『図書館の小咄』
「みーい、ちょっとちょっと」
机代わりのカウンターに積み上げた参考資料と格闘してて、せっかく興が乗って来たところなのに、名前を呼ばれた。
向こうの大机でさっきから悪友たちが何やらやっていたのだが。そのうちの一人が手招きしている。
ンなところで騒ぐなよ、ここは書庫だ。今日は他に客……じゃない、利用者がいないからいいけど。鍵まで借りてここを開けたわたしの立場ってものを考えろ。司書の楓さんがお休みでなかったら即退場だ。
とりあえず手を休めて、その輪に加わる。
「何?」
机の上にはたくさんの卒業アルバムがいっぱいに広げてあった。それぞれを皆が覗きこむようにして見比べている。
「つるちゃんがさ、妙なこと発見したんだ」
わたしを呼んだマドカの視線をたどると、
「これこれ」
鶴田がとある記念写真を指差している。
「この人なんだけど」
「うん」
わたしがうなずくと、別のアルバムを指差した。
「んじゃこっちの人」
「ん?」
わけもわからず、わたしはその指を追った。鶴田はわたしの戸惑いを気にもせず、別のアルバムを引っ張って来て、またある人物を指差した。
「んで、この人。ね?」
そうやって同意を求められても……よくわからん。
「何が、ね、なのさ」
「だからさ、も一回よく見て」
鶴田は三つの写真の三人を順に指差した。
うん……あれ? よく見たら……。
「……似てる」「でしょ」「うん」
わたしが頷くと、今度は麻由と直美が、
「みぃちゃん、こっちこっち〜!」
と、自分たちの手元のアルバムを指差す。覗きこむと、やはりそこには先の三人とよく似た顔があった。確かによく似てる。
「きょうだい、かな」
そう呟いたら、鶴田が、
「私も最初そう思ったんだけどさ」
一息入れてから、
「ちょっと、そっちの取って」
「はい」
マドカの手前の子が奥のほうのアルバムを取ってくれた。開いたまま受け取る。
「ほら、ここにもいる」
そういう鶴田の指先を見れば、同じような顔。
「これ、いつの?」
厚ぼったい表紙をめくって見たら、なんと第一回卒業アルバムだった。
「え?」
なんか腑に落ちない。
「こっちにもきょうだい?」
「どうかな」
鶴田は座っている椅子の背を押しつけ前足を浮かして揺らしながら、
「全部のアルバム見てみりゃわかるけど、いるんだよ。クラスは違うけど、卒業生の中に必ずひとり、同じ顔が」
そう解説した。
麻由と直美とさっきの子が、
「これ、第二回〜。で、これ第三回の〜」
そう言って開いたままのアルバムをどんどん積み上げていく。
「それは痛むからやめて」
わたしは第五回まで積み上がった卒業アルバムを丁寧に降ろしていった。その間にも麻由たちが指差す人を一応確認せずにはいられない。
確かに同じ顔だ。さらにわけが判らなくなった。
「これが親とか親戚とかいうんなら判るけど」
「だったら普通あいだ何年かあくよね」
鶴田がフォローするのに頷きながら、
「うん、ウチの学校、出来てそんなに経ってないし、どういうこと?」
わたしは疑問をぶつけた。誰にというでもなく。
「だから不思議なんだって。それにきょうだいじゃないよ。全部に同じ名字の人なんていないから」
「つるちゃん、全部調べたの?」
マドカが呆れたように言う。
「一応……」
「暇ぁ」
「悪かったね」
そんな二人のやりとりとは別に、麻由たちがなにやら数えている。
「何してんだ」
声をかけると、
「二十四〜、二十五〜、ちょっとまって、二十六……」
と止められたので、数え終わるのを待つ。
やがて。
「三十七……あ、一人多い〜」
「やっぱり〜」
不思議がる二人に、
「何が多いって」
そう尋ねると、
「この三年C組って、三十六名ってなってるんだけど〜」
「写真には三十七人いるんだ〜」
「なんか多いような気がしたんだ〜」
「ね〜」
直美と麻由が仲良く答えた。
「うっそぉ」
マドカの驚きにも二人は「ホントホント」と。
わたしは直感めいた物を感じて、そばのアルバムの写真で数えてみた。
「やっぱり」
記載人数より、写真のほうが一人多い。
すでに鶴田もわたしの意図に気づいて手許のアルバムを数えていた。終わるのを待って声をかける。
「そっちも?」
「うん、一人多い」
「やっぱりね」
こりゃあ……その謎の人物が一人多いってことかなあ。
「……幽霊だったりして」
マドカがぼそっと。
「え?」
わたしは聞きとがめて。なおもマドカは言う。
「一人多いのは幽霊でさ、その幽霊を見つけちゃうと……ああ、いやあっ!」
マドカはその場にしゃがみこんで泣き出してしまった。
「いや、殺されちゃう……いや、いやぁぁぁ!」
わたしと鶴田は顔を見合わせた。マドカの前半の仮説はあながち見当違いでもないと思うが……後半は飛躍しすぎだと思うぞ。一人で勝手に盛り上がるな。
麻由と直美の二人も抱き合って不安げな顔をしている。ここはひとつ明るい話題でも……うーん。
あ、そうだ。われながら、いい思いつき。
マドカと同じにしゃがんで、肩を抱きながらなぐさめる。
「あれさ、害はないよ、うん」
「……うそ、うそ」
「うそじゃないって」
「……どうして」
「ほら、座敷わらしって妖怪、知らない?」
「ざしきわらし……?」
「子供が何人かで遊んでたら、いつの間にか一人多いっていうやつ。アレだよ、あれ。きっとそう、ぜったい」
「……そう……?」
「そうだって。ちょっとおちゃめな妖怪さん」
「ほんと?」
「本当。お茶目どころか、その家に幸運をもたらすんだって。よかったなー、ウチの学校。めでたいめでたい」
そう言い聞かせてると、自分でも本当のように思えてくるから不思議だ。
マドカはすっと立ち上がった。
「そうだね、座敷わらしなら平気だよね」
あ、立ち直り早い。ま、いいか。
「結論も出たことだし、帰ろ」
鶴田の言葉に多少のギモンは残るものの、壁の時計を見るともう閉館時間だ。
皆にその旨を告げる。
「出したアルバムはもとの場所にしまえよ」
手伝う余裕はない。わたしは自分の図書を返却するので忙しいのだ。
カウンターと開架を何度か往復して仕事を済ませ、いちおう二階の閲覧室もチェックし館内に誰もいないことを確認してから、メインホールの錠を閉めた。ここさえ閉めれば全館に鍵がかかるのでオートロックは楽だ。あとはあずかっていたこの鍵を事務に返しに行けばいい。
渡り廊下でマドカたちが待っていてくれた。
「あの子、先に帰ったんだ?」
何気なく尋ねると、マドカが逆に訊き返してきた。
「あの子って?」
「ほら、さっきマドカの隣にいた子」
「ああ、麻由たちの友達でしょ」
「え、あたし知らないよ〜」
「うん、マドカの友達だと思ってた〜」
麻由も直美も知らないと言う。
「じゃ、鶴田の友達?」
そう訊くと、鶴田も首を横に振った。考えこむような難しい顔をしている。
「……その、さっきの子だけどさ」
表情を変えずに鶴田が言う。みな静まって次の言葉を待った。
「あの一人多い、写真の子に似てなかった?」
− おわり −
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