・アゲイン@  レンタカーを走らせながら、由夏は目の前の不思議な光景に目を奪われてい た。  道路の右側には土砂降りの雨が降っているのに、左側にはその気配すらもな い。南国独特の、スコールだ。  スコールが降ると、地元の人は風上に向かって走るのだという。しばらく走 れば、雨の降る場所から抜け出せるからだ。  そんな子供だましの嘘みたいな話も、南の島で聞くと何となく信じられるよ うな気がしてしまう。暖かい場所というのは、それだけで人を穏やかな気持ち にさせてくれるのかもしれない。  雨の降っている場所と降っていない場所の境界線は妙にくっきりと分かれて いて、それが、普段自分が存在している世界との隔たりを感じさせた。  誰も自分のことを知らない場所に、行ってみたい。由夏はそう思って、この 島へ来ることを決めた。  つまらない食い違い。足を引っ張り合う同僚との駆け引き。他人にぺこぺこ と頭を下げることの虚しさ。そんなものには慣れっこになっていると思ってい たけれど、ふと、そんなことをしている自分に限界を感じた。  自分には、もっと他に何かすることがあるんじゃないか。出来ることが、あ るんじゃないかと、その時に思った。  そして、由夏は会社を辞めた。後のことも考えずにこのご時世に会社を辞め てしまうなんて狂気の沙汰だと、恋人にも愛想を尽かされたが、それでも構わ ないと思った。  今は、誰のことも関係ない。自分のことだけを考えたい。  思えば、社会人になってから、自分というものがどこにあるのか、わからな くなっていた。スタート地点に立ったときに持っていた夢や希望も、いつの間 にか見えなくなっていた。  本当に自分のしたかったことは、こんなことじゃない。そんな考えは青臭く て甘い考えなのだと思いながらも、何時しか芽生えた思いは心の中で静かに広 がっていたのだろう。  自分にはもっと違うことが出来る。そんな妄想は誰もが一度や二度は抱くも のだ。学生時代にちょっとかじった音楽や、学生演劇、文芸活動などが、本当 は自分の秘められた才能を開花させる場所だったのじゃないかと、そんな風に 思い、安直な道を選んでしまったことを後悔したりする。  けれど、人はそんなに簡単に、安定した生活を手放すことは出来ない。だか ら、不平不満を口にしながらも、その安定に寄りかかり、何だかんだと言い訳 をしながら、またその妄想を胸の奥にしまい込んでしまう。  由夏も、そんな風に考えていた一人だった。  何度も嫌気の差した今の生活に、そのたびにきちんと折り合いをつけて、今 まで生きてきた。取り立ててしたいことが何もなかったこともあるが、一番の 理由はやはり、何も考えずに毎日が過ぎていく楽さに勝るものはなかったから だ。  けれど、今度ばかりはそう出来なかった。何が今までと違うのかは由夏自身 にもわからなかったけれど、後悔はしていない。  自分をもう一度見つめ直すために、自分のことを誰も知らないところへ行こ うと思った。  今、そう望んだ通り、自分はここへ来ている。持て余すほどの自由な時間だ けが、今の由夏の唯一の道連れだ。  スコールは、いつの間にか上がっていた。今は眩しい太陽の日差しが、雨上 がりの景色をきらきらと輝かせている。  ここから再出発するんだ。由夏は心の中で呟いた。自分にとって本当に大切 なものはまだみつかっていないけれど、ここできっと、みつけて見せる。自分 だけの楽園を、きっと。 ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ ☆こんにちは、花山ゆりえです。今回は遅くなっちゃって、ごめんなさい。相 方夏バテ気味、私は風邪で咳が止まらず苦しんでおりました。  今回は、夏のスペシャルバージョン、ハートウェーブ・パラダイス・ハニー 号をお届けいたしましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。  今回は「楽園」というテーマでそれぞれ書いてみました。みなさまに少しで も、楽しんでいただけたら、嬉しいのですけれど...。  それではまた、7のつく日にお会いしましょう。 ☆次回は、27日発行の上代桃世の桃号をお届けする予定です。  17日発行の花山ゆりえの花号は、今月はお休みです。 --------------------------------------------------------------------                       ものかきのひと、集えっ! ** 文芸広報 ** http://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/maga.html 本メールマガジンは、情報の山の中に埋もれた創作文芸物を発掘し、読むこ とを楽しみたい人々への指針となることを目的とする、オンライン創作文芸 の宣伝告知サービスです。刊行ペースは週刊、毎週金曜日発行。 -------------------------------------------------------------------- ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆ 発  行  ハートランド ☆本日の担当者  花山ゆりえ(yn6y-iruc@asahi-net.or.jp) ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して  発行しています。( http://www.mag2.com/ ) ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま  す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。 ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪ ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞