―せっかくいただいた災いは、大事に利用させていただきましょう―

恋の縄文から騒ぎ



公演場所

藤沢町陶芸センター(岩手県藤沢町)'97.8.23(土)
エルパーク仙台スタジオホール(宮城県仙台市)'97.9.12〜13(土〜日)
三内丸山遺跡(青森県)'97.9.21(日)





演出ノート『から騒ぎ』


 『から騒ぎ』では、結局、たいしたことは起こらない、というと取りつく島がない が、題名の通りで「騒ぐほどのことじゃないことを大袈裟に騒ぎ立てた」芝居である 。男と女の恋と結婚の話に、『オセロウ』や『冬物語』を思わせる悲劇の調子が漂っ てる。この芝居の魅力は、話の筋というよりも、登場人物の魅力にある。

 ベアトリスは、女は男に従属するものじゃない、といってはばからない現代にも通 じる女性である。そして、そういう女性を受けとめられるベネディックがいる。ベア トリスの対極にヒァローがいる。しかし、彼女も単なる「かわいこちゃん」ではない 。あきれるほど単純なクローディオがいる。そして、手練手管のドン・ペドロもいる 。イアゴーほどの悪党ではないが、ともかく人生が面白くないドン・ジョンがいる。 劇の後半になって登場し、ボケの味で観客を魅了するドグベリー達がいる。

 『から騒ぎ』には、ジェンダーの問題がある。つまり、男って何?女って何?とい う問いかけがある。死と再生を通しての人間の成長というテーマがある。下の階級の ものが、上の階級の問題を解決していくというアイロニーがある。しかし、その中で いきいきと動き、話している登場人物達の魅力こそがこの劇の醍醐味といえるだろう。

 『から騒ぎ』の原作の舞台は、イタリアのシシリー島である。そこを訪れた戦帰り の貴族達が騒動を巻き起こす。人と人が交われば何かが起きる。戦争の替わりに、こ こでは恋が生まれ、幸せを妬むものが、恋を潰しにかかった…。結局、時の場の設定 は、自由だと考えた。(『ヴェニスの商人』ならば、そうはいかない)

 この作品を読み直している時に、たまたま、話題の三内丸山遺跡を訪れた。驚いた のは、そのスケールの大きさ、私たちの立つ地表のすぐ足下から発掘されている土器 (三千年以上も前なのに意外に縄文は近い!)、そして何よりも私の興味を引いたの は、縄文人がなかなかお洒落だったということだった。人がお洒落をする理由はいろ いろだろう。しかし、異性を意識することも、その理由の一つに違いないと思えた時 に、縄文人の恋に想像が膨らんだ…戦争もないおおらかな生活の中で、遊び心と恋は 一大関心事だったろうと。

 もう一つは、今年の春に私たちの頭上のはるか彼方を流れたヘール・ホップ彗星で ある。あの彗星を、縄文人も見ていたかもしれない…。

 こうして、私の中でシェイクスピアと縄文人の恋が、平成の私たちと縄文時代が結 びついた。

シェイクスピア・カンパニー主宰 下館和巳




シェイクスピアの世界は海のように大きく深い。それに較べれば、私たちが上演するシェイクスピアは水道の蛇口からこぼれる水滴にすぎない。

(シェイクスピア・カンパニー)


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