1996年9月17日
カシュガル


    
丘の上に塔が建っている
莫爾仏塔

 朝、出発していくユーラシアのバスツアーを見送ったあと、朝食。見送りにでたら、ツアーの参加者のかたから、これから入るトルガルト峠からナリン、イシククル湖あたりまでの地図のコピーをちょうだいした。ありがたいことだ。いいんですかと伺ったら、ご夫婦で参加なさっていて、2枚あるから遠慮なくどうぞとおっしゃってくださった。ご厚意に甘えてちょうだいした。
 中国にきたのだからと、夏に全巻そろえられなかった『幽遊白書』の中国語海賊版コミックスの残りのものを探したかったのだが、あまり気力が出ず、ツアーの観光に着いていくことにした。今無理をして、気力を奮い起こすとろくなことがないような気もしたし。 午前中いちばんで、莫爾仏塔へ。ホテルから東に向かって1時間半くらいのドライブだった。ゴビ灘の真ん中に小高い丘があって、その上に日干し煉瓦で作られた高さ15mくらいの仏塔があった。その丘に登るのが結構急で、足下が少しふらふらした。気をつけて歩いていたつもりだったのだが、やはり足首をひねってしまった。軽い捻挫の様だ。ホテルに帰ったら湿布しようと思っていたら、忘れてしまったので大したことはなかったということだ。  お昼ご飯のため一度ホテルにもどり、午後は改めて香妃墓にいったが、熱が下がりきっておらず体がだるくて節々が痛かったので、前回の夏の旅で訪れていたこともあって、車の中に残った。明らかに不調である。これは、これからの自分の荷物をすべて自分で運ぶ一人旅ということから見たら、実に大きなデメリットである。少々頭が痛かった。  最後の観光ポイントは、カシュガルの旧市街だった。何軒か店屋の固まっている一角から細い道をはいって、歴史の深そうな壁の間を歩く。家の外壁と外壁の間が通路になっているのだ。壁といっても、塀の役割をしている部分もあったり、そのものズバリ家の壁で窓や戸口が開いていたり、なんとも不思議な感じだ。特に、道に覆い被さるように張り出している部屋や、出窓にはびっくりした。部屋がつきだして、その横っちょにしゃれた街路灯がついていたり、満艦飾に洗濯物が干してあったりするのだ。生活のにおいと、異国の雰囲気で、なんとも曰く言い難い。その間を歩いていたら、この先の旅のことを考えてあまりに不安で、涙が止まらなくなってしまった。一種のヒステリーの発作なので、直に収まるだろうと自分を客観的に見る強い自分と、くるんじゃなかったと思っている弱虫の自分がいる。こんな思いは何年ぶりだろう。  出先の電話やホテルの公衆電話から何回か、カシュガル国際旅行社に電話を入れてみたが、相変わらず私の峠越えの手配の件ははっきりしない。仕方なく、夕方日本の旅行会社に国際電話をいれたが、タイミングが悪く、1度目は担当の人が外出中で、2度目にやっとつながった。ざっと事情を話したが、先方もびっくりしたようで、確認するので明日もう一度電話をもらいたいということだった。どうなっているのだろう。わずかに出来る英語も通じない様な旧ソ連圏で今社会が激変しているところに、しかもはっきり確認のとれない手配で、乗り込んでいくというのは、本当に不安なことだ。昼過ぎからずっと続いている不安な気持ちが増幅されて、ますます心が塞いだ。  気晴らしにどうかと、夕食後、町の屋台にツアーの仲間と出かけていった。材料を選んでにてもらう中国風のおでんの様なものはあまりおいしくなかったが、カバブは焼きたてでおいしかった。ただし、酒のつまみなので、カバブが真っ赤になるほど唐辛子がかかっていて参ってしまった。ふうっと息を吹いたらぼーーっと火が出そうだった。

シャングリラ日記 白倉、お招きを断るの巻
バザールの老人
旧市街の入り口の
バザールのおじさん。
売っているのは、
香辛料だった。
 丘の上にに、老人が一人居て、見た目はまるで80才のおじいさんだったが、よくよく聞いたら50代前半だという。砂漠の中の過酷な生活が、普通より早く彼の若さを奪ってしまったのだろうか。いろいろ話をしていたら、是非、うちに寄ってもらいたいという話になり、ツアーのメンバー全員で彼の家に出向くことになった。しかし、残念なことに、彼のからだから、かなり強いある種のハーブというか香料のにおいがしたのだが、そのにおいが私はとても苦手で、お宅訪問を遠慮せざるを得なかった。彼は遠来の客を喜ばせるために、桃と無花果とお茶でもてなしてくれたそうで、ツアーの仲間がそれをバスで一人待つ私の所に持ってきてくれて、お裾分けに預かることが出来た。桃は、直径7センチほどの小さなもので、身はきっちりと締まって堅かったが、甘みはとても強かった。無花果は、ほっぺたの墜ちそうな甘さだった。おじさんが、私が車に残った理由をしきりに気にしていたというのを聞いて、心底申し訳ないなあと思ったのだった。もっと神経太くならないと、旅には向かないなあ。

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