知人が「面白くなくはなかったけど、あれは自分の『ナルニア』ではない」とコメントしていたらしいので、相当覚悟して観に行った。期待値が低かったのが良かったのか、思ったよりもずっと楽しめた。丁寧に作られた、上質のファンタジー映画と呼んで差し支えないと思う。
ディズニー映画らしく、残酷&グロいシーンはほとんど出て来ないので、お子様連れでも安心して観られるだろう。話題性も充分だし、春休みのヒットとなるのではないだろうか。白い魔女の軍勢を、アスラン=ピーター軍の楔形陣形が迎え撃つシーンなど、絶対TV画面ではもったいない。是非映画館での鑑賞をお勧めします。
小学校3年生の時、初めて『ナルニア国ものがたり 1 ライオンと魔女』を読んだ時の衝撃は忘れられない。没頭するあまり食事の時間にも気が付かず、呼びに来た母の姿に「きゃーっ、人間だ、どうしよう」と一瞬本気で驚いたものだ。何回も何回も読み返し、その度にアスランの犠牲と復活のシーンで心震わせた。続きがあると知った時の有頂天な気分も忘れられない。
読み返し過ぎて表紙が取れてしまった後は、自分で小遣いをはたいて買い直した。『指輪物語』と『ゲド戦記』に並び、まさに子供時代のバイブルだった。中でも一番好きだったのが『ライオンと魔女』である。
という訳で、誰か他人が映像化した「ナルニア」を、はいそうですかと受け入れることは到底出来ない。わたしのアタマの中にはわたしだけの「ナルニア」がしっかりあって、絵も音も匂いも手触りも完璧に揃っている。どんなに凄い映像を出されても、思い入れがあり過ぎて、到底「わたしのナルニア」には敵わない。
その辺を自覚して観たのも良かったのだろう、冒頭に書いたように、自分でも意外なほど楽しんで観ることが出来た。ただし『ロード・オヴ・ザ・リング』3部作の時のように、「これはわたしの“あの作品”じゃないなあ」という違和感(と言うか一歩引いた感じ)を拭えないのも確かである。仕方のない話で、それは映画作品としての『ロード…』3部作や『ナルニア物語』が悪い訳ではないし、映画の作り手の責任でもない。
原作を読まずに映画から入った子供たちが、原作の『ナルニア国ものがたり』7冊も読んでくれると良いなあ、と思う。衣装箪笥から始まって、シリーズを読み進めるに連れて判明する隣国との関係にドキドキしたり、新しいキャラたちの冒険にわくわくしたりして欲しい。あの衣装箪笥や街灯の来歴が判明した時には、伏線のハマる瞬間の「そうだったのか…!」という感動を味わって欲しい。
そして何よりも、アスランという偉大なライオンの設定に触れて、人間以上の「大いなる存在」を意識してみて欲しい。原作者のC.S.ルイスはもちろんこれをキリスト教的世界観に擬えて書いたのだけれど、キリスト教に拘らず「神様」は居るんじゃないかと思ってみることは、全ての人にとって悪くない心境に違いない。
「第1章」と銘打っていて、興行成績もなかなからしい所を見ると、もしかしたら本当に7冊全部を映画化する予定なのだろうか。ファンタジー的にちょっと地味な巻もあるのだが、大丈夫だろうか。…映画化されるのなら全部観るつもりだけれど。
大人になった4兄妹がしっかり別の俳優さんたちで出て来ていた(字幕には反映されてないけど、ちゃんとお貴族言葉だったのが嬉しい)ので、『ハリー・ポッター』シリーズのように、通して全部同じ役者さんでという拘りはなくて済むのかもしれない。それならそれもアリかな、と思う。
先入観を出来るだけ入れずに考えても、映像的にそこそこイイ線行っているのではないだろうか。美形過ぎない4兄妹はいかにも「普通の子」っぽくて良い。やや難しい役回りのエドマンドは、役柄に合った繊細さと陰りがあった。下膨れのスーザン&ルーシィも可愛い。そしてフォーンのタムナスさん(ジェームズ・マカヴォイ)があまりにもそれっぽくて素晴らしい。
戦に赴くピーターが面頬を下ろすところなどうっかり「格好いいじゃん」と思ってしまったし、副官役のセントール・オレイアス(パトリック・ケイク)も渋かった。アスランはもうちょっと神々しく大きくしちゃっても良かっただろうかと思うけれど、声のリーアム・ニースンはなかなかだったし、キツネの声のルパート・エヴェレットも良かった。
CGがちょっとショボかったのと、ストーリーがやや平板だったことが少々不満。逃避行シーンを削って、アスランの犠牲と復活をもっと盛り上げる訳には行かなかったのだろうか(くどいかなあ)。割れた石舞台の向こうから朝日が昇るシーンなんか引っ張り甲斐がありそうだと思うのだが。あんまり宗教臭さを出すと嫌われるのかしらん。
あとは石舞台が小さ過ぎたこと、白い魔女ジェイディス(ティルダ・スウィントン)のイメージがあまり合ってないのが残念。わたしの脳内では、石舞台はストーン・ヘンジのような巨大な岩で出来ているのである。そしてもちろん白い魔女は「黒髪・白い肌・真っ赤な唇」でないと雰囲気が出ない。特殊メイクとか白塗りにして欲しかった。二刀流で渡り合っちゃう魔女なんてイヤだ。
以上はあくまでも「わたしのナルニア」の拘りだけれども(汗)。
あ、それと最後に1つ。映画版『ロード…』と比べて観るのはヤメましょう。『ロード…』がなければ『ナルニア』はもっと驚嘆を持って迎えられたハズだし、しかし『ロード…』が作られなければ『ナルニア』映画化の企画もなかっただろう。ともかく、作られた目的が全然違う作品2本を、主観的にどうこう言っても無意味だと思う(まあでも比べるなって方が無理かなあ。わたしも頭の中で比べちゃってるし…)。