1996年4月17日(第18日)
テヘラン〜ナウシャール


    
カスピ海へ抜ける途中の雪山と川
雪をいただいた山並み

 今日はいい天気です。朝のうちは少し涼しかったですが、昼からは暑くなりました。テヘランから峠を越えてカスピ海沿いの保養地ナウシャールへ。途中の峠では3000m以上の高さを超えました。一面の銀世界を越えて、美しい空と山が広がっていました。ホテルの都合ですぐには部屋には入れず、昼食後部屋へ。
はじめてみるカスピ海は、静かな水面で、当然のことながら、対岸は見えません。空の青さと白が滲んだような岸辺近くの色、そして岸から離れて水深が深くなったあたりからのグリーンの混ざったブルーと、三色の美しさにしばらく見とれてしまいました。ホテルのテラスのあたりには、きじ虎猫と三毛猫がいて、岸のところに積み上げてある、大きな石の間を遊び場にしているようでした。にゃあんと声は聞かせてくれるのですが、さわらせてはくれません。うちの三猫のことが少しばっかり恋しくなってる母さんとしては、是非とも仲良くしたかったのですが。
 カスピ海というと、ルイスのナルニア国物語の『カスピアン王子の角笛』で、私は初めてカスピという音と出会いました。ストーリーを忘れてしまいましたが、あれはカスピ海の人々という意味だったのでしょうか。なんだか、あれから長い年月が流れて、私は、カスピ海の水に指先を浸して、少し物思いに沈んでいます。
 今日は、ホテルで遅めの昼食を食べた後、ゆっくり時間を過ごしました。何もない町だけれど、とツアーの人たちがバスで近くの町に出かけていくのを、窓から見送りました。西山さんに「きっとこの町に来ることは、もう二度とないとおもうよ、行こうよ」と誘っていただいたのですが。疲れがひどくて、どうも山道が体に答えています。他にも残ったツアーの仲間と話をしたり、日本茶を飲んだりして本当にのんびりしました。こんな日は本当にいきかえったようです。
 昨日、シラーズからの帰り道の飛行機の中で、ツアーのメンバーの工学が専門の方に、ペルセポリスの遺跡の破壊が進んだ理由として、石と石の間に詰まっていた鉛を、ナポレオン時代に取り出したことによって、石の安定がくずれて次の地震に耐えることが出来なかったことがあげられていたので、鉛がいったい何のために用いられていたのかを伺いました。
 鉛そのものには、接着剤的な働きはないのだから、もっぱら、石と石の間に流し込んで密着させる働き、つまり石を安定させる働きをしたと思われる、というのがその方の見解でした。高さのある円柱ですが、あれは一本の石ではなく、ドラム型の石塊の中心に穴を開けて、心棒のようなものを通しながら、何個かを縦に積み上げたもののことが多いのです。ちなみにエジプトのオベリスクは一本の石で出来ています。切り出し途中のものや途中で折れたものが放置されているのでよくわかります。一本の石で出来ている円柱もあるのかもしれませんが、とりあえず、今回のペルセポリスのものは組立式のものだったので、そのような技術が必要だったのでしょう。
 今回のツアーに出て、つくづくよかったと思われることがあります。それは、ツアーの参観者は、私と不思議少女繭ちゃんをのぞいて、みんな人生の先達でいらっしゃるので、何かと教えていただくことがおおいのです。昨日の鉛の話しにしても、私は何というか、鉛を使ったという話から、はんだごてのはんだみたいな接着効果を想像してしまっていたのです。みなさん、考古学の専門家ではないけれど、それなりにご自分のフィールドでは、歴としたプロフェッショナルなので、お話が本当に参考になるのです。  他にも、今日、夕食をご一緒させていただいた方に旅の過ごし方、見方について、私の知らなかった世界を教えていただきましたが、それはまた、日を改めて書きましょう。

ミニコラム 峠のカバブ
露天で焼いているカバブ
峠の釜飯みたい
今まで食べた中で
一番おいしかった。
 テヘランから、カスピ海岸のナウシャールへと峠を越えた。ドライバーが腕に覚えがあるのか、アクセルを踏み込んでは、カーブの手前できつくブレーキをかけるという、乗り物酔いは当たり前という運転で、カーブのきつい山道をがんがんとばしていく。みんなだんだん口数が少なくなっていく。明らかに、多かれ少なかれ、車酔いの洗礼を受けているようだ。私はといえば、この旅が50日なので、50日分きっちり持って出てきた酔い止めを毎日朝食と一緒に飲んでいるので、幾分かはましなはずなのに、それでも胃のあたりが変になってきている。車に乗ってあっと言う間に酔う才能には長けているのだ。
 途中で3回ほどの休憩を取った。その二回目、道ばたに紅茶のチャイを飲ませる店の出ているところで、頼めばカバブを焼いてくれるので、そこで、添乗員の大沢さんが、ラムのカバブを頼んでくれた。都合5本焼いてもらって、車酔いのひどくないメンバーで、ざくざく切ったタマネギとナンと一緒に食べた。ラムはとてもジューシーで、意外なほど臭くない。調味料は、大沢さんたちがぱっぱとふってくれた塩だけのはずなのに、これがなかなか味わいがある。朝食はちゃんとたべたのだけれど、雪の残る高山の冷たい空気と暖かなカバブが実によくあって、胃の中に暖かな火がともったような感じだった。
 峠の釜飯ならぬ、峠のカバブはイランの雪山のいい思い出になった。

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