第1話

新しい朝

原画

沢田正人 和田高明 時永宜幸 吉岡 勝

藤沢俊幸 広江克己 深沢幸司

99年4月4日放送 (TV埼玉、千葉TV)

脚  本:山口 宏 作画監督:千羽由利子

絵コンテ高橋ナオヒト 演  出高橋ナオヒト

(アイキャッチBGM)

Aパート直後 

 Bパート直前

あかり

レミィ

 

これからも ずっと一緒にいられますように。

・前振り

この作品はOPの前に前振りのシーンがある。
記念すべき第1話の冒頭を飾るのは、幼き日のあかりと浩之。雨の中、ランドセルの中身を放り出してしまい泣いているあかりをなぐさめる。「もう泣くなよ。だいたい、転んだお前が悪いんだろ」とこの時から浩之はぶっきらぼうなところがあったようだ。そうした口の悪いところがありながらも「俺のと交換すればいいよ」と面倒みのいいところも見せる。そんな浩之に感じるところがあったのか、「浩之ちゃん…。ありがとう…」というあかりのセリフがあり、これで夢から覚めることとなる。そしてこれがこの作品の原点でもあるのだろう。
ベッドで目を覚ましたあかり。部屋にはくま関連の物がたくさんおかれており、彼女がくま好きであることがわかる。ベッドから起き上がって、部屋のカーテンを開ける。
そして普通の一日が始まる。

・Aパート

引き続き場所はあかりの家であり、彼女が家を出るところから。単純にドアを開けて家からでるというものだが、「新聞とってないよー」と呼びかけたりまたその仕草など、芝居がよくできている。また、冒頭からかかるストリングの曲がよく、この作品、もしくはあかりのテーマのように使われる。
あかりは浩之の家に到着し彼を起こそうとするのだが、「浩之ちゃ〜ん」と叫んだり、なんのためらいもなくベルを連呼するあたりに、二人のツーカーな間柄が見えるというもの。窓が開いたことで「あ」と冷静に反応するあかりがなんとも味がある。

浩之と登校するあかり。浩之は「ちゃんづけはやめろよな」と文句をいうが「ごめんね」という返答で、以前から何度も交された会話らしい。浩之はだるそうにしているが、あかりはよく見ると嬉しそうな顔をしており、夏休みが終わって久しぶりに前と変わらずに一緒に登校できるのが嬉しいのであろう。
そこに雅史も合流し、彼も二人とはくされ縁のような存在であることが知れる。雅史がいる前でも「あたしが行ってあげないと浩之ちゃん毎日遅刻しちゃうでしょ」「あかりが来るのが早すぎるんだ」といった馴れ合いの会話ができるのがいい証明だろう。

学校につくと、同じ曲ながらもメロディーがピアノになった曲に変更になり、始業式を行ないながらのあかりのモノローグとなる。この辺の水彩による学校風景は非常に美しく、それが移り変わっていく様も曲とよくマッチしている。
このモノローグでは、まず新しい季節の始まりの期待と、少しづつ変わっていくことが素敵だと語る。けれど、唯一変わらないまま大切にしたいことがあると、浩之の名をあげる。「これからもずっと一緒に、時を刻んでいくと思っている。そう、信じている」と、あかりは浩之がずっとそばにいてくれると信頼している。そうなふうに素直に思える子であるし、浩之のことをそういう目でみて、理解しているのだろう。

始業式が終わってだらけている浩之ら三人に、レミィが話しかけてくる。彼女がハーフか何かで、非常におおらかだが、どこか抜けた人物だというのがわかるだろう。また、このあたりの通行する生徒やざわめきの声などで、学校の雰囲気がいく出ている。
レミィが去った後、雅史は放課後みんなでカラオケに行こうと提案するが、浩之は今日はしんどいと断わる。「そう」と言うあかりは寂しそうな表情をする。

浩之のクラスの2−Bは先生の提案で席替えをすることに。せっかく終わりだと思っていたのか、生徒達はあまり乗り気ではない。あかりは浩之の方をながめ、「今度は、浩之ちゃんの隣になりたいな」と心の中で思う。数少ない、彼女のストレートな気持ちが出ている独白である。
始業式でも顔を見せていた委員長の智子が教壇で進行を始める。が、好き放題に言う生徒達でまとまらない。
ここから先、この教室内のいろんなカットがありながらも、その合間にあかりのカットで彼女がどう反応しているかを見せるようになっている。表情だけでそれをなしとげているのが秀逸。
意見がまとまらないので、委員長はクジ引きで決めると決定する。生徒達、特に一部の女子(ゲームで智子にたてつくキャラ)は激しく反発するが、委員長は相手にせずもくもくとくじを作り始める。
浩之はそんなことはおかまいなしといった感じで「早く帰らせてくれ〜」とぼやくのだが、その横に突然女の子の声が。志保の初登場であり、その言動から彼女の押しの強さやこ生意気で自己中心的なところが感じとれるだろう。
先程の女子達が教壇に出て智子につめよるが、彼女はもくもくとくじを作り続ける。
「保科さん、大変だなー」というあかりのセリフでAパート終了。

・Bパート

直前の2回目のアイキャッチはレミィの曲であった。これは後にわかることであるが、レミィは主役になる回はなく、1話からわき役として登場する。そこで1話はあかりの回といえるため、片方のアイキャッチの曲が空くのでレミィの曲を使ってあげたのではないだろうか。

引き続き女子達がつめよる中、智子はくじを作り続けていた。志保は終わらないことを嘆き、早くいかないとカラオケボックスの半額サービスがなくなるとグチをこぼす。カラオケに行くことを了承してない浩之は不思議に思うが、志保はその予定のつもりだった。なんだそれと思うが、ごめんのポーズのあかりを見てあきらめる。あかりは始業式前にカラオケの話を志保としたらしく、その際に4人で行くことを決めてしまったらしい。

女子達は「いつまで黙ってるのよ」「委員長らしくみんなの意見をまとめなさいよ」といっそう厳しくつめよっていく。それでも何も返答しないという状況にクラスの人間が何も言わないのもなんではあるが、これはこの寒い空気を強調したいからではないだろうか。
それをジーッと見つめる浩之。「手伝ってあがようなかな」とあかりが心に思った直後、浩之は立ち上がって教壇に向かう。「手伝ってやろうか?」などとは聞かず、「あと何枚作ればいいんだ?」と聞くあたり、「余計なお世話」といわれるのを回避する委員長の性格をわかっているものであるし、手伝うという明確な意思表示にもなる。結局彼は手伝うことになるが、その動機は「早く済ませて帰りたい」であろう。しかし、おしつけがましくもなく気さくに協力を申し出たり、まじまにとりあって手伝う姿等、冒頭のあかりの夢での出来事でも見えた彼のそういういい部分が発揮されたといえる。手伝う様子を見るあかりの嬉しそうな顔が印象的だ。

くじが用意でき、いざくじ引きとなる。テンポのよい曲を流しつつ、くじを引いていく様子とくじを開く様、決まった座席を描き記した黒板が交互に写る演出は、非常に小気味よい。セリフがないながらも、画でのみ何かを伝えるのもちゃんとできている。

浩之は3番を引く。その間、あかりが画面上に見えるレイアウトなのに注目である。そして、あかりは3番の隣の18番がまだ開いていることを確認した。「よし」と声とともに教壇に向かう。
くじの前で数秒動きが止まってしまうのが彼女らしいが、委員長に促されておそるおそるくじを引く。
開いたくじを見たあかりははっきりと表情を変える。無事18番を引き当てたのだ。この表情の変化は、驚き→歓喜の感情表現が実に見事に描かれており、1話の中でも心に残るカットであろう。また、こうした大事なシーンを顔の表情といった、作画面で表現しようというこの作品の方向性も感じとることができた。普通こうした嬉しさを表現するシーンは、効果音や効果的なバックをつかったり演出面でなんとかするものだが、この作品はあくまで写実に徹するのである。

無事、浩之の隣に座ったあかりを見て、彼は「なんだか嬉しそうじゃん」と尋ねるが、「浩之ちゃんと隣同士の席になるの、始めてだよね」と。彼は何ら意識してないことであるが、彼女にとってはずっとこだわってきた大事なことであった。「私ね、浩之ちゃんの隣になるのが夢だったんだ」と本当に嬉しそうである。
そこへ志保が顔を出し、早く行こうと呼びかける。「志保ちゃんオンステージ見たくないの?」のセリフで、彼女の子供っぽいともいえる自己中心的な感覚がよくわかる。「ったく、しょーがねーなー」と浩之は口グセともいえるセリフをはいて席を立つ。

カラオケでのシーンは一枚絵の劇画調のイラストを見せていくというものであった。(やはりどうしてもベルセルクを思い出す)ひたすら歌う志保を、あかりは持ち上げながらも、浩之はやかましいといった態度である。ちなみにここで歌っている歌は、同じKSS作品の『ウエディングピーチ』のOVAの歌である。(曲名は失念)

それが終わったら、自室で志保と電話中のあかりとなる。いかにも女の子というシーンであるし、唯一の女の子同士の会話であり、「元気だなー」「そうかもね」「浩之ちゃんが悪いね」とあかりもどこかリラックスした感じである。

電話のすんだあかりは立ち上がり、机へと向かう。Aパート冒頭でも流れた曲がここでも流れだし、しめを飾るシーンが始まる。
「浩之ちゃんと隣になれたことがとてもうれしい−と書かれた」日記。裏にしていた幼い頃の二人の写真を表にし、再び彼女のモノローグ。「ずっと続いている、みんなと、浩之ちゃんと一緒の時間」と、ここでも始業式の時のように「ずっと」という言葉が使われた。これはもちろん「今までずっと」という意味でもあるが、それを今で区切らずに、これからも続いてほしいという意図を感じられる。再び椅子に座り、「これからも ずっと一緒にいられますように」と日記に書き足した。彼女にとって「ずっと」という言葉は特別な響きをもつようだ。

今日一日は普通の一日であった。それが「ずっと」続くことが、何よりもありがたいことなのだろう。

・総評

キャラデザインの千羽由利子作画監督による、高レベルな作画が全編にわたっていきわたっていた。顔の表情だけで、それぞれの感情表現ができているのが見事である。
この作品は、学校内における生徒の通行人がきっちりと描かれている。同じ学校を扱う『彼氏彼女の事情』では、主要人物にスポットをあてるためあえておざなりな表現だったが、この作品では見えるものを見えたまま描き、あくまで写実的な画面作りにこだわる。

この第1話は、話を説明すると「始業式の日に学校に行き、席替えをして、帰ってきた」というだけのものであり、本当になんてことはない話である。それを丹念に描くことと、あかりの視点を入れることで、あきさせずに見せるものになっている。
こうした「ドラマもなしにシチュエーションのみで見せる」ということや、最初と最後にあかりの視点のシーンを入れることで、本編自体を彼女の日常の一部として感じさせる構成など、この作品作りの方向性がはっきり見えたものであり、十分に1話としての役割をはたしているだろう。

これからも ずっと一緒にいられますように−

 

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