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第二話

地球外生命体は、深海というエサのあまりない場所に着地した。もっとも、地球の物質をエネルギーにするかという問題や慣れない重力下にあって、その活動に制限が生じるのではないかと楽観的な見方もあったが、物質の微少な宇宙空間に比べて物質に溢れた地球環境はまさにエネルギーの宝庫だったようだ。しばらくは変化が見られなかったが、徐々に増殖を開始し、今では周囲1kmに達する群落を形成するにいたった。

このまま放置すれば周囲の生態の破壊だけでなく、人類への驚異に繋がる存在になるのは必至であろう、このまま増殖、帰化を許すわけにはいかない。なんらかの手段を持って排除しなくてはならない。連邦評議会は、全人類の英知を持ってこれを排除することに決定した。そして、公的な科学研究機関である科研も研究班として部隊に配備されることになった。特にEx-bsは実戦部隊として運用されることになり、「さざなみ」は、軍からの配属を受けことになった。

前回の接触データによると、EX-bsの機動性能以上でなければ地球外生命体に近接するのは危険であることが証明された。 そこで、Ex-bsの強化計画として、有線コントロールからよりフレキシブルに活動できる仕様へと改造を行うことになった。 EX-bsの換装作業に入った第3格納庫周辺は、大量のパーツや作業スタッフの出入りで雑然とし、指事や作業音の大音声で騒然としている。 第3格納庫に隣接する亜夜の研究室も改修作業の為にくつろぐ隙間などない有り様になっていた。

「ここじゃぁ気が散ると思わない?、いいところがあるんだけど。」
亜夜は勝手知ったる我が家であるサザナミのとっておきの場所に移動することにした。

亜夜は携帯端末やらを格納庫から少し離れたリフレッシュルームに搬入しプライベート領域を確保しだした。
「そこの自販機のコンセント抜いちゃって、これを挿して。」
「ちょっと、亜夜。そんなことしてイイの?公共スペースの独占は問題だと思うんだけど。」
亜夜はそんな心配は無用とばかり胸を張って、「大丈夫、ココを使うのは第3格納庫の連中のみ!そして彼等はEX-bsの改装でこもりっきり。のんびり茶ぁする程の暇は与えた覚えないし。」とにやりと笑う。
「あ、そこのIDカードの精算端末の接続解除してこっちを繋いでね。」
ものの数分で、研究室の分室ができあがった。
「分室の看板あげておく?」半ばあきれて美緒がつぶやいた。

「私はちょっと不安なんだけど。」美緒が切り出した。
「EX-bsの操舵システムに入る人のこと?」
「なんでうちのメンバーじゃなくて、軍から赴任してくるヒトなのかなって思うんだけど。そうだ、亜夜って副主任の資格だったっけ?私よりデータ開いているんじゃない?どんなヒトか分かる?」
「残念ながら、私のコードでも外のパーソナルデータは覗けないのよね。名前と写真と年令くらいかな?」
美緒は、じ〜っと亜夜の顔を覗き込む。どうやら亜夜の言葉を信じていないようだ。
「な、なによぉ!本当だって。正規のルートからじゃ、、、。そんなぁ、潜れっていうの?」
「そこまでは言わないけどぉ。」
「いくらここに赴任してくるからといっても軍所属の人間のデータは公開されないとわよ。都々魅艦長くらいじゃないかなぁ、見られるのは、、、。」

亜夜はふと見上げた視線の先の偶然に一瞬目を見開いたが、すぐに悪戯っぽく口元をニヤつかせると、「それとも、本人に聞いてみる?」と美緒に入口の方に振返るように目配せした。
「?」
美緒がふり返ると、リフレッシュルームの入口に女性が顔をのぞかせていた。
「私のことでしょうか?」少し長めのポニーテールを左右に揺らしてリフレッシュルームに入ってきた。
「本日、潜行艦さざなみに配属されました、連邦機兵軍第1師団第8特機隊、佐倉詩織です。」
敬礼をすると、美緒に手を差し出す。美緒が差し出された手につられて握手をすると、詩織はしっかりとその手を握りかえした。完全にしおりのペースである。
「8月8日生まれの23才、身長162センチ、体重46キロ、85-63-87、血液型O型。性格はいたって明るく温厚よ、第8特機隊では風級の機甲スーツのパイロットでBreezeというコード名で呼ばれていたわ。よろしくね。」一気にまくしたてると、「Ex-bsを見せていただきますね、あ、艦長の許可はもらいました。」と言い残してリフレッシュルームから出ていってしまった。
「ど、どうも、、、。」美緒はそれだけ言うと硬直してしまった。
「BreezeよりTornadoの方がいいと思うな。」と亜夜はコード名を決めた。

さざなみが入港したのは、大洋の真中に浮かぶ人工島、ギガフロートの軍用港だった。
今回以降のフィールドワークは軍の作戦行動と密接に関連することから、本来の純粋な研究機関であった科研での活動とは大きく異なることになる。
科研中枢からの通達によって、賛同できないものは退艦して研究室を移すことになった。もちろん、Ex-bsシステムもその対象であったのだが、美緒にパーソナライズされた精神結合キーを解除することは事実上不可能であった。
また、時田詩織の乗艦と同じくして作戦行動を遂行するために司令官のポストが新設された。赴任して来たのは、秋(トキ)という若い幹部だった。

さざなみが換装を終え出港準備するにあたり、恒例の出港式が行われた。
換装を終え、黒く塗装された第1甲板上を南国の暑い日ざしを弾き返す白い大きな布が敷かれている。その白い布の上には、揃いのような白い制服に身を固めた連邦軍の軍人と、短いバカンスをなごり惜しむかの様に色とりどりの服装をした科研のクルーとが対照的に出典していた。
「詩織ぃ、おたくらって、いつもこうなの?毎回出港するたんびに、こんなに堅苦しい訓辞聞かされているの?」入れ代わり立ち代わりで、かれこれ小1時間ほどお偉いさんの挨拶が続き、質問した美緒だけでなく、科研の面子は既に話を聞く心境にはなかった。
平然と訓辞に聞き入っていた詩織は逆に美緒に科研式の出港式について問いかけた。
すると、沈黙の限界に達した亜夜が横から乱入してきた。
景気付けにパーッと飲んで食べて歌って踊って!全員で長旅を楽しめるようにネ!」
「全員なんかじゃないモンネ!」加奈重も会話に入ってきた。
「私は一度たりとも、飲んでパーッとなんて楽しい思いはしたことないんですケド?」とぷ〜っと頬をふくらませる。
「加奈重はいーの、さざなみを飲酒運転するわけにはいかないでしょ?」亜夜が加奈重の膨らんだ頬をつぶす。
「あれ?亜夜って未成年じゃなかったっけ?」詩織がはたと気付く。
「私?私の母国では飲酒は13歳からOKで〜す!」
「な〜んか不公平。私の母国は20歳からなんだよね...。」と詩織。
それでも、さざなみの出港式は無事終了をむかえつつあった。

深海に居を構えた、地球外生命体のコロニーは、周囲1km程にまで勢力を拡大すると、その中心部にそびえるパラソル上の筒から小型の生命体を放出し始めた。
それらは、コロニーの勢力圏外を一定期間巡回し、地球産の生物を捕獲すると再びコロニーに戻り、母体に吸収されていった。
人類は、コロニーから放出された小型生命体を捕獲したりマ−キングしたりすることで研究を続行していた。

「これまでに捕獲されたサンプルは5体、プラス、うちで採取した破片が1。ここから採取された遺伝子は3種。」科研の情報検索網に登録されたページをチェックしていた亜夜は、さざなみの操舵席の加奈重と地球外生命体についての雑談を展開していた。
「3種類の遺伝子ねぇ。いろんな種類の生物が共生しているのかしら?」
「そうね〜...、」加奈重の質問に亜夜は答えかねていた。
登録された遺伝子情報の結果はそのうち2種はほとんど一致しており、亜種であると判定される。さざなみ以外で捕獲された5体のサンプルがこの亜種関係にある。そして、これら亜種は、さざなみに回収されたサンプルとも近種であるというのだ。
宇宙空間の中で分化・進化しながらここに辿り着いた1つの種の結論ではないだろうか...。それとも、地球という環境に順応していく過程なのではないだろうか。
進化の過程をまだ人類は目撃していない。進化の過程がどれくらいの時間の中で営まれる仕組なのかを知らない...。
ただ、この3種が亜種と近種の組合せであるという事実がわかっているだけである。
ましてや、この3種の生命の営みは未だに不明であるのだ。
しばらくの思考の後に亜夜は自分なりの考えを悪戯っぽく表現してみた。
「進化する宇宙怪獣じゃないといいんだけどね。」
「な〜に、それ?」
「もしも、地球にきた生命体は1種類だとしてね。地球に来てから進化しているとしたら?」
「種が分化するためには、遺伝子の組み換えが必要なんだけど、その過程にはウイルスによる必然的な組み換えと、紫外線などによる偶然的な組み換えのとちらかの方法があるわね。そして、組み上がった遺伝子が環境に順応できた結果として淘汰された組み換えられた遺伝子をもつ新たな種が誕生するというわけよね。」
「それがこの短い時間の中で起っているかもしれない、ということ?」
「まだ、種として定着していない遺伝子を捕獲しているとしたら?いずれ環境に適応した種が完成して帰化すると、これは進化を目撃したことになるんじゃないかな。」
「それは...いいことなの、悪いことなの?」
「さあ?でも、今までの地球では他の環境の新種の帰化は、在来種の絶滅を意味しているから。多分ね...。」

ピリリリリリッー! 艦橋内に鋭い警報音が鳴り響いた。他の艦よりの警報通信が入ったようだ。
通信席から艦長と司令官に伝言が終わると、暫く艦長と司令官の間で簡単な打合せが行われたようだ。
艦長の都々魅はさざなみに長く乗艦しているベテランではあるが、作戦行動とは無縁の研究艦の艦長であり、司令官のトキは作戦指揮のプロではあるが、軍用艦ではないさざなみでの航海は初めてである、お互いに意見の一致を確認してからの命令の発動となる。
「052観測潜行艦より警報、コロニーから放出された小生命体が進路上を回遊中とのこと、本艦はEx-bsにより捕獲作戦を行います。」都々魅からの発令だった。
続いてトキから具体的な運用指示が伝えられた。
「頑張ってね!」Ex-bsのオペレーションから外れた加奈重は亜夜にエールを送る。
「あの二人、うまくやれるといいんだけど...。」 美緒と詩織のコンビネーションが試される時がきた。

初めての発進。 かれこれ3年くらい前になっただろうか、Ex-bsでひとり海中に出た時は心細いものであった。Ex-bsと身体が馴染めば馴染む程に、その身体は自分の肌と同等なものとなりリアルな感触を感じるようになっていた。海の深さ広さが心をより孤独に感じさせる。
耳に入る亜夜の声が遠くの別の世界に感じられていた。
その感覚は今でも変わりはなかった。
しかし、今回からは自分の胸の中は詩織がいるのだ。肉体的に感覚はないのだが、確かにそこに自分以外の存在を感じることができた。
すぐ身近に仲間がいることが、深海に潜る上でこの上ない心の安らぎになるとは思ってもいなかった。
さざなみがギガフロートで換装中にEx-bsの新システムでの航行テストは行われ基本的にシステムは美緒と詩織によるEx-bsの運用に全面的に書き換えられていた。
「Ex-bs詩織より、ブリッジ。Ex-bs発進準備完了。」
「第3格納庫、射出口解放確認、射出カタパルト電位正常、いつでもどうぞ。」
「ブリッジよりEx-bsへ、発進どうぞ!」
「美緒、いくわよ〜、Go!」
巨大な砲の形をした射出カタパルトから高速に加速されたEx-bsが射出される。これまでの有線による運用では考えられないことであった。
弾丸のように飛び出したEx-bsの胸部コクピットの詩織の操縦によって高速に海中を航行し、目標に向かっていった。
Ex-bsの脚部にとりつけられた探索器が、小生命体を補足している。

地球外生命体のコロニーから放出された小生物は目的もなくぶらぶらと海底近くを蛇行しているようである。
目標が進路を変える度にそれに合わせてEx-bsの進路を変更していた詩織のコントロールが少しずつ手荒になる。
そのいらついた音がEx-bs内の通信マイクを通して聞こえる。
「まったく、何をしているんだか...ふらふらと...。」小さなつぶやきが自然と詩織の口をついてででた。
さざなみのメインモニタを凝視していた誰もが同じことを考えていた。
「エサでも探しているんじゃないの?」 気軽な返事を美緒が返して来た。
「うそー、地球のもの食べるんだ?」「じゃないの?」真剣味に欠ける会話であるが、あながち間違いではないと誰もが漠然と感じていたはいた。
補食できる対象がいて、天敵となるものがいない環境。
こんな単純なことだけではないのだが、帰化するのには必要な条件である。
「やった、捕捉。」
デジタル処理をされた画像が表示されると「減速、美緒しっかり捕まえるのよ!」
詩織はEx-bsの背中の推進機の出力を下げる。
それに合わせて美緒は上体を起こす。
Ex-bsの両腕に取り付けられた捕獲用のワイヤーつきのランチャーの状態をチェックしながら詩織は目標との間合いを美緒の視覚に叩き込んだ。

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