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第一話

地球外生命体の発見から3年、ついにその生命体が地球圏内に侵入してきた。
そう、まさに侵入してきたのだ。
発見当初、その巨大な生命は、異星人の「宇宙船」と認識され、我々地球人に衝撃を与えたのであった。
しかし、その衝撃をはるかに凌駕する事実が発見から24時間後には(正確には、一部の関係者の間では発見の数時間の後には疑念を抱いた者もいたのだが)、その船はそれ自身が一体というよりも、一群の生命であることが判明されたのであった。
極限空間である宇宙にその生命体は漂っていたのである。
そう、我々人類には、いや、人類に限らず凡そ生命にとってその世界は絶対的な死を意味するだけに、この事実はにわかには信じ難いものであった。
そして、コンタクト・・・。
それは、人類に牙をむいた。
人類はそいつの地球への侵入を阻止できなかった。
そして、そいつが墜ちてくるがままに地球はこの海域をあけわたしたのだった。



「ま、不幸中の幸いとでもいうんじゃない?」
ブリッジの計器をなにやらいぢりまわしていた亜夜が、あっさりといってのけた。

如月亜夜

北村加奈重

「あれだけの質量が突っ込んできてもへーきなのって、ここぐらいぢゃん。」
「そうね。」 加奈重はなんとなしにこたえる。
加奈重は、海底に沈んだ落し物の捜索に精一杯で亜夜の言葉に注意などをむけてはいられなかった。そして、当の亜夜さえもが加奈重の返事を期待してはいなかった。宇宙からの未確認生命群との接触に対する緊張から、ただなんとなしに会話をしていただけなのだった。
「進路上に目標補足。」
ブリッジに加奈重の張りのある声がかぶさった。
「水深1200M。本艦は、現在ポイントに停止します。」
そして、第256科研潜行艦「さざなみ」は沈黙につつまれた。


生命群の大気圏突入後の調査に第256科学研究所をはじめ各科研連盟の調査団が続々とこの海域に集まってきていた。その中でもいちはやくこの海域に到着することができたのも、第256科学研究所はその施設そのものが移動可能な巨大な潜行艦であり、常に臨戦体制で現場に急行することが可能であったためである。
海底に沈んだ生命体は、あれ以来、何の反応もないように見えた。大気との摩擦によって、それは燃え上がり、表面はただ黒く炭化しており、もはやそこから生命活動を感じることはできない。


亜夜は薄闇のダンジョンのような第256科学研究所潜航艦「さざなみ」の廊下を艦底にある第3格納庫にある彼女の研究室へと向かった。
オケアノスは研究施設とはいえ基本的には潜航艦として建造されているために、どうしても造りが狭くなりがちになる。そのため亜夜は広いスペースを求めて彼女の研究室を格納庫に求めたのである。
もっとも彼女の研究成果であるEX-bsの開発と運用には格納庫意外に考えることができないのも事実であった。


亜夜は素早く端末に情報を打ち込みEX-bsの使用許可の確認をすると関係部署に調査の開始を通達し、EX-bsを格納庫へと配備、目標へと発進するように手配した。
「なに?潜ることになった?」
オフィスの奥からEX-bsの中枢役、パイロットの時田美緒がひょっこりと顔をのぞかせて聞いてきた。

時田美緒

海中での「さざなみ」のフィールドワークに美緒とEX-bsは欠かせない存在となっていた。無人探査機による海中のサンプル収集では、時として絶好のチャンスを逃してしまうこともあるからだ。


第三格納庫。
「美緒!コンタクト。」亜夜のやや緊張した声が空間に響き渡る。
「こちらEX-bs-mio、同期プロセス終了。知覚認識、良好。」
EX-bsに繋がれていた大量の透明なチューブからC6H12O6の透明な液体がEX-bsに流れ込んでいた。
「美緒、現在水深1200M。目標はさらに下方400M。現状では一切の活動は確認されていないけど、十分に警戒していきましょう。」
亜夜の今回の接触計画では、目標の表層にアナライザーを設置することと、分析用サンプルを採取してくることであった。
「支援機は先に潜行を開始しているわ。準備できしだいあなたも降りる、いい?」
「わたしの方はいつでもどうぞ。」
軽快な美緒の返事が第三格納庫モニター室の専用スピーカーから返ってきた。
「美緒、いい?テストプログラム実行するわよ。」
「了解。」
神経接続の状態を各節ごとに追跡し障害がないことを確認するために、外殻に埋め込まれた電極から刺激が送り込まれる。
「パルス発信。」
「受信確認。」

EX-bsと同期した美緒は本来の身体から神経系が分離されEX-bsに神経が直結される。
そのため、この神経接続は美緒以外はほぼ不可能であることになる。また、接続をするのにはEX-bsの神経ユニットと美緒の接続用末端神経の生理的結合を行うが、この神経細胞間のシナプス伝達が開始できるようになるのに半日程度かかる。対して分離には約三時間かかる。

「OK、美緒。」
いよいよ潜行準備が完了した。
「第3格納庫の総員へ、EX-bsの起動確認。」
「第3格納庫からブリッジへ。EX-bsを射出します。注水準備。」
「第3格納庫の総員は退避。各班点呼確認。」
EX-bsがリフトアップされ射出口へと搬出されていく。
第3格納庫のコントロールルームには整備各班の点呼確認のグリーンランプが次々に点灯し、総員の退避が確認される。そのすべてのランプが点灯するのを確認して注水ブロックの三重の垂直に交差する隔壁が次々に閉じられる。隔壁のロックが旋錠され第3格納庫と射出口とが2つに分断された。
「ブリッジより、全艦に。第3格納庫射出口注水隔壁内に注水開始します。」
射出口のEX-bsの周囲に海水が注入される。完全に射出口が海水で満たされると、EX-bsを固定していたリフトの拘束具が解かれる。
EX-bsと神経接続している美緒だが、彼女には海水の冷たさは調整され特に冷たいとは感じない。
美緒はゆったりとした浮力を体に感じた。
「EX-bs、美緒。準備よし。」
「射出口、開きます。」
ブリッジより第三格納庫の射出口の開口が行われる。
美緒は軽く射出口の底を蹴ると頭上の開口部へとEX-bsをゆっくりと移動させた。
通常は射出口の底部カタパルトからの推力で高速に射出するのだが、EX-bsの場合はいわゆる寝起き状態での出動となるため上品に初期動作を行う。美緒はわずかに体をくねらせてバランスをとると、スパイラルを描いてEX-bsを海中に投じた。

「第三格納庫・舞より、EX-bs・美緒へ。損傷無し。運動神経系に異常無し。現在の水深は、1220M。潜行準備をして下さい。」
EX-bsの運動動作は基本的に美緒の神経伝達によって行われる。しかし、潜行や探査等の付属機器のコントロールは、EX-bsと潜行艦「さざなみ」とを接続するケーブルによって第三格納庫またはブリッジより行われる。このケーブルはさざなみの底部にある。
美緒はケーブルをEX-bsの腰部右背後にある接続端子に接続し、それが確実に固定されていることを確認しておく。
第三格納庫の舞は接続されたEX-bsの探索機器へと起動命令を送り、各機器の担当にその制御を移行した。

美緒は海底へと潜っていった。とはいえ、EX-bsの背中に固定された推進装置は、さざなみから制御されているために美緒はただ身をまかせるだけなのだが、、、。
しばらくすると、先行して発射されていた小型探索艇「ドルフィン」が発信する微弱な赤い点滅を確認することができた。
美緒は、自分の制御下にある小型の推進機を操作してEx-bsを小型探索艇へと向かわせた。
両肩に取り受けられた強力なサーチライトがようやく小型探索艇をとらえた。美緒は小型探索艇の下に潜り込みその船底にある固定フックにぶら下がった。
そのころ、この海域には次々と各科研やその他の研究機関や報道陣などが到着しつつあった。
そして、思い思いに記録器機、調査器機を海底へと送り込んでいた。
「美緒、そろそろコンタクト準備。」
さざなみのブリッジから、加奈重の通信が届いた。
そして、両肩にとりつけられたライトが減力された。
定かではないものの、強力なライトによって地球外生命体の活動が再開されるともしれないからだ。宇宙空間で知覚となるものは「光」だけであろことからの対応だが、可視光のレベルを少しばかり下げた位ではなんの約にも経たないことではあろうが、気休め程度にはなる。
「美緒、探査開始よ。」亜夜はそう美緒に告げた。
それを受けて美緒は小型探索艇から離れるとそのまま地球外生命体から5m程の距離の海底に降り立った。
そして、地球外生命体の周囲を周回するように移動した。
Ex-bsの巨体が海底を移動する度ごとに海底に堆積した微生物の白い骸が海中に舞い上がる。
周囲約10m、長さ30m程度の尖塔型の鞘が海底に刺さっている様は、まるで地面に刺さった傘の様でもあった。
「!?」美緒はわずかに、傘の折り目がほぐれたような気配を感じた。
美緒は海底に着地すると白い海底へと半身を沈ませるようにしゃがみこんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「Ex-bsより、さざなみへ、反応は?」
「ドルフィンからの反応も特になし。」亜夜からの返事が返ってきた。
「こちらからのデータを解析して。」美緒は自分の知覚データを補助通信回線を経由してさざなみに転送しはじめた。
「このあたり、僅かだけれど、この亀裂が動いた感じがしたんだけれども、、、。」
美緒の視界にウインドウが開き、そこに先ほどの映像がリプレイされる。
「う〜ん???」唸る美緒と亜夜。
亜夜は、転送されてきた視覚データとEx-bsの運動データを照合して亀裂の動きを解析する。
「動いていないみたいだけど、、、、。」亜夜は解析合成されて吐き出された画像を見ながら美緒の誤認を伝えた。

美緒はそのままその場に待機して状況の変化を感じ取ろうとしていた。
その時だった、EX-bsの脚部のセンサーが異変を察知した。
「・・phが?・・」亜夜の声が海底のEX-bsの美緒にも聞こえて来た。
「詳しくはまだわからないけど、近辺の水域のph値に変化が観られるわ!注意して、動くかもしれない。もう少し距離をとりましょう、ドルフィンと合流してちょうだい。」
美緒は頭上にいるドルフィンへと浮上しながら残りの探査機を外し投下していった。
美緒は浮上しながら、溝から目を逸らせないでいた。
地球外生命体の溝が小さく震えほつれ目が広がってきた。
「!亜夜、動いてるよこれ!」
「出力最大、離脱。」
さざなみからEX-bsの推力信号が最大で伝達された。
背面に接続したケーブルの巻取り速度をはるかに上回る速度で浮上するEx-bs。
ゆっくり広がり出したほつれはだんだんと速度を増し、花の蕾みが咲くように広がり出したが、広がりきることなくその上部の口を小さく開くと動きを止めた。
まるで、イソギンチャクがあたりをうかがう様でもある。
美緒はさらに浮上を続けドルフィンを視界に入れた。
なおも浮上を続け地球外生命体を下に見下ろす位置にまで浮上し、地球外生命体の開口部からその内側を覗き込んだ。
その内側に明かりはなく、また、EX-bsの照明灯も僅かであり、その内側は闇で溢れ何も見えない。
その内側から何かが飛び出して来た。
「なっ。」
避けきれない、一瞬のことだった。美緒は身体をねじり避けようとするが、地球外生命体の開口部から飛び出してきた破片はEX-bsの左肩の外郭装甲部をかすめた。鈍い衝撃を左肩に感じ、攻撃されたことを悟った。
「美緒、ドルフィンが撃沈された!」亜夜の悲鳴に近い通信が入った。
先ほどのEX-bsの外郭装甲を引き裂いた破片はそのままドルフィンにまともに食い込んだ様である。そして、ドルフィンは水圧によって圧壊してしまったのだ。
今のような攻撃をまともにくらったらBX-bsもひとたまりもない。
美緒は、圧壊してしまったドルフィンの上部に回り混むと盾にして地球外生命体の様子を伺うことにした。
ゴン!!、、、ゴン!!
鈍い振動がドルフィンを伝わって立て続けに感じられる。
「結構好戦的じゃない?」と美緒。
「あんまりドルフィンを傷つけないでくれるかしら?」と亜夜。

「ドルフィンからの信号消失、完全に機能停止しました、、、。」
無人のドルフィンとは異なりEX-bsには美緒が搭乗している。
「都々御主任!」亜夜はさざなみの司令塔に判断の同意を求めた。
「ドルフィン及びEX-bsを回収します。」
ブリッジの都々御は亜夜の計画中止を受けると加奈重に回収作業に入らせた。そして、シートに深く身体を沈めると思考の迷宮へと入っていった。

美緒は宇宙生命体からの攻撃を受け圧壊したドルフィンの上にいた。
その足下にはドルフィンを貫通してとびだしてきた宇宙生命体からの破片がはみ出していた。 彼女は破片に近寄った。破片は紡錘形をしており、その頂点が少しひび割れていた。
「まるで弾丸ね。こんなのに直撃されたらと思うとぞっとするわよ。」
美緒は他人事のようにいうが、その通信回線の向こう側には亜夜だけでなく、ドルフィンを愛機とかわいがっていた佐々木主任がいた。
「おまえらが盾にしたんじゃないかぁ!」
愛機をスクラップにされた佐々木は涙目になって叫んだ。
「私はあまり傷つけないよ〜にっていったんですけどぉ。」
佐々木の至近距離 にいる亜夜は速効逃げに入った。
「ああ〜亜夜ぁ!、私を見捨てる気?それに、私がやつを挑発したわけじゃないし 〜。」
「そうそう、それに保険かけてるんだし、すぐにピカピカになるって!」亜夜も調子を合わせる。
「それともなぁに?私に痛〜い思いをしろとでもいうの?佐々木さんってば、、、。」
いかにも演技とわかる可憐な少女口調で美緒は佐々木の男心にジャブを入れる。
美緒は破片をドルフィンから抜き出してみた。 破片には縦に亀裂が入っている。
「いわゆる種みたいな感じがするんだけど、、。」
「卵じゃなくて?」EX-bsの視覚データを見ながら亜夜が答える。
「うん、ここネ、筋が入っているでしょ。椰子の実のとんがった様な形をしているから。」
「なるほど。なんか入っているかな。もしかしてエイリアン?」
「ちょっとぉ〜。大丈夫なの、これ。」
「今のところ、バイオハザードの危険もないみたいだし。」
だいたい、外宇宙生命体を大気圏内に突入させてしまった以上バイオハザードの危険性は大大大なのである。それが今のところ確認されていないのは奇跡とでもいう か、、。確認できていないだけで既に汚染されてしまっているかもしれないのだが。

「ああ〜〜あっ!落ちていちゃた。」と美緒。
亜夜はモニタに視線を戻した。そこには相変わらずEX-bsの手と外宇宙生命体から射出されてきた破片がアップになっていた。やや遅れて佐々木が悲鳴を上げた。ドルフィンを牽引していたケーブルがちぎれたのだった。
「わ、私じゃないよ。」おろおろと美緒が口走った。


「は〜」ため息ばかりがでる。
私の今回の探索は大失敗だったのかもしれない。いや、佐々木主任の愛機「ドルフィン」とEX-bsの少しばかりのキズで事が済んだのだから、3年前の宇宙軍のファーストコンタクトよりはよっぽどマシな結果、だと思う。
「亜夜ぁ!、いったい何時になったらここから出られるの!」
格納庫に無事帰還できたEX-bsの美緒が催促してきた。忘れていたが、私が美緒とEX-bsの精神結合の解除信号を送らなくては美緒はず〜っとEX-bsと同化したまんまになってしまうのだった。 急いで、結合解除の信号を送る。
送ったからといって、はいそうですか、なんて簡単に解除できる代物ではない。 美緒の皮膚に食い込んだEX-bsの神経がほどけるのに3時間程度はかかるのだ。
簡単に説明すると美緒に食い込んだ神経細胞が壊死するのを待つというわけ。

今回のコンタクトでの最大の成果は、やつの組織の一部を採取できたということ。ドルフィンの装甲を貫通した破片を美緒が拾い上げていたおかげである。
「採取した破片は解剖室にまわしておいてね。」マイクに適当に指示を放り込むと格納庫から佐々木主任の返事が帰ってきた。
「切り刻んでやる!この俺の手でなぁ。」放っといたら本当にやりかねない。まあ、気持ちはわかるけどもね。
「佐々木さん、間違ってもさわらないでちょうだいね。」
やんわりと常識的なことを言ってみる。 宇宙生物の組織である、常識では考えられないことがおこりうる。
さて、どう処理したものか。回収したサンプルを科研のベースに運ぶ時間がちょうど我々「さざなみ」の研究員だけに特権的に与えられた研究時間だ。生きの良い、かどうかは不明だけれども、宇宙生命体の試験体を調べることができるのだ。 本来なら私も一応分子生物学専攻だから、サンプルの調査に参加するところなのだが、EX-bsが破損してしまったので、そちらの方で大忙しなのである。
ベースへの帰還までに修理が終われば御の字であろうか。

「正直なところ、水中での交戦には今のEX-bsシステムですら対応しきれないわね。」
EX-bsから解放された美緒が背中越しに話しかけて来た。その手には大量の食べ物が抱えられていた。
「いくらなんでも食べ過ぎじゃない?」
「あのね〜、自分で作っておきながら認識不足ね!」びしっと指差す。
「この巨大な 身体のエネルギーの消費ははんぱじゃないのよ。なのに、深海に潜るわ、宇宙生物の攻撃はうけるわで血糖値下がりまくり。」
「姿勢制御の推進機以外は私が操作できないもんだから、泳いでいたのよ!?まるで 人魚よ人魚。」 「う〜む。」うなる私。

血糖値の消費量に関しての美緒の見解は別として、確かに深海で自由に行動ができるとはいえ、泳ぐのはさすがに酷であるというより無理がある。メインの推進機を活用できなくては、戦闘機に狙われた気球みたいなもんである。
「リベンジよ!」美緒はヤツと戦う気でいるらしい。 EX-bsは戦う道具じゃなかったんだけどなぁ。しかし、あんなに巨大な生物とどうやって戦うのか美緒に聞いてみたい気もしたのだが、やめておくことにした。間違っても 格闘して欲しくはない相手である事だけは確かである。

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