1996年4月13日(第14日) タブリーズ〜ザンジャン |
ザンジャンの色つきタイル |
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朝は、快晴。まずタブリースの町の、ブルーモスク、その隣の博物館を観光しました。博物館で印象に残ったのは、獣の骨や、石で作られたドラム型の印鑑。年度の上をくるくると転がすと、同じ模様が繰り返し現れるもの。細工が細かくしかも動きのある図柄でみとれてしまいました。メソポタミアの古いガラス器なども少しだが展示されていました。けれども、いいものはやはり大英博物館などに持ち去られているのか、あまりびっくりするほどのものはなかったのが残念。こうして、各国の遺跡や博物館を見て歩くと本当にたくさんのものが、先進国の博物館に展示されていることに驚きます。出来ることなら、元あった場所に近いところに展示されるのがいいのでしょうが、保存技術なども問題なのでしょうか。少し残念な気がします。
ブルーモスクは今、修復中だとかで、工事の足場が組まれていました。中の丸天井は音響効果のためのもので、中の説教の声は外まで響くように作られているといいます。今は使われていないため、がらんとした内部を見て歩いたあと、外のがれきの中から、小さな色つきタイルのかけらを拾いました。案内の現地の人に聞くと、持っていってもいいと身振りで示してくれました。宝物にしよう。今回の旅ではとにかく、モスクや色々な建物に使われているタイルの美しさにはびっくりさせられました。ブルーにも様々な色があり、それはグリーンにもトルコブルーにも同じことが言えて、ほんとうにため息がでました。日本の色とはどこか違うのです。何が違うのでしょう、毎日、工人の瞳に映る空の色や、自然の色の違いなのでしょうか?
昨日に続いて3時頃から降り始めた雨の中、やっとたどりついたザンジャンのサルタンの廟にもタイルがふんだんに使われていましたが、その模様タイルの中に今まであまり目に付かなかった(私が見落としていただけかも知れませんが)黄色のものがあって、珍しかったので写真を撮りました。どんな釉薬が使われ、どんなところでどんな風にして焼かれたのでしょう。午前中にタブリースで拾ったかけらは、私たちが今日知っている薄いタイルではなく、煉瓦の表に釉薬を塗って焼いたものだということを示すように大変厚みがありました。朝日や夕日に映えるタイルの輝きはそのタイルを使った建物の威信、王や神の威信を表すのにきっと十分な効果があったでしょう。今は、はがれ落ちたりして往事の威信を忍ぶには少々無理のあるものもありますが、それでも美しさは想像できます。
日本の古い時代の宗教的建物は、みな、今見る限りでは、丹がはげて落ち着いた木の色彩だけだけれど、そういえば1000年経ったら同じようになる、という奈良の薬師寺の西塔や金堂の立ったばかりの時のきらびやかさ、悪く言えばけばけばしいばかりの丹と緑と白の色合いを見たときはびっくりしました。しかし、その華やかさとこちらのタイルの華やかさとは本当に異質な感じがあるのです。宗教も風土も違う、そういう国に来ているとしみじみ思いました。こうしてホテルで旅日記を書いていると、窓の外から夕方の祈りに人々を誘うモスクからの声が聞こえてきます。10日あまりも毎日聞いているとなんだか、その歌うような知らせの声に、安心感を覚えてきてもいます。旅の夜は色々な音が満ちているのです。
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