候補地の調査を重ねながら、次は気になった土地に出向いて地元の「不動産屋」をあたることになる。あたった不動産屋はいったい何軒、いや、何十軒になるのか。不動産屋まわりを重ねるうちに、より効率を上げるためにこんなコツまでつかんだ。

・行く前に電話で予約
・あらかじめ案内図をFAXで送ってもらう
・そのなかで気になるものを知らせておき
・現地に出向いた際に効率よく回り終えるようにする

こうしてFAXで土地の案内図を取り寄せ、本島は勿論、離島の現地にまで足を運び、ぼくは気になった土地を自分の目で確かめていった。


   

土地の吟味に入る
 

いまぼくの手元には、そんな不動産屋の「売地」案内図のコピーが全部あわせると厚さだけで世田谷区の電話帳一冊分くらいはある。

まわった件数はうんざりして数える気にもならない。おかげで沖縄県内の土地価格には随分と詳しくなり、訪れる先々で「ああ、ここは坪単価〇万円くらい」などと言えるという妙な芸当まで身についてしまった。よくもまぁ、こんなに歩いたものだ。

そんななか、以下のような危ない話が耳に入って来た。




   

土地で騙された!
 

「T君が土地で騙されたらしいよ」。知り合いのAさんからそんな話が飛び込んできた。

工芸家のT君はすでに沖縄移住歴10年以上と長く、年は若いが僕の大先輩にあたる。趣味は波乗りという生粋の湘南ボーイだ。彼が新しい工房を作るために土地を求め、すでに設計から建築見積りまで進んでいるという話は3ヶ月前に耳にしていた。だが、なかなか工事に入らないので、おかしいと感じていたその矢先だった。

彼が手を出した土地は、なんと「農振地(のうしんち)」だったのだ。「農振(のうしん)」とは、「農業振興地」の略で、農業用地にのみ使用を限定された土地だ。土地が「農振」に指定されていれば、法的に家を建てることは出来ない。絶対に。T君は、これに引っかかってしまった。不動産屋に騙された、というのだ。

わからないこともない。農振地に指定されている場所は、実は土地としては非常に魅力的なものである場合が多いのだ。なにせ家を建てることが出来ない土地だから、まずもって環境がいい。自然のど真ん中にある。周囲に人工物はなく、海や山が美しく間近に迫る。

砂糖黍畑の向こうの洒落た家、波打ち際の夢のようなコテージ向き、隠れ家のような別荘かホテルにうってつけ、といった風情の土地。誰だって、ここなら…と心が動く土地。間違いなく、そのほとんどが農振地といっていい。

実際、ぼくが出会ってきた至極魅力的な土地は、あの「7つの条件」を満たす土地は、もう完全に、100%、ことごとく、徹底して、農振地だった。

だからこそ「どうしてこんな穴場が…」という土地を知人以外の人間に紹介されたなら、まずは農振である可能性を疑ってかからなければならない、のだが土地のずぶの素人がこんな専門的な話を知る由はない。

…そこにつけこむ輩が、いる。




   

魅惑の農振地
 

沖縄なら、石垣島を始めとする八重山の離島、宮古島の離島にある別天地のような土地、そして本島でもビーチに隣接した防風林脇の土地は、まず「農振」がかかっている。

これらは農家のために残された貴重な「農地」なのだ。あるいは台風など災害対策のために確保されている土地だったりする。「農振」がかかっている土地は、当該地区の農業委員によって農振指定を「はずす」ための見直しも行われるが、そのタイミングは数年に一度きり。下手すると規制が外れるまで何十年も待つことになりかねないという。しかも、エリアはごく限定され農振地のほんの一部だけにとどまる。

そこで不正を働き賄賂などを利用して農振をはずそうとする輩も出てくるわけだが、沖縄ではこれでここ数ヶ月何人もが逮捕された。判決は2年以上の実刑である。03年には、8月までに石垣でも宮古でも逮捕者が出ている。

ただ農振に指定された土地には「地目」が畑の場合と原野の場合の2タイプあり、原野のケースなら農業委員会による農振の見直しも頻度が上がり指定が外れる可能性も俄然高くなるという。

T君の土地はこの原野のケースであることがわかり、彼は自力で農業委員会に働きかけ、いま農振指定をはずそうと奮闘している。半年ほどで解決すると彼は期待を寄せているが、余計な、とんでもない遠回りを強いられたことになる。





   
教訓

土地探しの場合、まずチェックの一番は「農振地」かどうか。そこで気になった土地は、自分で「農振」の有無を確認することを絶対にお薦めする。
方法は以下の通り。

1)土地の地番(=土地の住所)を知る
2)地番は土地の「公図」に記入されている。
3)公図は不動産屋から必ず手に入れること。
  持ってなければ疑っていい。
4)土地の属する役場に行き、「農業委員会」を訪ねる。
5)土地購入の予定を告げ「公図の土地が「農振」かどうか知りたい」
  と尋ねる。
6)答えを確認する。


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