『かわら版』の老朋友から

かわら版執筆秘話

〔隣り近所のよしみです〕

和田 廣幸

「中国美術探索・美への彷徨」を連載中。書道家。篆刻家。軽快な筆致で芸術を身近なものとして紹介している。前編集長・根箭芳紀追悼文集の題字も和田氏の書。

   「ひょうたんから駒」という言葉があるように、私の執筆のきっかけというのも、ほんのささいな出来事でした。思い起こせば1994年9月、「三十にして立つ」と自らに言い聞かせ、家内をむりやり引き連れて北京にやってきた私。縁あって現在の総経理である大江さん、そして編集委員の関口さんと知り合いになりました。
   年齢もそれぞれ「差不了多少!」の仲、時に共に酒を酌み交わしお互いを語るうち、ついつい私も自分の好きな中国美術の話が口をついてでてきます。贋物をつかまされた自らの失敗談や歴史を彩った芸術家達の波瀾万丈の人生など、嫌いではない酒をともにしながら幾度となく集い合ったのが今でも楽しい思い出です。そうこうするうちに、気がついてみるとお互いが半径五百メートル以内に住む「隣居」になっていたのです。いつものように酒を飲んでいると酔いがまわったのか、関口さんの「和田センセ(これが一部の人たちの間で使われる私のあだ名のようだ)、いい、いい、今の話。それ、『かわら版』に書いてくださいよ。同じ浜っ子じゃん。今だって隣り近所でしょ」という言葉にほだされて、執筆を開始することとなりました。後で知ったのですが、『かわら版』編集部は根箭さんの時から、こうして幾人もの人々を深みへと引きずり込んでいったとか……。
   何はともあれ、数多くの諸先輩方がいらっしゃる中、また記念すべき千禧年の2000年に第100号を迎えるこの『かわら版』に、こうして執筆している私はかなりの果報者かもしれません。一朝一夕には達し得ない第100号。これまでさぞご苦労のあったことと推察致します。そうした今まで『かわら版』に携わってこられた方々に、恥ずかしくない文章を今後の課題として私自身取り組んで参りたいと思います。

戻る