ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです ÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷            ハ ー ト ウ ェ ー ブ ÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷÷ 花号 99.09.17 ÷÷÷÷ ☆こんにちは。花山ゆりえです。  もうすぐお彼岸だというのに、相変わらず蒸し暑い日が続いてますね。まだ まだ体調を崩し気味の方もいらっしゃるのではないでしょうか?  お元気な方にもそうでない方にも、今日のハートウェーブからのささやかな 贈り物が、少しでも喜んでいただけることを祈りつつ。 φ本日のメニューφ  1.残照  2.まだまだです(^^;) @残照@  窓の外に広がる空は澄み切って高く、太陽は眩しく輝いている。  明るい日差しにはまだ夏の名残がとどまっているものの、美しく晴れ渡った 空に薄く流れる筋状の白い雲は、すでに秋の気配を感じさせていた。  せわしなく飛び交うジャンボ機の騒音も、ここまでは届かない。むしろ、出 発までの時間を潰す人達でひしめき合うこのラウンジの喧噪の方が賑やかなく らいだ。  さっきから会話が白熱している隣のテーブルのビジネスマン達も、この賑や かさに負けじと更に声を張り上げている。  関西で第一の国際空港ともなれば当然なのだろうが、正直、恋の相談を持ち かけるのに相応しい場所とは思えない。だから、まさかこっちに到着早々、空 港に呼び出されるとは思ってもいなかった。  彼は普通の大学生なのよ、と独り言のようにぽつりと言って、彼女は薄く笑 った。どこか自嘲めいた声の響きと相まって、無理してそう言っているのだと 嫌でもわかる。  もちろん、「彼」は「普通の大学生」なんかじゃない。僕も「彼」のことは テレビで見かけたりしているから、それなりに知ってはいる。だから、わかっ ている。  彼女はそう言って、自分と彼との距離を隔てようとしているだけなのだ。そ れで自分が、救われるとでも思っているのだろう。そんなことはあり得ないこ となのだと、わかりきっているはずなのに。  それきり黙っていた彼女が、両の手のひらで包んでいたカフェオレのボール から、ゆっくりと顔を上げた。僕と目が合うと、また少し悲しそうに微笑んで、 ぼんやりと視線を窓の外に逃がす。  口にしないからこそ、彼女の想いが痛いほど感じられた。  諦めなくてはいけないと、たぶん彼女は思っている。そう理性では思ってい るのだろうけれど、こんな彼女を見ていればわかる。  今、彼女の心の中は「彼」のことでいっぱいなのだ。だからこそ、悩んでい る。「彼」のことで一杯になってしまっている自分を、どうして良いかわから なくて、今更のように、自分の中の想いの深さを持て余している。初めて恋を した、少女のように。  昔から彼女には、こと恋愛において、良い意味で堅実で保守的な、悪く言え ばすぐにすくみ上がってしまう臆病なところがあった。そのくせ趣味なのかと 思うくらい一目惚ればかりするのだから、本当に質が悪い。  そうして一目で人生を賭けてしまうほどの恋に落ちてしまうくせに、相手の ことが一つ一つわかってくる度に、次々と否定的な要素ばかりを見つけ出して きては、自分にはこの恋は無理なのだ、相応しくないのだと勝手に結論を出し、 結局その恋を諦めてしまう。  たぶん彼女は、傷つくのが怖いのだろう。だから、本当に傷つく前に、自分 から諦め、引いてしまおうとするのだ。  テイク・オフしていく旅客機を見るともなしにぼんやりと眺めながら、彼女 がまたため息をついた。今度はさっきのよりもだいぶ深いため息だ。心ここに あらずの風情は、彼女がそれだけこの恋に捕らわれていることの現れ以外の何 ものでもない。  けれど、僕にはわかっている。おそらくは食事も喉を通らないほどこの恋に 捕らわれている自分に、彼女はどこかで酔っている。そんな恋を出来る自分を 彼女がこの上なく愛していることを、僕は経験上知っているし、今度の相手で ある「彼」への恋に戸惑う要素を持ち出してきたのも、結局は、障害を作るこ とでかえって自分の中でこの恋を燃え上がらせようと言うドラマティックな仕 立てのためなのだ。  そうやって大仕掛けにした恋を、彼女はあるところでいつも、あっさりと終 わらせてきた。ひょっとすると、彼女が恋しているのは相手ではなく、自分の 中のその世界なのかも知れない。  とは言っても、今回ばかりはどうも今までとは様子が違うように見える。ひ ょっとすると、これはかなりの重症か、もしくは新手のパターンにはまったか。  隣のテーブルのビジネスマン達が、一斉に立ち上がった。大きな声で挨拶を 交わす彼らの賑やかさに、彼女も一瞬、気を引かれたように視線を向けた。  ここがどこなのかを思い出した、と言うように、彼女は僕の方に向き直ると 少し肩を竦めた。少々賑やかすぎることに、さすがに気が向いたようだ。  僕は場所を移そうか? と聞いたが、彼女は口元に微かな笑みを浮かべると、 ゆるゆると首を横に振った。  ひどく頼りなげなその仕草には、僕の時間を潰してしまっていることへの気 遣いが感じられた。とっととこんなものは終わらせてしまいたいに違いないの だろうけれど、終わらせてしまいたいのは彼女の恋なのか、それとも、二人で いるこの時間なのかはわからなかった。  気まずさの一歩手前にかろうじてぶら下がっているような沈黙の中で、彼女 は手の中のカフェオレのボールにじっと視線を落としたままでいる。言いたい ことはあっても、言葉が見つからないのか、とも思う。少なくとも、今回の恋 についての大切なことは、全部僕には言ってしまっているはずなのだから。  初めて彼女から「彼」のことを聞かされた日のことは、今でもはっきりと覚 えている。いつもより一トーン高い声で電話してきたその声に、ああ、また新 しい恋を見つけたのだ、とすぐにわかった。どうしてそんなに嬉しそうな声で 話すかなぁ、と、正直げんなりしたのだが、もちろん、そんな気配は見せなか った。そう、そんな話を彼女が本当に打ち明けることが出来るのは、僕しかい ないのを知っているから。  夏の終わりに、彼女は「彼」を見つけた。彼女よりも大分年若いはずの彼を 見たときに、身体の中を電流が駆け抜けたのだという。最近流行りの言葉で言 うなら、ビビっと来た、というヤツだ。  夏が急速に駆け抜けていこうという時季、見つけた彼のまぶしさは、彼女に きらきらと輝く青春の面影を思い起こさせたのだろう。自分の中から確実に失 われていきつつある若さを、今を盛りと当然のように弾けさせ、ただ闇雲にま っすぐに、がむしゃらに駆け抜けようとしている「彼」の力強さは、おそらく 一瞬で彼女の心を掴んでしまったに違いない。自分もかつて確実に持っていた それを見せつけられて、懐かしかったのかもしれない。  けれど、事態は急転直下した。そのわずか一週間後に電話してきた彼女の様 子は、すでに幸福の絶頂にいる女のそれではなく、恋の終わりの予感に怯える 哀れな女のそれに変わっていた。  一番の決め手になったのは、彼がまだ現役の大学生であったことで、その事 実が、急に「彼」と自分との年の差を思い知らせたと言って、彼女は電話の向 こうで泣いていた。  それが何か障害になったのか?と聞いても、ううん、と言う。会話がちぐは ぐだとか、価値観が大幅にずれているとか、そういうちょっとしたぎくしゃく があるのかと聞いても、ないという。それなら何も問題はないじゃないか、と 言う僕に、彼女はただただ泣きながら、だって、普通の大学生の男の子なのよ、 と言った。私には無理だ、と。  自分がとうに離れてしまった世界に未だ身を置く彼の「若さ」に惹かれたは ずなのに、それを手元に引き寄せてしまったら、思っていたよりも眩しかった のですくんでしまった、と言う感じなのじゃないか、と僕は思った。そう彼女 にも言ったのだけれど、彼女には何のなぐさめにもならなかったようで、その しゃくり上げる泣き声を止めることは出来なかった。  それきり電話はなくて、僕は、彼女はあの恋を一体どうしたのだろう、と思 っていたのだが、今、こうして呼び出されて実際に会って見る限りでは、どう にもこうにも、彼女の言葉の通りに吹っ切れているようには見えない。  ひょっとすると今回は、今までのような結末にならないのじゃないか。僕は どこか確信に近いものを感じながら、そう思っていた。もしかしたら、彼女は 今度こそ、最後の一歩を踏み出してしまうかもしれない。  窓の外に溢れる日差しは、少しずつ弱まりかけてきていた。日も短くなり、 これからはだんだんと本格的な秋になっていくのだろう。  深まりゆく秋の穏やかさは、ひょっとしたら彼女の心をそっと癒やしてくれ るだろうか。眩しい夏の象徴のような若さに溢れた「彼」への想いに勝手に傷 ついた彼女の心を、優しく包み、そして、ひっそりと息づくように、小さな勇 気を与えてくれるのだろうか。  僕にも、彼女にも、もうほとんど残されていないのかもしれない、あの輝き。 それを持つ「彼」を彼女がこんなにも愛しく想わずにいられないのは、もしか すると、自分の中から駆け抜けていこうとしている最後の「若さ」を、引き留 めたかったからなのかも知れない。  カフェオレを飲み干した彼女が、また小さくため息をつく。俯いたその顔を 眺めながら、僕は、夏に焦がれるように「彼」に恋をした彼女が、また少し綺 麗になったことに気づいていた。 @まだまだです(^^;)@  さて、またまた遅れてしまいましたが、今月の花号、何とかお届けすること が出来ました。毎月毎月みなさまを冷や冷やさせてしまってごめんなさいです。  もう、ね、自分で足りないのは悔しいほどわかってるんですが、とにかく、 言い訳はしないぞ! と決めておりますので、今の自分に書ける精一杯のもの を、書いたつもりです。  一歩一歩着実に進んでいけるように……これからも頑張りますので、どうぞ よろしくお願いいたします☆ ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ ☆今回の花号、お楽しみ頂けたでしょうか?  これから本格的な秋に向かって、食べ物も段々美味しくなってきます。夏の 疲れを癒やして、実りの秋を楽しみたいですね☆   ☆次回は27日に桃号を発行の予定です。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆発    行  ハートランド ☆本日の担当者  花山ゆりえ(yn6y-iruc@asahi-net.or.jp) ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して  発行しています。( http://www.mag2.com/ ) ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま  す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。  メールでのおとりよせもできますのでお気軽にどうぞ。 ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪ ☆お願い 掲載された内容を許可なく、転載しないでください ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞