ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%              ハ ー ト ウ ェ ー ブ             %%%%%%%%%%%%%%%%% グリーティング号 98.12.25 %%%% ◎Merry Christmas!! みなさま素敵なクリスマスをお過ごしですか?  突然ですが、日頃ハートウェーブをご愛読いただいておりますみなさまへ、 今日は私たちからとっておきのクリスマス・プレゼントをお贈りしたいと思い ます。  聖なる夜のひとときに、どうぞささやかな贈り物をお楽しみください。 φ本日のメニューφ  1.泥棒貴族の聖誕祭 花山ゆりえ(イメージカラー:銀と緑)  2.背徳の十字架   上代 桃世(イメージカラー:金と赤)  3.Season's Greeting 花山ゆりえ ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ @泥棒貴族の聖誕祭@  パーティー会場には、ありとあらゆる種類の人間が集まっていた。  こんなパーティーは珍しい。パーティーを企画した貴族は、よほどの物好き か偽善者に違いない。  普通貴族達は、その特権を誇示するために、関わりを持つ相手を自分達の独 善的な価値観によって勝手に決めてしまう。こんな風に種々雑多な人間を集め てパーティーなどしないものだ。  それだけに、なかなか興味深い光景が、俺の目の前で展開されていた。  所狭しと料理が並べられたテーブルに無遠慮に詰めかける市中の女性たちを、 眉をひそめ、呆れたように眺めている貴婦人たち。そんな貴婦人たちを、物欲 しげな好奇の眼差しで見つめている男たちには、階級による違いなどない。  仕事柄、人々の様々な生活を垣間見ることには慣れているつもりだが、それ でも、こんな光景にはなかなかお目にかかれるものではなかった。  それがわかっていながら、なぜか俺の視線は、どうしてもその興味深い光景 から一人の女性へと滑るのを止められずにいた。  彼女の名は、ノエル。このパーティーを主催した屋敷の主、ノワール伯爵の 孫娘にして、唯一の親族。つまりは、この家の莫大な遺産を全て受け継ぐべき 存在だ。  それだけでも十分魅力的なこの女性は、更にその類い希なる美貌で己れの存 在価値を稀少なものへと高めていた。  高々と結い上げた黒髪の流れるような美しさは、対照的な白のドレスに見事 に映えていた。ダイヤとプラチナが施された豪奢なドレスは、白金の眩しい輝 きをたたえ、そのたっぷりとした仕立てでかえって彼女のほっそりとした華奢 さを際立たせている。耳元と襟元を飾るエメラルドの澄んだ緑色は、彼女の瞳 の色と良く合っていた。  彼女の美貌にひかれてか、それともその財産にひかれてか、大勢の男たちが すでに彼女を取り巻き始めていた。にこやかに受け答えしている様子はなかな かどうして、堂に入ったもので、ちやほやされることに慣れている高慢な様子 よりはむしろ、鷹揚な貴婦人の優雅さを充分に感じさせた。  住む世界の違う俺には、手の届かぬ高嶺の花でしかない。そう思った途端、 どっと力が抜けてしまった。どうやら、相当肩に力が入っていたらしい。こん な俺でも、何かを期待して格好をつけていたと言うことか。  一人苦笑いしながら、通り過ぎるギャルソンのトレイから一番きつそうな色 のアルコールを失敬して、俺は表の中庭へと通じる階段に向かった。少し頭を 冷やさないと、今日、このパーティーに来た目的を忘れてしまいそうだった。  表に出てみると、三日前から降り続いていた雪はすでにやんでいて、綺麗な 月が夜空にふわりと浮かんでいた。  青白い月の光を浴びた一面の雪景色は、得も言われぬ幻想的な色彩に光り輝 いていた。その白金を思わせる冷たさは、俺の頭を充分に冷やしてくれた。  足元の雪が擦れるきゅっきゅっという音を聞きながら、眩いシャンデリアの 光で埋め尽くされているパーティー会場の、ずらりと連なる窓を見上げる。  人々はみな、この中でキリストの誕生を祝い、酒を酌み交わし、騒ぎながら 幸福な時間を過ごしている。  今しか、ない。俺は一瞬のうちに自分の好機を悟った。  ようしと心を決めてきびすを返そうとした時、俺は背後に唐突に人の気配を 感じ、驚いて振り向いた。  そこには、いつの間にかノエルが立っていた。  咄嗟のことに、俺は何と言っていいものか思いつかず、ただ口をぱくぱくと 動かすだけだった。さぞかし間抜けな顔に見えたことだろう。  そんな俺を見て彼女はくすりと笑った。  「あ、あの…」  恥ずかしさと悔しさの余り、俺は何とか言葉を出そうとしたのだが、どうに もこうにも、意味のある言葉が出てこない。  「こんなところで、寒くないのですか?」  彼女はゆっくりとそう言うと、俺に何かを差し出した。反射的に手を出して 受け取った俺は、手元に引き寄せたそれが見事なシルバーフォックスの毛皮の 外套であることに気付いた。  「これ、は?」  「私のです。窓から外を眺めたら貴方がここにいて、寒そうに肩をすくめて いらしたものだから、私、咄嗟に思いついて」  「でも、この外套、持ち歩いていらっしゃる訳じゃないでしょう?」  「ええ。部屋から持って参りました」  何だかえらくとんちんかんな答えのような気がした。窓から外を見た時に寒 そうな男を見かけたからと言って、自分の部屋に戻って自分の外套を持ってく るなんてこと、誰がするだろうか?  「お心遣いは心から感謝いたしますが…」  「何か、ご不満がおありですか?」  「いえいえ、そんな、不満なんて。ただ…」  俺は何とかこの不思議な事の展開をうまく説明しようとした。が、何だかそ れも馬鹿馬鹿しく思えてきた。  考えてみれば、これはものすごく幸運な展開なんじゃないだろうか。  非の打ち所のない女性が、俺を見かけてわざわざ自分の外套を持ってきてく れたのだ。これの意味するところは。  「ただ、なんですの?」  興味深げに俺を見上げる彼女を、俺はそっと抱き寄せ、そのままその唇に口 付けをした。冷たくて柔らかい唇は、ほんの少し戸惑いを見せながらも、逆ら いはしなかった。  「お心遣いよりも、欲しいものがあると言ったら?」  口付けの後、俺は彼女の耳元に囁いた。  「私が差し上げられるものでしたら、何なりと」  そう答えた彼女の揺れる緑の瞳は、この世のどんな宝石よりも美しく見えた。 この冷たく人を拒絶する白金の、雪が弾く輝きさえ遠ざけてしまうほどに。  最後の言葉を口にするまでもなく、俺は、彼女の心を捕らえたことを確信し た。  本当は、こんなものを盗みに来たんじゃなかったんだけどな。                            Yurie Hanayama @背徳の十字架@     星ばかりがめだつ夜空に、線のような月が光る。  ふるびた木戸が軋む。真夜中のクレメンティーナ修道院へ、裏木戸から入る 男は血の匂いを纏っていた。  「折れた。替えの剣をくれ」  闇に紛れるためだろう、黒い服を身につけた男は剣を投げだした。重い音が 響く。  「人の血を流して、神の御座たるこの場所にお戻りとは、罪深いこと。許さ れませんよ、騎士ヴェンティーノさま」  手にしたランプに照らされる修道女の顔は、かすかに歪んだ微笑をうかべて いた。足下で、投げだされた剣が鞘から血脂のういた刀身を覗かせている。  「ならば貴女も同じだろう、シスター・モリス。汚れた剣の始末をつけ、あ らたな武器を都合する。何も知らぬ信者どもに説法をたれぬだけ、私の方がま しだな。剣を」  「ない、と言ったら」  小さく息をついて、男は自身の腰に手をすべらせた。じゃらり、と金の鎖が しめったような音をたてる。  「このロザリオにかけて、要求する」  男が取り出したのは、中央に楕円形のルビーを嵌めこんだロザリオだった。  黄金でつくられたそれは、裏に『神の名において祝福を』と刻まれている。  それは教皇が与える免罪符であり、人の定めた法では裁かれないことを示し ている。  刻まれた言葉の意味するところはひとつ。このロザリオを持つ者の要請に応 えること。すなわち、すべての聖職者はロザリオの所有者に否と答えることを 許されてはいないのである。  「地下へ。武器庫があります。折れた剣は、地下で預かります。お願いです、 わたしにそれを……拾わせないで」  ランプの灯りに輝くロザリオから顔を背けた修道女は、きつく目を閉じてい た。  「血はお嫌いか。食卓にはキリストの血が供されるというのに?」  黒い服に返り血を浴びているに違いない男は、血痕の残る剣を拾いあげなが ら訊ねる。声が嗤いを含んでいる。  「主のお言葉を侮辱しないで」  目を閉じたままで返される言葉に、ゆっくりと処刑宣告のように男が応える。  「神などいない」  「いいえ。主は、すべてをご覧になっています」  力なくこたえ、女は深くうなだれた。  「貴女の汚れた行いも?」  静寂が、ふたりの耳をつよくうつ。  「――貴方の目は、濁っていない。なのに、どうしてこんな真似を続けるの です」  女がささやく。迷いなく騎士は答えた。  「犬だから。私は飼われているのだよ、修道女どの。背けば、ひどいお仕置 きをくらうのでね」  「いつまで……」  「一生。いや、あの方が神の御元に召されるまで」  「神の」  「それとも、私が地獄に堕ちるまでかな」  「ヴェンティーノさま」  ジョルジォ・ヴェンティーノ。エウル侯の騎士であった男の名である。それ がこの男の真実の名であるものかどうか、知る術はない。騎士ヴェンティーノ は、数年前から行方知れずだという。  「あの方の髪は、蜂蜜色でね。貴女の髪とよく似ている。日にすけると、黄 金のように輝く。二度と、お目にかかることはできない……姿絵さえ。貴女を 見るとあの方を思い出す。血を浴びたあとに貴女に会うとあたってしまうのは、 だからだ。すまないと思っている」  蜂蜜色の髪が揺れた。  「貴方に――神は、いないのですか?」  「これが『神』だよ」  自嘲の影が頬をよぎる。騎士の手に、血のように赤いルビーを抱く黄金のロ ザリオが煌めいていた。 Momoyo Kamishiro @Season's Greeting@  人は弱い生き物です。救い主の御慈悲を求めずにはいられないほど。  けれど、支えてくれるものがあると思うだけで、人は強くなれます。  私たちは救い主ではないけれど、少しでもみなさまのお心を温めることが出 来れば...そんな想いで文章を綴り続けています。  これは、愛情。だから、届いて欲しいし、届くよう自分を磨こうと思ってい ます。果たしてどこまで出来ているものか...それはまだまだわからないけ れど、今日は日頃の感謝の気持ちを込めて、みなさまにささやかなクリスマス のプレゼントをお届けしてみました。  さて、ここでまず今回のプレゼンツについて、上代桃世のコメントから。  ごっめーん。ながいヤツからの抜粋みたいになっちゃったぁ。珍しくラブ・ ストーリー書こうとしたら、長くなっちゃったんだよ。長すぎて、ワンショッ トでできなかった。ごめんね?  ううーん、これねえ。いや、長いんだよほんと。  修道女と騎士のラブ・ストーリーでは、ないんだよね、実は。ありがちな、 姫君と騎士の物語。ホントは。今回、登場すべき人物の大半は名前もだせなく てね。存在を示すことさえできなかった人もいます。  そうね、純粋に力不足だったかなあ。  やー、奥が深いね。小説書くって、面白いね(まだ小説もどきだけどさっ)。  そして、私はと言えば…花山は玉砕です。イメージカラーを全然使えてませ ん。難しいのはわかっていたんだけど…自分の力不足を痛感しています。更な る課題として、精進を誓うクリスマスの夜でした。 ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ ☆こんにちは、花山ゆりえです。  突然送りつけてしまった臨時のハニー号、ハートウェーブ・グリーティング、 お楽しみいただけましたでしょうか。本当は本日午後零時丁度にみなさまのお 手元に届くはずだったんですが、配信エラーを起こしまして、遅くなってしま いましたこと、お詫びいたします。  クリスマス・プレゼントとして皆様に少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 ☆次は27日に今年最後のハートウェーブ、上代桃世の桃号を発行の予定です。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆ 発  行  ハートランド ☆本日の担当者  花山ゆりえ(yn6y-iruc@asahi-net.or.jp) ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して  発行しています。( http://www.mag2.com/ ) ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま  す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。 ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪ ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞