ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※              ハ ー ト ウ ェ ー ブ  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 桃号 99.10.27 ※※※※  ☆あー、でかくってまあるい月を見ながら飲むお茶はおいしいなあ……はっ!   失礼しました。こんばんわ、上代桃世です。いやもう、なんだか――ごめん   ね? 遅くなっちゃったの。ごめーんようっっ!!  φ本日のメニューφ   1.最期の武器   2.waiting star  ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  @最期の武器@   てれびで映画をやってたの。このあいだ。『インデペンデンス・デイ』。   ファンキーな、酒呑みのおっさんなんだけどさ……愛する子供たちに伝言を  残して、まあ、なんだな。特攻かますんだよ。それが契機になって、異星人に  勝利するんだけどね。そんときのセリフがいいんだ。ミサイルの発射装置が故  障している戦闘機の中から、司令部に向けて言うの。   伝言がある。   ガキどもに……俺の愛するガキどもに、愛してるって伝えてくれ。   このあとよー。ひゃあっほぅ、とか叫んで宇宙船に突っ込んじゃうんだよ。   そのファンキーな雄叫びがまた、カッコイイのなんのって。ふつーの日々が  もし続いてたら、周囲から馬鹿にされ放題のなっさけなーい親父なのよ。酒く  らってばかりだから、鼻の頭あかいしね。それがもう……泣いたね。べろべろ  泣いたもの。   むかし宇宙船に誘拐されたことがあるんだと言っていた(誰も信じちゃくれ  なかったけどね)酒呑み親父の、最期のセリフもよかったねえ。   宇宙船に特攻かけながら、還ってきたぜ、ときたもんだ。格好いいよねえ。  惚れちゃうよね。   そういう、格好いいセリフを言ってくれるキャラクターをつくりだせたら、  幸せなんだけれどねぇ……。力が足りないってのは、苦しいことだね。   まあ、なんだ。自由や理想を獲得するための、それぞれの闘いは続くわけだ。  そんでつまり、こういうことだ。人類の最期の武器は、愛と勇気だ。だから。  最終兵器は、いつでも胸のなかにあるってことさ!    @waiting star@  「ルステラ!」  「ああ、モードリス」  「いったい何を考えてるんだ、ルステラ」  「はやいな。もう聞いたのか」  「騎士の名を返上なんて、できるはずがないだろう」  「どうして。もらったものなら、返せるはずだ」  「だから、どうしてそんなことが必要なんだ。大体きみは……なに」  「召喚状」  「召喚状? 陛下はそんなもの、」  「白の召喚状」  「――なんだって?」  「白の、召喚状だ」  「ばかな」  「わたしも、そう思ったよ。だが、見てみろ。その封緘だ」  「質が悪いな。誰かの悪戯に決まっている。こんな印章、鳩の足跡のようじゃ  ないか」  「似ているかもな。でもそれは、記号なんだ。失われた古い文字でね、ティワ  ズと読むそうだ。届いたときには、押されてなかった。封緘は最初、つるつる  の蝋だけだったんだ。気づいたら、ティワズが浮きだしていた」  「悪戯だ」  「中も見るといい」  「質の悪い悪戯だ。こんな、白紙なんて」  「昼間はな。月あかりには、文字が浮かぶ。ランプの灯では、浮かばないんだ」  「錬金術師あたりが雇われているんだろう」  「錬金術なんて、紛い物だよ。どんな高名な術師だって、鉛から黄金を造り出  すことはできないし、死者を甦らせることもできない。連中に、月の光でだけ  読めるインクなんて作れないよ」  「なら、幻だ。きみが、文字を見たと思っただけだ」  「なんて書いてあったと思う」  「幻の話なんて、聞きたくない」  「犠牲、と書いてあったのさ」  「……悪いことはいわない。忘れるんだ、ルステラ。それから、騎士位の返上  願いなんて取り下げて」  「モードリス。世界は、この国ばかりではない」  「ルステラ」  「白の召喚状を手にして、この場所に留まる事なんてできない。どこかで、誰  かが待っている。わたしと、もうひとりが来るのを待っているんだ」  「なんのために。いったい誰が」  「さあ……? どうだっていいよ、そんなこと。たいしたことじゃない」  「たいしたことじゃない? たいしたことじゃない、だと?」  「伝説に招かれた。それが本当なら、なんのためでも構わない。だって、そう  だろう。神殿の壁に刻まれた英雄たちと、おなじ機会が待っている。誰も知ら  ない、運命の神に逢えるのかもしれない」  「生け贄かも」  「……聖帝騎士は、誰のために死ぬ?」  「むろん、皇帝陛下のためだろう」  「そうだな。騎士は、剣を捧げた相手のために命を使う」  「当然だ。そのための誓いだから」  「わたしは、知らなかったよ。買われてきて、追い出されないように必死だっ  ただけだからな。剣や体術の稽古に、いろいろな作法……ダンスなんか、男女  両方の踊り方を覚えなけりゃならなかった。師匠の機嫌を損ねて捨てられたり  しないように努力して――そのまま騎士になったんだ」  「叙任式で、剣を捧げて誓っただろう」  「たいして知りもしない男のために、命を捨てるはめになった。そう気づいた  のは、式が終わって玉座の横に立たされたときだよ。型どおりに剣を持って、  叩き込まれた言葉を口にした、それだけだったんだ」  「騎士の、誇りは……?」  「おまえは育ちがいいんだよ、モードリス」  「きみだって、悪くないはずだ。聖帝騎士カリス・ギル・レジーナの庇護者な  んだから」  「そうだな。でも、おまえは明日に怯えたことはないだろう」  「明日に?」  「そうさ。今日はうまくいったけれど、明日には、用無しだと言われるかもし  れない。今日はベッドで眠れるけれど、明日の夜は草むらに転がっているかも  しれない。そんな風に思ったことは、ないだろう?」  「カリス殿は、そんなこと」  「しなかったさ、もちろん。そうならないように、わたしは努力したんだから  な。でも、怯えは怯えだ。怯えながら生き延びたわたしに、誇りなんてあるわ  けもない。騎士と呼ばれることになったのだって、なりゆきだからな」  「誰よりも、強いのに」  「力が必要だっただけだ。騎士の名は、邪魔なんだ」  「この秋の終わりには紋章を賜る騎士の言っていいことでは」  「そうさ。冬が来れば、この身体に皇帝の紋章が刻まれる。皇族とおなじ扱い  をする見返りに、わたしは、すべてを奪われるんだ」  「ルステラ」  「ずっと、いいなりに生きてきた。師匠の、言いつけ通りに生きてきたんだ。  それがなぜか、おまえにわかるか!? 病弱な母と、弟妹のためだよ」  「母……」  「この十五年、一度も会っていないんだ。下の妹はきっと、わたしの顔さえ覚  えていないだろう。別れたとき、まだ二つにもなってなかった」  「……きみと出逢ってから、もう、十五年になるのか」  「わたしが師匠に背いたら、母たちは街を逐われることになっただろう」  「そんな方ではなかった」  「知らないだけだ。わたしは、だから、他人の決めた道をずっと歩いてきたん  だ。もう、やめにしたいんだよ」  「だからって」  「いまを逃せば、わたし自身に戻ることはできなくなるんだ。身体に、紋章を  刻まれてからでは遅いんだ」  「騎士の暮らしだって悪いことばかりではなかったはずだ。豊かな食事、柔ら  かなベッド、それに花の香りのオイルだって使っただろう」  「……おまえは、モードリス。金の鎖に繋がれて死ね。わたしは、でてゆく」  「戻る気は――」  「戻らなければ、死んだと思え。わたしの好きな花は、エレミアだ。ピンクの  な。可憐なところが、このわたしとよく似てるだろう?」  「そういうときは、バラかユリだと言うものだ。エレミアなんて、そんな雑草  ……」  「バラもユリも、柄じゃない。もともと、皮職人の娘だからな」  「ルステラ」  「わたしなんか、雑草みたいなものだ。おまえたちのように、家柄や血筋に縛  られる必要なんてない。師匠も亡くなった。わたしの、元の家族を知る人はい  ない。これで、なにをしても、あの人たちに迷惑はかからない。……待ってい  たんだ」  「カリス殿は、きみを、娘のように思っているとおっしゃっていた」  「そうかもな。でも、わたしは師匠を父のようだと思ったことはない」  「気の毒な、気がする」  「わたしが? それとも、師匠がか?」  「わからない。どちらも、かもしれない」  「妙な同情は、やめておけ。おまえのような上級貴族には、理解できない方が  いいこともある」  「――戻ってきてくれ。待っているから」  「皇帝には、今日のことは黙っていろ。わたしを追えと言われたら、熱病に罹  って起きあがることもできないと、医師に言わせるんだ」  「陛下に、嘘なんて」  「嘘をつくのは、おまえじゃない。医師がつくんだ。招かれてもいないおまえ  が関われば、伝説は、牙を剥くに違いない……わたしにもだ」  「ルステラ」  「玄関まで送ろうか? なんなら、護衛もつけて帰そうか」  「いや、ひとりで帰ろう」  「ではな、モードリス・クレフ・リンギル」  「花を……ピンクのエレミアを、いつも飾っておくよ」  「勝手にしろ」  「戻ってくるのを、待っているから」  「さっさと行け」  「ルステラ」  「なんだ」  「元気で」  「……おまえもな。さあ、帰れ」  「また逢おう」  「祈ってろ」  「そうしよう。きみの無事を、いつも祈っている」  「覚えておく。霧の向こうに足を踏み入れることになっても、な」  「ルステラ――」  「帰ってくれ」  「家に伝わるものだけれど、この小剣、魔物除けになるそうだ。置いておくか  ら、よければ持っていってくれ。それじゃあ」  「返せないかもしれないぞ」  「きみに、持っていてもらいたい。戻ってきても、返さなくていいから」  「役に立ちそうだ。使わせてもらおう」  「そうしてくれ。もう、行くから」  「ああ」  「……っ」  「逢いたければ、祈っていろ。夜ごとにな」   ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″  ☆セリフだけの物語にチャレンジしてみた今回の桃号、お楽しみいただけまし   たでしょうか。ゆりえちゃんと、ふたりしての妙なチャレンジでしたけど、   これはこれで、なかなか面白かったなあ(自分たちは)、と思っています。   失敗したのは、またしても発行が遅くなってしまったことだあっ。イケナイ   よね。反省してます。ごめんなさい。とりあえず、気を取り直して。    皆さまに、ちょっぴりでも、楽しんでいただければ嬉しいのですけれど。   それではまた、7日のつく日にお会いしましょう。  ☆次回は11月7日にハニー号を発行の予定(ごめーんよ、いっつもアテになら   なくて)です。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ☆ 発  行  ハートランド  ☆本日の担当者  上代桃世(kaidou@fb3.so-net.ne.jp)  ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して   発行しています。( http://www.mag2.com/ )  ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま   す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。   メールでのおとりよせもできますのでお気軽にどうぞ。  ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪  ☆お願い 掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。  ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞