ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%            ハ ー ト ウ ェ ー ブ %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% ハニー号 99.09.07 %%%% ◎ハートウェーブ・ハニー号では、毎回、テーマに沿ったささやきをお贈りし  てゆきます。今日のテーマは、『快楽』。どうぞ、ささやかな贈り物をお楽  しみください。 φ本日のメニューφ  1.シャボン玉ホリデー Yurie.H  2.快/KAZAN−DOLL Momoyo.K  3.これからのテーマ ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ @シャボン玉ホリデー@  ゆっくりと倒された途端、重力から開放されたような心地良さに包まれて、 彼女はほうっと小さなため息をついた。  柔らかな布が近付いてくるのを見つめながら、目を閉じる。逸る気持ちを静 めるように、胸の上で組んだ手に力を込めたのは、明かりを奪われた不安のた めではなかった。  男の大きな手がやにわに彼女の頭を掴んだ。一瞬強張った彼女の身体は、し かし、髪の間に滑り込んだ男の手がゆっくりと愛撫するように動き出すと、そ の指に導き出されたふわりと浮き上がるような感覚に、たちまち支配されてい った。  かすかに漂う花の香りが、甘い。いたわるように慈しむように、優しく、時 に力強く頭を撫で回す男の指の感触が、まるで頬に触れるそれと変わらずに感 じられる。  すうっとこめかみをなで上げられて、再び身体を固くした彼女に、彼が言っ た。 「では、お流ししますね」 Yurie. H @快/KAZAN−DOLL@  霜山華燦――を、ご存知ですか。  そう……ご存知ないですか。  いいえ。  恋人よりも、ずっと深い間柄です。             * * * * *  黒髪が、シーツの白に闇を染めぬく。  肌掛けも枕もない、純白のシーツばかりの寝台にひろがる髪に唇をよせて、 男はなにごとか囁いていた。  男の手が、肌を這う。  ちいさな足指をさすり、わずかな窪みを辿って、まるい踵を手のひらに包み こむ。長い指で括れた足首の腱を撫でる。  あるいはまた、なだらかな背から小ぶりのまるみへと伝い降ろした湿った指 先を、その狭間へと潜り込ませ蠢かせる。  舌が、頬から首筋、ほのかな胸の膨らみを舐めねぶり、濡らしてゆく。  ――…………!  音のない声に、空気が揺れた。  蓮花に似た香りがただよう。  部屋には香炉はおろか、匂袋も花もない。床に散らばったままの丸鑿(まる のみ)や鐇(たつき)に、細かな木屑、ちぎれた天蚕糸が混じっているが高貴 な香りを醸すものはなにもない。  肌が、かすかに色づいていた。きつく閉ざされていたはずの唇が、ひらいて いる。  男の指が、ゆっくりと唇の奥に差し入れられる。  荷葉(かよう)、と低い声がつぶやく。  男の手が、ふとももを滑って、その奥をまさぐる。  濡れていた。  静かに身を起こした男の唇が、ゆるく歪んで艶めいている。  ずるり、と嬲っていた口から指をひきぬいた。濡れた指を拭いもせずに、自 身の帯の隙間を探った。 「女は、やはりこうするのがよい。艶がでる」  男が帯の間から取り出したものは、紅猪口であった。男にしては細造りの手 が猪口をささえ、小指が金を帯びた紅をすくう。 「愛でただけで口をあけたおまえだ。精をやれば、夜中どころか真昼にまで歩 き出すかもしれん」  喉の奥でひくく嗤いながら、男は、唇に紅をのせてゆく。 「名をやろう。蓮花の香に免じて、おまえの名は荷葉。おお、彫りあげた時よ りも女ぶりがあがったな」  あかく染まった人形の口に、男はそっと唇を重ねた。舌を差し入れてでもい るのか、男の頬が蠢いている。 「不思議なことよ。彫り込んだ覚えのない歯や舌が応える。同じように愛でて いても、一体ずつ、口の開きや顎のあがりが違っている。おまえは、いままで のどの人形よりも艶めかしい――淫らだな、荷葉よ」  むきだしの下肢を撫でさすり、男は荷葉を抱えあげた。  男は名を、霜山華燦(しもやまかざん)といった。  のちに荷葉は、華燦後期の傑作と呼ばれながら、幻とされることになるのだ った――。             * * * * *  霜山華燦を、ご存知ですか?  霜山華燦(しもやまかざん)/1958年生まれ。東京都出身。人形師。 Momoyo. K @これからのテーマ@  実は今回から、私達二人は新しいチャレンジを始めました。  まず、テーマは今回の『快楽』から始まって全部で4つで完結です。次回の テーマは...お楽しみのために発表しません(笑)  形式的には、私は相変わらず400字での描写にチャレンジ、桃世ちゃんは ショートストーリー。桃世ちゃんのは、連作になるのかなぁ? 私も連作は用 意していたんですが、今回はちょっと息抜きというか、こんなおバカなオチも のを載せてみました。もしも連作が見たい!なんておっしゃって下さる奇特な 方が一人でもいらしたら、来年にでも花号でご披露しま〜す。  というわけで、最後の4回目まで、どうぞお楽しみに。 ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ ☆こんにちは、花山ゆりえです。  ハートウェーブ・ハニー号、お楽しみいただけましたでしょうか。今回から 新しいチャレンジを始めましたが、みなさまに少しでも楽しんで頂ければ幸い です。  それではまた、7のつく日にお会いしましょう。                 ☆9月17日は花山ゆりえの花号、27日は上代桃世の桃号を発行の予定です。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆ 発  行  ハートランド ☆本日の担当者  花山ゆりえ(yn6y-iruc@asahi-net.or.jp) ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して  発行しています。( http://www.mag2.com/ ) ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま  す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。 ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪ ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞