ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです  %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%             ハ ー ト ウ ェ ー ブ  %%%%%%%%%%%%%%%%%%% パラダイスハニー号 99.08.07 %  ◎夏、まっさかり! といえば。そう、アレですね。旅行のお供に、夕涼みの   お供に、まさにうってつけの……アレでございます。   そんなわけで、今回はこれです。   本日のテーマ ; 『イナガワ』   それではどうぞ、真夏の夜の囁きをお愉しみください。  φおしながきφ   1.蠱毒(こどく)   MOMOYO KAMISHIRO   2.コレクション    YURIE HANAYAMA   3.ようかいずかん。  MOMOYO KAMISHIRO  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @蠱毒@   足が竦んだ。   腰から闇に吸われるように力が抜けて、かわりに震えが這いのぼってくる。   息を吸うと引き攣れたようになって、うまく吐けない。瞬きもできずに開い  た目には、乾きで針に刺されたような痛みが走る。   かすかに開いた口の奥から、かたかたと歯の鳴る音がもれてくる。  午前二時。   ワンルームのマンションで、誰が助けに来るはずもない。   そもそも――この新宿で、どうしてそんなものが現れるのか。   ベッドの上に、鎌首をもたげた蛇がとぐろを巻いているのだ。三角にとがっ  た頭の形は、あれが毒を持っている証拠だ。黒っぽい体に、更に濃い色の斑が  並んでいる。ラジオの雑音に似た威嚇音が、暗い部屋に染みてゆく。   背中を汗が伝ってゆく。こめかみに、肘の内側に、濡れた感触が糸をひいた。                      presented by MOMOYO KAMISHIRO  @コレクション@   ぱちん、と小さな音を立ててスイッチが切られると、部屋は一瞬のうちに暗  闇に包まれた。微かに開いた窓から流れる風が、時折カーテンを揺らすたび、  そのわずかな隙間から、澄んだ水よりも青い月の光が流れ込んでくる。   シャワーを浴びたばかりの肌に、もう汗がはりついていた。   彼女は冷蔵庫の前でぺたりと座り込むと、そっとその扉を開けた。   すうっと流れ出る冷気を頬に受けながら、幸せそうに口元を綻ばせた彼女は、  そのまま両手を伸ばして何かを取り出した。   つるりとしたアクリルを思わせるなめらかな光沢に包まれたその面に、ぽっ  かり穿いた二つの穴が、無限の空虚さを湛えて彼女を見つめている。  「約束通り。あなたは永遠に私のものよ」   もの言わぬされこうべは、ただ彼女の腕に掻き抱かれるままとなっていた。                       presented by YURIE HANAYAMA    @ようかいずかん@   最近の流行に、こんなものがある。日常にひそむ妖気をみつけ、名前をつけ  て形をやるのだ。そう、たとえば……  その1 妖怪・うちわ   気まぐれに人をあおぐ。自分の周囲にだけ、ふよ〜っ、と風が吹いていたら、  この妖怪の存在を疑うべきである。おもに足下をあおぐが、ときおり髪をゆら  すこともある。夏ばかりでなく、冬場にもでる。冬に遭うと寒い。あおぐ空気  が冷たいからだ。風邪を肺炎にすることもあるので、冬場の『うちわ』には、  注意が必要だ。  その2 妖怪・御神輿   適当な間隔で歩いている無関係な通行人、数人の肩の上に突如として出現す  る。どこからかオハヤシが響いてきて、わけの分からないうちに「わっしょい」  させられてしまう。数時間かつがされたあげく唐突に解放されるが、どこだか  全くわからないほど元の場所から遠く離れている。  その3 妖怪・ねむねむ   トトロにでてくる『マックロクロスケ』を白くしたような形をしている。人  間の腕や足に、へちょっ、とくっつく。すると、そこから抵抗しがたい眠気が  広がってゆく。いつのまにか増えていて5,6匹たかっていることがよくある。  これをくっつけたまま冬山に行くと100匹くらいになってしまうので大変キ  ケンである。冬山に向かう際には服を裏返して叩き、『ねむねむ』を落っこと  しておくことが重要だ。   な〜んて、ね。いや、なんだか、マイブームでね。勝手に妖怪をつくるの。  変に楽しいんだよなあ。いろいろできるんだわ、これがまた。他にもあるよ。  妖怪・却下とか妖怪・運転席とか妖怪・ペットとかね。   ……やってみ?                      presented by MOMOYO KAMISHIRO  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆こんにちは、上代桃世です。   夏っぽく、『イナガワ』にチャレンジしてみましたパラダイスハニー号、   お楽しみいただけましたでしょうか。   それでは、ここで一発。    とある、本屋さんでのことでした。後輩と二人、たくさんの本の中を徘   徊していたわたしは、ヒールをすべらせてバランスを崩したのです。    わたしのすぐ後ろ、向かい側に立つ後輩からは斜め前のあたりに立つ人   にぶつかりかけ……それぞれが声をあげました。   「先輩、ぶつかるよっ」「あっ、すいません」    かろうじて体を立て直したわたしの後ろには、誰も、いませんでした。    わたしたちは顔を見合わせ……いま、男の人いたよね、と言いあったの   です。    少し白の混じった髪を五分刈りくらいにして、ジャンパーを着た30代   後半くらいの男の人。背はさほど高くなく、170あるかないか。手に持   ったハードカバーを読んでいた。    立ち位置から、やせ形の体型、猫背ぎみの姿勢まで、二人の言葉が食い   違うことはありませんでした。    乾いた笑いを短くもらしたわたしたちが、慌ててそこを出たことは言う   までもありません。    でも、いま思えば――そんなふうに慌てなくても、よかったのかもしれ   ません。だって、きっと、読みたい本があったんでしょう。     そんなにも、読みたいと思ってもらえる……そんな小説屋に、桃世はな   りたいと、今は思います。まあ、あの時は、びっくりしたけどね☆                                   ☆次回は今月27日に桃号をお贈りする予定です。17日の花号はお休みなの   で、あいだがあくけど、待っててね♪  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ☆ 発  行  ハートランド  ☆本日の担当者  上代桃世(kaidou@fb3.so-net.ne.jp)  ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して   発行しています。( http://www.mag2.com/ )  ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま   す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。  ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪  ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞