ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※              ハ ー ト ウ ェ ー ブ  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 桃号 99.05.27 ※※※※  ☆こんにちは、上代桃世です。この数日は、アイスがうまいねぇ。アイスとい   えば、夏だよね。夏もち〜かづく♪ ということは! たいへんだっ!!   夏の準備をしなくては! 夏の準備、それはっ。ストレッチだよ〜ん。   最近はまってるのは、経絡ストレッチ。「鶴の舞」とか「黒ヒョウのポーズ」   とか。これがけっこう、イケルんだよ。かっこわるい、というか人に見られる   のは恥ずいんだけど。シャイだから。雑誌に載っててね。チャレンジしてるの   よ。きつくて、まだできないのもあるんだけど。載ってるやつ全部じゃなくて、   やれる奴からね。ちょっとずつ。チャレンジ。   夏の盛りにカッコイイために。今夜も桃世は「鶴」と「黒ヒョウ」になるのだ。  φ本日のメニューφ   1.瞬キノ間ニ(最終回)      バックナンバーは http://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/       99.01.27桃号から、連載してます。    2.きっと誰でも  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @瞬キノ間ニ@    9   残骸と化した『死者の石』で、動かないラキーアの身体をウォルドは抱いて  いた。  「許さねえぞ、ジブリール」   呻くように呟く。   アズュラフェールは、立ちつくしたまま言葉もなく目を伏せている。  「マイスターの胸で死ねれば――人形師にはわかるまい。百年の孤独も、渇望  も」   錆びたような声だった。ジブリールは、疲れたように言って静かに背を向け  た。  「ジブリール……」   アズュラフェールがささやくように名を呼んだ。おなじ人形師の手でうまれ  て二百年。時は、それぞれの重みでその背に負われている。  「だからって許さねえぞ。なにがあっても、おまえを叩き潰してやるからな」   ウォルドの肩が震えていた。声は――濡れて、いくぶん強張っている。  「お待ちしていますよ、貴方が私に勝てるならね」   背を向けたままジブリールは応える。  「さっさと行けよ」   ウォルドの胸に抱きしめられたラキーアの身体が、小さく金属性の音をたて  た。  「いずれまた、逢うことになるでしょう。アズュラフェール。あなたともね」  「行っちまえ!」  「気をつけなさい、ウォルド・ラティン。研究所の所長が、変わりました。貴  方の大嫌いなガレル・ロッソですよ」   ざらついたジブリールの声に揶揄の色が滲む。  「あの、くそ狸!」   数年前、ウォルドの父親が他界したとき、彼のもとに報せはなかった。当時、  部門長をつとめていたガレル・ロッソが破棄したのだ。   ウォルドが知ったとき、葬儀から七ヶ月が過ぎていた。   そして、ウォルドは出奔した。  「首を凍結保存で持ち帰れ、と言われています。脳から直接、記憶を再生する  と。研究所はまだ、あなたの成果を欲しがっているんです。また逢いましょう、  ウォルド・ラティン」   ふりむくでもなく、ジブリールは言った。夜風が、背の中ほどまでの髪をゆ  らす。   ざり、と砕けた石が足下で鳴る。  「……いつか絶対、潰してやるぞ」   誓いのような静かな声でウォルドがささやく。ジブリールの口許に、かすか  な微笑が刻まれた。  「楽しみにしています。あの方が目覚めるまで無事でいなさい、アズュラフェ  ール。その後で、ちゃんと壊してあげますからね」   錆びた歯車のたてる軋みのような声を残して、ジブリールは『死者の石』を  後にした。街へ向かうジブリールの背を、アズュラフェールは黙ったままで見  送った。     10   ウォルドの右足は、固まった血に黒くまみれていた。甲から突きでたほそい  骨のいくつかに、切れた白い糸のようなものが垂れ下がっている。足指はどれ  も潰れて、それぞれが別の方向に向いている。   激痛が知覚範囲を超えたのか、痛みよりも辛いものがあるのか、ウォルドは  静かに人形を抱きしめていた。   完治しても、杖もなく歩くことは、難しいだろう。   その足下に、回路が転がっている。  「わたしの胸の奥にも回路がある。人形だから」   膝をついて回路を拾いあげたアズュラフェールがつぶやく。   目を閉じて唇を噛むウォルドの手をとり、回路をそっと握らせた。  「永遠に貴方のもの」   その手を外側から包むように支えて、ささやく。   顔をあげたウォルドのタンザナイト・ブルーの瞳を捕らえて、ゆっくりと繰  り返す。   アズュラフェールに表情はない。造られたばかりの人形の顔でウォルドを見  つめていた。  「そういう意味だ。回路があれば、わたしも同じ事をしたかも知れない。胸か  ら回路を掴みだして、他の主はいらない、と――言えたかも知れない」   耐えかねたように、アズュラフェールが顔を背けた。  「アズュラフェール」   呼びかけに応えず、アズュラフェールはラキーアの服を破りとった。固まっ  た血の奥でぬらぬらと光る筋肉組織がのぞくウォルドの右足を、手早く縛りあ  げてゆく。   くっ、とウォルドが息を詰めた。  「勇魚シリーズにパブロフ回路はついていない。だから、胸に刻む名はあの方  のものだと、言うことができない」   静かに語るアズュラフェールの声はどこか、去り際のジブリールに似ていた。  「わたしの胸には封印回路が埋まっているんだ。パブロフのかわりに。どんな  回路なのか――教えていただくことはできなかった」   研究所を出ることのない人形師は、その臨終も研究室で迎える。そのうちの  幾人かは細胞を採取され、あらたな才能を生み出すべくクローニングが施され  る。   そうでない者は、研究所の一角で焼かれ土になる。   勇魚は、どちらでもなかった。   ウォルドと同じように、研究所を脱出しその死亡も確認されていない。   どんな理由で外に出たのか、それを知るものもない。   勇魚のうみだした人形たちにパブロフ回路が組み込まれていないことと、あ  るいは――   アズュラフェールが微笑む。  「埋めてやろう。人間のように」   アズュラフェールの頬から涙がひとすじ、伝い落ちた。      L   封印回路が辿りつくべき場所へ導くだろう、とあの方は言われた。わたしは、  どこへ向かえばいいのだろう。  @きっと誰でも@   最近、ちょっと機会があって「ひきこもり」と呼ばれることについて考えた。   お家からでない、お部屋からでない。他人とのコミュニケーションにちょっ  と躊躇しているから。   そういうことを、「ひきこもり」と呼ぶのだそうだ。   周囲の期待するものと、自分自身とのギャップに苦しんでいる。   傷つけられるんじゃないか、傷つけてしまうんじゃないか、と怯えている。   彼らは、そんな風に感じていると書かれていた。……繊細なんだね、きっと。   タイトルは、そのものズバリ。   「ひきこもる若者たち」(ごっめーん、出版社も著者名も控えてこなかった。  次回、きちんと報告します。失礼なコトしちゃった……ごめんなさい)   その本を読んだときに、まず思ったことは。   『あり』なんじゃないか、ってこと。   逃避って言われちゃうかもしれない。他のどんなことから逃げられても、自  分から逃げられたりはしないんだよと、きっと言われる。   でもね。   闘うばっかりが能じゃない。逃げるってのも、『あり』だよね。   だって、言うじゃん? 『三十六計逃げるに如かず』って、ね。   そりゃ、闘い方は知らないかもしれない。でも、逃げ方は知ってるんだから、  それでいいじゃん? 逃げるっていうのも、闘う方法の一つだよね。   『三十六計〜』は、兵法だもん。   「自分」でいるための方法を、少なくとも一つは知っている。充分かもしれ  ないよね。逃げ方を知らないばっかりに、カミソリとか睡眠薬とか使っちゃう  人だって、いる。逃げても、いいんだよ。いつまで、どこまで、どんな風にそ  れを続けるのか。そんなこと、わかんないけど。   逃げなくてもいられるようになったら、動くんだよね、きっと。どんな風に  かは、わかんないけど。   だからそれまで。いいんじゃん、逃げてても。慣れるまで、譲れない輝きに  魅かれるまで、胸の奥に情熱の灯がともるまで。すこし、のんびりするのも、  『あり』だよね。   そう、思ったの。   だからね。   いいんだよ、うつむいても。うずくまっても、いいんだよ。   ハートに熱がたまるまで、すこし休んで、だいじょうぶ。   そういう気持ちに、なったんだ。ね、だいじょうぶ。誰でも、ね?  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆今回の桃号、お楽しみいただけましたでしょうか。   ちょっぴりでも、楽しんでいただければ嬉しいのですけれど。   それではまた、7日のつく日にお会いしましょう。  ☆次回は6月7日にハニー号(テーマ『愛しい』)を発行の予定です。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ☆ 発  行  ハートランド  ☆本日の担当者  上代桃世(kaidou@fb3.so-net.ne.jp)  ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して   発行しています。( http://www.mag2.com/ )  ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま   す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。   メールでのおとりよせもできますのでお気軽にどうぞ。  ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪  ☆お願い 掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞