ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※              ハ ー ト ウ ェ ー ブ  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 桃号 99.02.27 ※※※※  ☆こんにちは、上代桃世です。   黄色い粉の恐怖がやってきました。雄の杉が恐怖の源。そう。杉花粉の季節   ですね。今年はそんなに多くないから……なんて、油断してたら。   ええ、ちょっとね。これからしばらく「目をとりだして洗いたい!」という   欲求と闘う日々が続きますね(取りだせないって。でも、してみたくない?)  φ本日のメニューφ   1.瞬キノ間ニ 第2回   2.くりむしようかん  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @瞬キノ間ニ@     2   片翼はどうしたのかと訊ねたとき、アズュラフェールは困ったような顔をし  ていた。昔の恋人のことを訊かれた女は、きっとそんな顔をするのだろう。寂  しげと見えなくもない薄笑いだった。  「あの方に捧げたのだ。二百年前、ちぎりとって。あの方に戴いた身体を、こ  の手で傷つけた。その罪は重い。二度と、治してはいただけないだろう」   そっと目を伏せたその横顔が、火にてらされてオレンジに染まる。  「どんな奴だった? あんたのマイスターって」   主が、香ばしく薫る兎肉を手にして訊ねた。野兎が三羽、皮も剥がれないま  ま火のそばに投げだされている。二人で出かけた狩りはいつになく大猟で、兎  の他にもカラクン鳥が火にあぶられている。  「わからない」  「あ?」  「あまり……覚えていない」  「って、あんた」  「ぜんぜん覚えてないわけじゃない。覚えてる。繋いだ手のなめらかさ、細い  指。うすい肩に、華奢な首。忘れるはずなんてない」   白い翼がふるえていた。くちびるを噛んで、祈るように手を組んだ。アズュ  ラフェールの胸の奥には、その人の名があるのだろう。彼女は、人形師(マイ  スター)にはもう会えない。二百年を生きる『人』はいない。   焼けた兎肉の串を地面に突きたて、主は、静かにアズュラフェールの肩を抱  いた。  「……あんた、ずっと一人でいたんだな。ごめん、もう訊かないから」  「名前を」  「ん」  「名前を、呼んでくれ。あの方がつけてくださったんだ。呼ばれて――いたい  んだ」  「アズュラフェール」   透明な雫が、すべらかな頬を伝った。涙さえ、アズュラフェールは流せるの  だ。服従を誓う主(マイスター)ではない男の胸に抱かれながら。   ラキーアは、そっと目を伏せ炎に薪を投げ込んだ。     O   たった二日の思い出が、胸で軋めく。     3   青白く、月が夜を照らしている。   互いに寄りかかるようにして重なる、人の背ほどもある細長い石が月の光に  仄かに輝く。ここで、灰になるまで死者は焼かれ、地に還る。そして、街を守  護するものになる。   カルン自治領区。   ラエス帝国の南西に位置するこの街は、瀝青鉱が産出されるために、豊かな  生活水準を保っている。   中央に祀った『死者の石』から一・五マイルほど離れて、二千人が住むとい  われる居住区が広がる。採掘場で命を落とした多くの死者に護られて、人々は  今、死にも似た穏やかな眠りについている。   細く白い煙がたなびく。肌寒い風にあおられ、煙は夜に溶けてゆく。  「マイスター……」   つぶやく声は、夜の静寂に吸われて消えた。黒髪が月の光に濡れている。  「死がうらやましいのかい」   聞き慣れぬ声が夜を裂いた。   振り返ったラキーアの前に、銀髪の男がいた。アクア・ブルーの瞳が微かな  光を放っている。  「人形は死なない。だから、マイスターとおなじ時は生きられないよ」  「あなたは……」  「モイラの目も、捨てたものじゃないね。昨日、君を見かけたと言っていたん  だ。ここにいれば会えると思ってね」   男は、優しげな笑みをうかべていた。   男の名は、ジブリール。二百年以上前に造られた、人形である。  「どうして――」   ターラ・ボゥの研究所から売りにだされた人形たちには、数年に一度のプロ  グラム・チェックが義務づけられている。バグの発生が、破壊行動に繋がるこ  とがありうるからだ。   そのチェックのために、ジブリールは大陸中を移動している。人間のパート  ナー、モイラ・グリースとともに。  「うらやましいかい。死んでみたい?」  「ジブリール」  「それとも、死なせてみたいのかな」   銀髪がゆれる。うすい唇が艶めく。誘うような瞳に見つめられて、ラキーア  は掠れた声で答えていた。  「殺したい……」   ジブリールは、アズュラフェールと何かが似ていた。均整のとれた体つきか、  彫りの深い顔の造りか。それとも、声の色合いだったか。   いまは、眠るウォルドの傍らで、必要のない休息に横たわっているに違いな  い。  「だれを――?」   問いかけに、ラキーアは答えを持たなかった。くつくつ、と喉の奥で男は嗤  う。   ささやきが、ラキーアの胸の奥をうつ。  「翼をあげよう。死の翼だ。君を、自由にしてあげるよ」     4   早朝、アズュラフェールは宿を出た。薬草を売りに行くのだと言って。  「この辺りではありふれた薬草も、別の場所へいけば珍しいものになる。そう  いう、珍しい薬草を欲しがる医師を探している」   理由は、言わない。   人形に医師はいらない。誰かのために、探しているのだ。ウォルドのそばで  眠りながら、他の誰かのために出かける。そんな彼女を、彼が咎めることはな  い。  「ラキーア」   ウォルドが呼んだ。  「はい、マイスター」   名を呼ばれるのは、久しぶりだ。アズュラフェールに出会って、呼ばれるこ  とがなくなった。  「ヘザー酒を買ってきてくれないかな。そうだなあ、二瓶くらい。うん、それ  くらいは飲むだろう。そうだ、ついでにすこし街の中を見てくるといい。退屈  しただろ?」   瀝青鉱とならんで街を潤しているヘザー酒は、泥炭で燻して薫りをつけた麦  を原料に使い、樫樽で三年ほど熟成させて造る琥珀色の酒である。   舌をさす独特の香味が、ウォルドの気に入ったらしい。  「すぐ買ってきます。街には、一緒に」  「いいから、見ておいで。俺は――」  「アズュラフェールを待つんですか」   訊ねながら目をそらす。以前は、目をそらすなどしなかった。どんな女が隣  にいても、タンザナイトの瞳を見つめて声をかわした。   アズュラフェールに出会って、ラキーアは目をそらすことを覚えた。  「誰かが待っててやらないとねえ。腕のいい医師なんて、そんな滅多にいるも  んじゃない。失望して、がっくりするに決まってるんだから。そんなとき、誰  も待ってない部屋に戻ってくるのはつらいだろう? だから、今は俺がいてや  るんだよ」   優しげな声が低く語る。ラキーアが、口の中でつぶやく。  「私……は?」   ウォルドは、アズュラフェールを待っているのだ。  「ラキーア?」  「なんでもありません。行ってきます」  「ああ。ゆっくりしといで」   聞き慣れたはずの主の声が、別の男を思い出させた。主を残して、ラキーア  は宿を後にした。  @くりむしようかん@   買ってきました、栗蒸し羊羹。   成田山と言えば、これだ!   と、教えられて買いました。ふだん、あんまりこういうもの食べないんだけ  ど、チャレンジです。だって、とりあえず名物には手をだしてみないとね。  (そう言って、香港でカエル、エジプトで鳩、バリ島で子豚の丸焼きを食べた  のはあたし☆)   それがねえ……うん。おいしかったの。気に入ったの。   ようかんってお砂糖の塊くらいに甘いものだと思ってたんだけど、違ったの  ね。歯ざわりもよく。イヤになるほどには甘くなく。栗ちゃんがちょっと薄か  ったけど、これはきっとモンブランとおんなじように考えちゃうからだよね。   こういうものなんだと思う。うん。おいしいよ。また買ってこようっと。     本日の教訓  名物に、うまいものアリ  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆今回の桃号、お楽しみいただけましたでしょうか。   ちょっぴりでも、楽しんでいただければ嬉しいのですけれど。   それではまた、7日のつく日にお会いしましょう。  ☆次回は3月7日にハニー号(テーマ『愛しい』)を発行の予定です。   --------------------------------------------------------------------                        ものかきのひと、集えっ!   ** 文芸広報 ** http://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/maga.html   本メールマガジンは、情報の山の中に埋もれた創作文芸物を発掘し、読むこ   とを楽しみたい人々への指針となることを目的とする、オンライン創作文芸   の宣伝告知サービスです。刊行ペースは週刊、毎週金曜日発行。  --------------------------------------------------------------------  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ☆ 発  行  ハートランド  ☆本日の担当者  上代桃世(kaidou@fb3.so-net.ne.jp)  ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して   発行しています。( http://www.mag2.com/ )  ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま   す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。   メールでのおとりよせもできますのでお気軽にどうぞ。  ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪  ☆お願い 掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞