1996年9月11日
カラコルムハイウェーのはじまり、はじまり


    
手前のインダス川と流れ込む支流     河原に岩絵のある巨岩がころがっている
流れ込む水と主流のインダスの
色の違いがすばらしい
   岩絵は川のすぐわきにある

 今日は移動がメインだ。移動距離200キロということでゆっくり目にホテルを出発。カラコルムハイウェーを行く。
 小さなバスは揺れ方が違うのか、酔い止めを飲んでも効かなくて毎日吐き気と戦っている。ガイドの話をメモしなければと思うのだが、それも体がだるくてままならない。明日は高度も上がるというので少々心配だ。
 途中、ユーラシア大陸にゴンドワナ大陸から分かれたインド大陸がぶつかり、そのクラッシュした部分にインダス川ができたという説の地質学的な証拠といわれる願そうを見たりしながら、一路チラースへ。お昼はPTDCのバーシーンで食べた。
 いちばん暑い頃に、途中のシティアル(Shatial)で初めて岩絵を見た。このシティアルは、流れのゆったりとしたインダス川のほとりにある。そのあたりのインダス川の河原の石が日差しに焼かれてみな茶色く変色しているのに驚いた。もともと焦げ茶色の岩かと思っていたら、新しく何らかの原因で欠けた部分は色が白かったので、日に焼けたのだとわかる。川幅は100mくらいで、対岸に道が一本見えた。聞くと、巡礼の道がここで川を渡っていたという。その巡礼者達へのここで川をわたるべしという道しるべと、安全を祈るためにこの岩絵は彫られたという。岩絵の部分を手で触ってみたが、ほんの数ミリへこんでいるだけだった。この絵が残っているのは、雨が少ないからだという。河原で厳しい日差しの中、岩に掘られた御仏は、じっと修行をしておられるようだった。
 チラース目指してひた走る中、ナンガパルパット(8125m)の雪をいただいた頂上が見えた。アングルを変えて何回かの撮影タイムがあった。山は気高い創造物だ。それが近くにあれば、その高さは人々を圧倒し、遠くにあれば道しるべとして、あるいは神々の座として人々のあこがれを集める。それにしても、手が届きそうな近さに見える名もない山(パキスタンでは、6000m以下の山には名前がない。)が5800mの高さだといわれてもあまり実感がわかない。それほど山が近くにあるのだ。
 インダス川に沿って車は走る。車窓から見ていると、土地の人々はわずかな面積でも、すべての平らな土地には作物を作っているようだった。インダス川の水面から、200〜300mの高さのあるカラコルムハイウェーから見下ろすと、幅のせまい段々畑が、細かなプリーツのように山肌に刻まれていた。
 今夜のホテルはシャングリラという名前が付いている。ホテルには夕方の6時前についたので時間がゆっくりあった。すぐに洗濯をし、今日着ていた木綿のブルーの上下を洗って、外のブーゲンビリアの木にハンガーに掛けてぶら下げておいたら、ものの1時間で乾いてしまった。ものすごい乾燥だ。それぞれの部屋が回廊でつながったホテルの、部屋の前のテラスになっている芝生から、インダス川が見下ろせる。河原で猫が2匹遊んでいた。1匹が茶虎で、もう一匹はグレーの虎だった。どうも、茶虎の方が母親らしく、数日ぶりで猫が無邪気に遊ぶ姿をみて、なんだかとてもくつろいだ気分になった。
 この、空と山と川しかない風景には本当に、心がやすまった。人々が思い描いたシャングリラとはどんな所なのだろう。私は心がくつろぐ所がシャングリラだという気がして、なんだかこのホテルのネーミングに感心してしまった。

シャングリラ日記 カラコルムハイウェー
ハイウエーの向こうに雪山が見える
道の向こうに雪山が
いよいよカラコルム
ハイウェーだ
 この道路は1958年に計画され、途中ベシャムとパスーの間の岩が硬くて工事が難航し、完成したのは20年後の1978年だった。約3時間おきに大きな町があり、カシュガルまでの全長は1250キロになる。合計8000トンのダイナマイトを使用したという。たくさんの人命も失われ、やっとできあがった道を、物資が人が往来している。このあたりには、街道というようなイメージがあって、なんとなく道にも活気がある。
 ハイウェーを走る今日は、1日中日差しがつよく、とても暑く、シティアル(Shitial)で岩絵を見に車を降りたときには、あまりの暑さに少しふらふらした。大気温度は42.3度だった。(温度計が小さくてちょっと不正確かもしれない。)水分がよく肌の表面から蒸発しているのがわかる。この暑さ、タクラマカン砂漠の暑さとは、何かが違った。日差しがより強烈なのかもしれない。凶暴な暑さといいたくなるような暑さだった。
 この道を、今よりも悪い条件で、らくだや馬の力を借りて通った昔の人々は、どれほどの苦労をしたのだろう。三蔵法師もこの近くを通って天竺からたくさんの経典を持ち帰られたのだと思い出して、ちょっと暑さでとろけていた体に芯が一本通るような思いだった。

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