―恋と魔法の狂騒曲―

仙台湾の夏の夜の夢

公演場所

 浦戸諸島開発センター(宮城県仙台湾野々島) '96.8.31(土)
 エルパーク仙台スタジオホール(宮城県仙台市) '96.9.21〜23(土〜月)





演出ノート
演出ノート『夏の夜の夢』

 『夏の夜の夢』は、『ロミオとジュリエット』とほぼ同時期にかかれている(15 95年頃)。そして、この喜劇と悲劇は、恋というテーマで背中合わせの関係になっ ている。『夏の夜の夢』とは、一言でいえば、五組の男女の恋と結婚の物語である。 その内の一組は、職人達の演じる劇『ピルマスとシスビー』の二人であるが、この二 人の恋はかなわずに心中で幕を閉じる。この『夏の夜の夢』を一貫して流れているこ の劇中劇は、『ロミオとジュリエット』のパロディである。

 この劇には気になることが二つある、一つは恋人たちの心変わりがすべて魔法でな されているということ、もう一つは、あれだけの混乱が、最後に無理やりといっても いい風に丸くおさめられていることだ。そして、考えさせられる、恋の真実は、一体 どこにあるのか?と。劇中劇の世界にあるのか?魔法でつくられた世界にあるのか?

 この劇のアテネの森は、人間の心の奥にある闇ではないかと思う。実際シェイクス ピアの頭の中にあった森は、彼がよく遊んでいたアーデンの森である。自分にとって この「森」はどこなんだろうか考えた時に、どこも思い浮かばなかった。その頃たま たま仕事でバリ島に滞在する機会があって、ある時ボンヤリと海の匂いをかぎながら ガムランの音を聞いていたら、自分にとっての「森」は、「海」だとひらめいた。

 バリ島の『夏の夜の夢』。ファンタスティック!しかし、東北弁で、なぜ、インド ネシアなんだろう?などと自問自答しているうちに、「エンヤードット」の歌が耳の 奥に聞こえてきた。牡鹿半島の先端の山のてっぺんから見える金華山や網地島とその 大きな湾に抱えられるようにある小さな松島湾。そして、そこに静かに浮かぶ浦戸諸 島がイメージとして私に近づいてきた。漸く、設定が固まる。時は2010年、とこ ろはシオーモの町。島はノンノシーマ。宮沢賢治のイメージを借りてアテネはシオー モこと塩竈に、アテネの森はノンノシーマこと野々島に、職人は魚屋、文房具屋、ペ ンキ屋、酒屋、豆腐屋に変貌。妖精は?

 この劇にはハムレットのような主人公はいない。貴族、職人、妖精と三つの世界が あって、その中で一人一人がそれぞれ大切な役割を果たしている。しかし、シェイク スピアの登場人物の中でロミオやジュリエットやオフィーリアのような二枚目とまさ るとも劣らない人気を博しているのが、パックやボトムである。原作のボトムはロバ に変身させられるが、一体ロバが何に変わるのか?これは見てからのお楽しみ。

 この劇の奥深いところに暗い混迷が横たわっている。

 妖精の王と女王の手のひらから始まって、恋人達とシオーモの王と女王に引き継が れ、最後に劇中劇の恋人達を照らすそのほのかな灯は、河童が自らの頭の皿に託して、 『夏の夜の夢』の恋人達に送る、恋の真実の光である。


シェイクスピア・カンパニー主宰 下館和巳




シェイクスピアの世界は海のように大きく深い。それに較べれば、私たちが上演するシェイクスピアは水道の蛇口からこぼれる水滴にすぎない。

(シェイクスピア・カンパニー)


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