ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです  %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%             ハ ー ト ウ ェ ー ブ  %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% ハニー号 99.10.07 %%%%  ◎ごめんなさい。ちょっとしたトラブルがありまして……たいへん遅くなった   あげくに、予定を変更して、本日は特別編をお贈りします。   どうぞ、ささやかな贈り物をお楽しみください。  φ本日のメニューφ   梅花非恋  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @梅花非恋(ウメノハナコイニアラズ)@   ざあっ、と音をたてて夜の闇を花びらが舞う。   音もなく進む馬を撫でるように、一陣の風が吹き抜けていった。馬上の男に、  青くあまい花の匂いが纏いつく。  「梅……?」   つぶやいたのは、葛原保南(くずらはらのやすな)。陰陽頭(おんみょうの  かみ)・阿部晴明に見いだされながら、数年前に破門を申し渡された男である。   ぎぃ、と車の音が夜に響く。   舎人が供をする牛車のあとを、保南は少し離れて馬で続く。嘶きはおろか、  蹄の音さえたてることなく進む馬の足下には、月あかりに照らされた保南の影  が色濃くうかぶ。   牛車が止まった。   続いて馬をとめた保南は、薄く目を閉じるとちいさく鼻をならした。  「やはり、な」   ぼそりと声を漏らして、懐から取りだした白い羽を唇の前にかざす。いとお  しげに吹きかけた息がどのようにはたらいたものか、瞬きの間もなく、手の中  の羽は羽ばたきの音を残して消えていた。   保南のうすい唇に笑みが浮かぶ。   都をはずれ、ひっそりと建つ庵での隠棲をはじめてからもう、三年あまりが  過ぎようとしている。都から一里ほど離れたそのあたりは、花の盛りと祭りの  他はにぎわうこともまるでない。静穏な林の中に眠るように保南は暮らしてい  るのだった。  その保南を、どこからどうたずねあてたものか、都からの使者が訪れたのは  二日前のことである。  主の名は明かせぬという使いの口上によれば、若君があやかしに魅入られた  のに違いなく、このままでいけば数日中にも若君の命は失われてしまうだろう、  ついてはあやかしを退治し若君を救って欲しい、とのことだった。   音にきこえた師・晴明でなく、野に下った得体も知れぬ身を訪ねるとなれば、  よほどの理由があるのだろうと引き受けた保南は、その日のうちに都へ入った。   誰が棲むとも知れぬ邸に若君が通いはじめたのは二十日ほど前からで、それ  以来、日のあるうちに起き出すことはなく、ふっくらと珠のようだった顔も、  いまは、どす黒い皮がはりついた髑髏のように見えるという。   夜歩きに供をする舎人が一度、昼間に件の邸を訪ねたものの、確かに通った  はずの道に邸はなかったとか……。  「――白玉か何ぞとひとの問いしとき、か」  《白玉か何ぞとひとの問いしとき 露とこたえて消えなましものを》   ある男が、懸想した高貴の姫君を背負って舘を抜けだしたとき、外にでたこ  とのない姫君は煌めく夜露をさして、あれは何か、白い玉かとたずねた。追手  を畏れて駆けに駆けていた男はそれに答えることもせず、一息いれようと川の  ほとりで背から降ろしてわずかに目をはなした隙に、姫は鬼に喰われてしまっ  て跡形もなかった。背から姫に問われたときに、露と答えて、いっそ夜露のご  とくに消えてしまっていれば酷い目にあうこともなかったであろうに、と嘆い  た男がうたったという。   のちに、この男というのは在原業平で、姫は鬼に喰われたのでなく、追って  きた兄たちに連れ戻されたのだという噂がまことしやかに囁かれることになっ  たが、ほんとうのところを知る者はむろん、ないのだった。   姫にとってのまことの鬼とは、あるいは、恋しい男と引き離しに来た兄たち  だったかも知れない。   ぎい、と牛車が動き出した。   この場所に止まってから小半時も過ぎてはいない。そればかりか、若君は車  から降りることさえなかったのだ。だが、それもいつものことであるらしく、  供の舎人は訝しげな様子も見せずに車の向きを変えると、保南の前を過ぎ去り  ざまに小さく頭を下げて、そのままもときた方へ帰っていった。  保南は、若君がどこへ帰るのか、その先を知らない。鬼祓いを引き受けたの  ちも、やはり素性は明かせぬと、通う道の途中で待たされたのである。   おぼろな月に照らされた、色のわるいうすい唇に、わずかな苦笑がうかんで  いた。   ばさり、と重い羽音が耳をうつ。すべるように掲げられた腕に、ふくろうが  舞い降りる。保南のきつい目が、いとおしげにゆるむ。  「ご苦労であったの、破切丸」   その言葉が終わらぬうちにふくろうは消え、もとの羽がしろい手に握られて  いた。羽を懐にしまい、身じろぎもせぬ馬の首をひと撫ですると、囁くように  つぶやいた。  「さて、では参ろうか、清(さやか)よ」   一瞬後、ほそい笛を手にした保南がひとり、佇んでいた。先ほどまで跨って  いた馬の姿はどこにもない。これも、ふくろうと同じ保南の式神のひとつであ  るらしかった。   牛車が止まっていた邸の前に進むと、音もなく門が開いた。ためらう風もな  く門をくぐれば、闇に灯をともしたがごとく白梅が咲き誇っていた。あまい香  りが夜気にまじって、しめったように感じさせる。  『お初にお目にかかりまする、葛原保南(くずらはらのやすな)さま』   白梅を背に、薄紅に紅、濃紅とかさねた袿(うちぎ)姿の若い女が頭を垂れ  て立っていた。  「むかし、この辺りで貴人の姫に懸想した鬼が討たれたことがある、と師にき  かされた。鬼は討ち果たしたものの、障気にあてられたのか、魅入られた姫は  そののち三日とたたぬうちに儚くおなりなされたとか。……御名を、なんと申  される」  『眞弓と申しまする。いかにも、鬼に魅入られたは、この身でござりますれば』   顔をあげた眞弓の紅いくちびるが、肌の白さに際だっている。  『今宵、当代随一の陰陽師、安部晴明さまの愛弟子たるお方をお迎えいたし、  はやも救われた心地がいたしまする』   微笑みが、花のあかりに艶やかに映える。  「見たところ、かの若君をとり殺すつもりがあるとも思われぬ。いかなる仕儀  か語ってはもらえぬか、のう、眞弓どの」  『……聞いてくださりませ。もう、どれほどむかしのことになるか、このわた  くしにも分かりませぬ。あれは、花の季節のことでござりました――  「もう、お帰りなされますのか、螺羸(すがる)さま」   しどけなく、素肌に袿をかけたなりの姿で娘は肘をついて身を起こした。傍  らで、若い男が張りつめた背を晒している。  「許せ。夜の明ける前に帰らねば、塵と化して二度とは逢えぬ」   娘に背をむけたまま、浅黒い肌に木賊色の単を羽織る。沈んだ声が、先まで  の熱を払いきれずに濡れている。  「……すまぬ、眞弓。我には、そなたを祭りに連れ出すことも、寺社へ参らせ  てやることもできぬ。ともに朝を迎えることさえできぬ浅ましき身を顧みず、  欲しいまま、無理矢理に我がものとなした――」   枕辺の灯に娘の影ばかりが、よろめくようにゆれている。奇妙なことに、若  者に影はないのだった。  「わたくしの望みは、ただひとつでございます。この、胸にこうして抱かれる  こと……ほかのことは、望みますまい」   かけた袿を払いおとして、娘は背から男の胸に手を這わす。  「眞弓……」   いたわるように声が洩れる。  「君さまは、後悔なさっておいでか。わたくしを、訪れたことを」  「せぬ。哀れなことと思いはすれ、手放すことなぞ、もうできぬ」   巻きついた手を荒く剥がして、男は娘と向き合った。娘の、細い肩がふるえ  る。  「眞弓は、恐ろしゅうございます」  「我が――」  「君さまの、お心がわりが恐ろしい」   つ、と潤んだ瞳を娘はそらす。浅黒い手が、あらわな胸に袿を、纏わせる。  その手の爪は長くのび、刃のように尖っていた。娘を見やる哀しげな目も、常  の色とは違っている。すみれの色に似ているのだ。  「君さまには瞬きほどの時間でも、眞弓は人の子、肌に皺が寄り髪には霜がふ  りましょう。醜く老いさらばえたこの身に、なんの価値がありましょうや。な  れば、そうなる前に、みずから黄泉路をたどりましょうぞ」  「させぬ。まさしく我には瞬きほどの時にすぎぬ。その、ほんのわずかな間さ  え、そなたは側にいてくれぬのか。そなたが去ったあとには、数えきれぬほど  の夜をひとりきりで過ごさねばならぬというに……」  「螺羸さま」  「眞弓」   ふたりは、ひしと抱きあった。   螺羸は、胸にすがりつく眞弓をいとおしげに優しく、けれど、自身はまるで  痛苦に耐える罪人であるかのように眉を寄せて、抱いている。  「お誓いくだされまするのか。この先、どのような姿をさらしても、手を離さ  ずにいてくださると……?」   眞弓が囁く。ごくりと螺羸の咽頭がうごめく。  「誓うとも」   乾いた、螺羸の声であった。  生き血を啜り肉を喰らうあやかしの身に、眞弓のあまい柔肌は、はげしい飢  えを覚えさせるのかも知れなかった。  「幾たりとでも誓ってやろう。決して離さぬ。そなたが黄泉路をたどったあと  も、幾億の夜をながらえ、いまひとたび巡り逢うを待ち続けよう。そなたのほ  かは、胸には抱かぬ」  「ほんとうに……?」   囁きながら、なおもすりよる眞弓を抱いて、螺羸は深いため息をつく。やわ  な躯をゆるりと剥がし、血を吐くように誓いをたてる。  「偽りは申さぬ、そなたにだけは」  「うれしい。なれば、わたくしもお誓いいたしまする。未来永劫、幾度うまれ  かわっても、君さまをお慕い申しあげておる、と――」   欲を抑えた螺羸(すがる)の苦痛を知らぬげに、童女のような澄んだ笑顔で  眞弓も誓う。  「さあ、もう、行かねばならぬ。そなたと過ごす夜は短い。まこと、口惜しい  ほどにの」   眞弓の笑みに誘われたのか、微笑をうかべて立ち上がる。いつのまに身仕舞  いを終えたのか、韓藍(からあい)の直衣姿で螺羸はくちびるを寄せた。   ながくもみじかい接吻のあと、とろけるようなまなざしで、眞弓は螺羸を見  つめて云う。  「お気をつけて行かれませ。近頃は、兄の様子のおかしいこと。もしや、螺羸  さまがことに気づいたやも知れませぬ。どうぞ、ご無事に……今宵も、お待ち  申しあげておりますれば」   ふ、とわずかにせつない息を、螺羸はもらす。  「次の夜が待ち遠しいことよ」   白い額にかるくくちを押しあてて、名残惜しげに眞弓を離した。   その、時である。  「離れよ眞弓っ。そは化け物ぞ」   障子を倒し、荒声をあげた男がなだれ込む。  「……兄上」   螺羸の背に庇われた、眞弓の声が掠れている。蹴り入ったのは藤原利基、眞  弓とはふたつ違いの母兄である。さらに後ろに、練色の直衣を纏った若者が控  え、聴きとれぬほど小さな声でなにやら呟き続けている。  「……お初にお目もじ申しあげる。我は、藤ノ森の螺羸隠士(すがるいんし)。  いかに兄君といえど、かように女性の閨に踏み入るは無礼と存ずるが」   眞弓を背にしがみつかせて、優美な笑みさえうかべて見せる。  「あやかし風情がなにを言う」   手には抜き身の刀を持ってはいるが、それとても、飾り太刀では役に立たな  い。いたずらに灯をはじいて、その手の震えを暴き立てるばかりである。   ふいに、声が飛んだ。  「内縛、諸天救勅!」   螺羸の躰が硬直する。  「螺羸さまっ」   触れあっていた背の強ばりに、飛び出した眞弓は、身を盾にして立ちつくす。  「此方は何者じゃ、螺羸さまに何をした」   素肌に羽織った袿の前が、乱れて裸身が覗いている。  「外縛」   眞弓の言葉も聞こえぬ風に、変わらず呪言は続いている。  「都一の陰陽師、賀茂忠行よ。忠行が抑えてくれておる間に、さ、はようこち  らへ。眞弓」   兄、利基が手を延べる。   その手を逃れてあとじさる眞弓は、後ろ手に螺羸を抱くようにしながらくち  びるを噛みしめ、ふたりの男をきつく見返している。   袿の隙に、しろい腿が見える。   利基が、腕を掴んで引き寄せる。  「いやっ。螺羸さま……っ」   螺羸(すがる)に怯えているらしく及び腰の利基の手を、眞弓は精一杯、振  り払った。   呪言が途絶える。滴り落ちるほどの憐れみをこめて、しずかに若者が言い差  した。  「姫君は誑(たぶら)かされておいでじゃ。いかに見目よく思われようと、そ  れは人を殺して肉を喰らう、卑しき悪鬼にござりますれば。さ、こちらへ」   呪縛のために身じろぎもできぬ様子の螺羸の側から引き離されて、狂おしい  ほど眞弓は名を呼ぶ。  「螺羸さま、螺羸さま!」   螺羸は呪言に縛りつけられたまま、見る間に姿が変わってゆく。牙が唇を割  り、短く太い二本の角が、烏帽子の脇に突きだしてゆく。髪は強く、次第に乱  れながらも黒々と光沢を放っている。   皹割れた声が懇願する。  「み……る、な」  「螺羸さま」   眞弓の頬が濡れていた。  「わたくしの……螺羸さま」   ぐおぅ、と大気がおおきく揺れた。浅黒い頬にひとすじ、血色の涙が伝って  落ちた。かしかしと、長い爪の尖った先が触れあって鳴る。  「……まだ動くか。気をつけよ、利基。こやつ、なかなかやる」   にたりと笑って忠行はまた、いくつも印呪を結びはじめる。  「た、忠行」   ふるえる声が、友の名を呼ぶ。  「姫を離すな、利基」  「螺羸さまっ」   押さえ込む、兄の腕を振り解こうと暴れる眞弓が鋭く叫ぶ。   忠行が、声を高めて印を切る。  「東方千陀羅道、南方千陀羅道、西方千陀羅道、北方千陀羅道、中央千陀羅道、  急急如律令!」   瞬間、音が途絶えていた。草が風にゆれるような韵を残して、螺羸の姿が崩  れさる。あとには、白い塵がやまなしていた。  「螺羸……っ」   風籟が、悲鳴のように夜に沁む。   しとやかな夜風に塵は舞い散らされて、霧のごとくに夜闇を白く濁らせる。  螺羸であった塵につつまれ、眞弓はそのまま気を失った。   ――目覚めたのは、巳の刻もすぎた頃でござりました。あの日の、なんと無  力に感じたことか……いとしいお方が塵と化すのを、黙って見ていることしか  できませなんだ』   眞弓の紅いくちびるが、うすく笑みを帚いた。それは、みずからを嘲笑って  でもいるかのような、泣き顔にも似た微笑みだった。  「若君がことは、どうなされた」   保南の問いに眞弓は目を伏せ、頬を雫が伝っていた。  『面差しが似ておられました。どこがというのでなく、なんとのう……それも、  気の迷いだったやも知れませぬ。いまとてはもう、思いのよすがにながめる文  も、ござりませねば』   乾いた土にまるく、いくつも濡れたあとが浮きでる。眞弓の涙が、地面を濡  らしているのだった。  『螺羸(すがる)さまを想うあまりに、気がつけば、浅ましき死霊の身となり  果てておりました。あの方が、今もおいでになるものなれば……されば地の果  て、三界の果てまでともに参りますものを。いまはただ、塵と散ったあの方が  混ざりこんだ風のめぐるこの地にて、立ちつくすばかり』   声のふるえが誘うのか、濡れた声が語るにあわせて花が散る。舞い散る白い  花びらが、眞弓の流す涙にも似て。  「あやかしなれば、生まれ変わりはいたすまい。ここで待っても、永劫、巡り  会えはせぬ。こののちも、此度のように恋の燠火で誰ぞに火傷を負わすやも知  れぬ。そうなれば、悪鬼と呼ばれて苦しいおもいをせずばなるまい。加持祈祷、  未熟の輩の浄化の術ほどきついものはあるまいぞ。それよりは、わしの導く光  をたどって、黄泉路を安くたどらぬか」   眞弓は、じっとみつめて、不思議そうにつぶやいた。  『御身が鬼でもあるかのような物云いをなさる……』   くすり、とちいさな笑みがこぼれる。  『おやさしい方。若君がことは、気の迷い。二度とお誘い申しますまい。ご足  労をおかけいたし、まこと、申し訳なく思うております。我がことは、どうぞ、  捨て置きくださりませ』   そういうと眞弓は深々と頭を垂れて、花のあかりに溶け込むようにうすれて  やがて、消えてしまった。   眞弓の消えたあとにはあまく、青い匂いの梅の木ばかりが残されていた。  「惚れた男があやかしなれば、だれも、恋とは呼ばぬであろうに――哀れなも  のよ、娘も鬼も」   保南は深く息をつくと、そのままそこに腰を下ろした。保南の上に、花びら  が散る。  「師は狐、わしは猩猩(しょうじょう)の子よと呼ばれ、蔑まれて……ことに、  わしは親の顔さえまるで覚えてはいぬ。猩猩が母といわれれば、それもまたそ  うかと思い、そのたびに、の。あやかしの恋とはいかなものであるかを考える  のじゃ。人なれば、時に厭まれはすれど、おおかたは祝いの言葉を言うてもら  える。したが、あやかしなれば――愛しみおうても、誰もわかってくれはすま  いぞ。誰もが云おう。魅入られたのだ、と。術に堕ちただけのことだ、と」   散りかかる花を見あげて、保南は梅に語っている。   式を操り、鬼を退け、畏敬をもって崇められる。陰陽師とは、そうしたもの  であるはずだった。だが、また、それゆえにこそ、胸の内では蔑むものもある  のかも知れぬ。あやかしに似た技をなすゆえ。  「だが、のう、眞弓どの。まことの恋も、あろうものよと思うのだがなあ」   澄んだ微笑が、やつれた顔にうかんでいた。ふと、目をおとした先になにか  を見つけて保南が腰を上げた。近寄って、わずかに地表に覗くものを確かめよ  うと膝をつく。硬い土を掘ってみれば、それは女の髪であった。   おそらくは、鬼に魅入られ儚くなった娘を悼んだ家人の誰かが、花のあかり  で極楽浄土へゆけるようにと埋めたものに違いない。その一房の、髪は木の根  に、絡みついているのだった。  「哀れな……」   そう、つぶやいて、保南は笛を吹きはじめた。細くたかい笛の音は、散りゆ  く梅を悼むように、夜の闇に吸われて溶けた。  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆こんにちは、上代桃世です。今日は、ホントにごめんなさい。予定していた   内容は、来月にきっちりお贈りいたしますので……ゆ、ゆるして? ね?                              ☆10月17日は花山ゆりえの花号、27日は上代桃世の桃号、   そして11月7日には正しいハニー号を発行の予定です。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞