※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※              ハ ー ト ウ ェ ー ブ  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 桃号 99.03.27 ※※※※  ☆こんにちは、上代桃世です。春の雨も、なかなか風情のあるものですが……   お花見の日には、降ってほしくはないやねぇ。桜は昼も夜もきれいだけど、   夜のほうが妖しげな儚さが漂っていると思うのは、あたしだけかしらね。   今年も、ほのかにピンク色の花ごはんを、おいしく食べた桃ちゃんでした。  φ本日のメニューφ   1.瞬キノ間ニ   2.Challenge!  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @瞬キノ間ニ@     5   黒い翼が背でゆれる。大きく広げて、はばたいてみる。両腕を広げたほども  ある翼は、背後に広がる闇のように思われた。  「後悔しても、もう遅いよ」   低い声が耳元で囁く。ラキーアの喉が鳴る。どんな言葉を飲み込んだのか、  ラキーア自身にもわからない。  「君のこんな姿を見たら、彼はなんて言うだろうね」   うすい唇が嗤笑に歪む。   ラキーアは、うつむく。足もとの淡い影を見つめるように。  「そろそろ来るよ。君の主が。使いを出しておいたからね」  「来ないわ、きっと」   研究所を出奔したウォルドとラキーアには、捕獲令が出されている。ラキー  アを盾に呼びだしたところで、連れ戻されるとわかっているウォルドが応じる  はずはなかった。  「君は、なんにも知らないんだね」   穏やかな声が、薄暮れの墓所を慰めるように響く。死者の石は、沈黙だけを  纏っていた。  「あなたに何がわかるっていうの」   俯いたまま、顔はあげない。翼がざわめく。   ジブリールが低くささやく。  「……あの方は、死が欲しいと言った私に、黙って望むものをくださった。そ  れから、いつか、身のうちに埋めた『死』をはずすように願ってくれとおっし  ゃった。お言葉に応えることのできないまま、あの方は去り……二百年が過ぎ  た今も、この身のうちに『死』は眠る。死のなんたるかを、君は知らない」  「ジブリール……?」   翼は、回路を壊すという。   パブロフ回路。登録された人物への、絶対服従を強いるシステムである。す  べての人形の胸に埋め込まれ、その行動を規制している。   登録される人物はひとり、ターラ・ボゥの指導者である。どこで、どんな風  に使われても、決してターラ・ボゥに不利益をもたらすことのないように、秘  かに埋め込まれているのだ。   売られた人形に課せられたプログラム・チェックとは、所有者も知らないパ  ブロフ回路に異状がないことを確認するためのものである。万一、なんらかの  手段で登録者が書き換えられていた場合には、ジブリールによって粛正される。   その事実は、研究所の中枢ふかくに秘められ、当の人形たちにも知らされる  ことは、ほとんどない。   接続索(ノイロンコード)でジブリールと繋がれたとき、人形たちは秘かに  その忠誠を試されるのだ。回路に正しい名が刻まれていればよし、でなければ  初期化されて再登録(リキャスト)される。   翼は、再登録時にジブリールが書き換えウィルスに感染、侵食された場合で  も、ターラ・ボゥを襲うことのないよう造られたものだという。そこには、絶  対服従を強いるパブロフ回路の遮断コードが記されているのだ。   ウィルスに感染後すぐに破壊行動に移ることを想定して、翼を背にあてさえ  すれば、自動的に装着プログラムが起動するようになっている。   人間のパートナーは、彼に翼を与えるためだけに、伴にあるのだ。  「君の鎖は砕かれた。誰の死を望むのも自由なんだよ。どんな死が欲しい?」   囁きは背中の闇を誘っている。   回路に縛られることのない今は、ウォルドの言葉にも規制されない。アズュ  ラフェールを傷つけるなと言われても、留まらずにすむ。   そればかりではない。   登録者を傷つけてはならない、その強制も無に帰した。誰を、どんなふうに  傷つけてもラキーアの電子脳は灼けつかない。   たとえ誰を、死なせても。   ターラ・ボゥの指導者以外の人物を登録されていたことで、粛正されるべき  であったラキーアに翼を与えたジブリールの目論見は知れない。   ただ、闇色の翼が背でゆれる。死の誘惑を撒くように。  「来たよ。君の愛しい主どのが。見せてもらおう、ラキーア。君の、真実(ハ  ート)とやらをね」   まばらな莱草を踏んで、ひとけのない宵闇の原を渡り、ウォルドが死者の石  を訪れた。  「ラキーア!」   草を踏む足音に、石の裏に隠れる。   黒い翼を隠す闇が訪れるまで、まだしばらくはかかるだろう。沈んだばかり  の陽の名残が、薄色の空に柑子のすじを引いている。  「お久しぶりです、ラティン師。お元気そうでなによりですね」   穏やかな声に、からかいの色が滲む。宵闇に、青い瞳が仄かな光を放ちはじ  める。ジブリールは微かな笑みをうかべていた。  「ラキーアはどうした。無事なんだろうな」   低く問われて、翼がゆれた。闇はまだ、さほど濃さを増していない。  「貴方は腕がいい。素晴らしい人形師ですよ。あの方の次にね。研究所が執着  するのも、ラキーアを見ればわかります」   ジブリールの制作者は、三百年にわたる研究所の歴史の中でも、一、二を争  う天才として名を残している。  「何をした」   ウォルドの声は掠れていた。   ジブリールは、バグを生じた人形のために、いくつもの修正プログラムを持  っている。そこには、人格矯正プログラムさえ含まれているのだ。  「私は、なにも。手出しなんぞはしていませんよ。ぜんぶ、自分で選んだこと  です」   微笑みが深まる。銀髪が風にゆらめく。  「ラキーアを返してもらおう」   ウォルドがラキーアを求めていた。  「彼女がそれを望むなら。どうしますか、ラキーア?」     L   誰がわたしを求めても、あの方でなければ意味はない。  @Challenge!@   いやあ〜。人間、やればやれるもんだねぇ。5時間半だよ。   なんの話かというとね。とある特番の話だ。いま、見てたの。デモテープを  聴くところから始めて、ジャケ写まで込みで5時間半!  サンプル版の製作に、たったそれだけの時間だなんて、とんでもないよね。   でも、やれちゃったんだよ。   もう、泣く思いしながらね。でも、泣いてるヒマなんかない。   泣くのは、あとでいい。いや。あとじゃなきゃ、泣けない。なにもかも、ギ  リッギリの状態でかわいそうなくらい……でも、できたの。   自分が持ってるもの全部で頑張るって、すごいことだよね。   やってやれないことなんて、ほんとは何もないかもしれない。   そんな気にさせてくれた。いま、少し長い作品にとりかかっていて。   実は、けっこうギリギリな気持ちだったんだけど。うん。そんなのは、あま  いんだね。   もっと、できる。もっと、やれる。   自分を、ぞうきん絞るくらいに、ぜんぶ使って。泣いてるヒマも余裕もない  くらいに。ぼろぼろになりたい。楽にやれることなんて、したくない。終わっ  たときには、涙もでないくらい――ギリギリまで。なにもかもを、出し尽くし  たい。   春だしね。   陽射しが力を増してきて、なんか、エネルギッシュになれる気がするでしょ  う?   だからね。   Let’s Challenge!  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆今回の桃号、お楽しみいただけましたでしょうか。   ちょっぴりでも、楽しんでいただければ嬉しいのですけれど。   それではまた、7日のつく日にお会いしましょう。  ☆次回は4月7日にハニー号を発行の予定です。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ☆ 発  行  ハートランド  ☆本日の担当者  上代桃世(kaidou@fb3.so-net.ne.jp)  ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して   発行しています。( http://www.mag2.com/ )  ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま   す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。   メールでのおとりよせもできますのでお気軽にどうぞ。  ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪  ☆お願い 掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞