1996年5月8日(第39日)
ハミ〜敦煌


    
フェンス越しの莫高窟
フェンス越しの莫高窟

 今日は、朝5時半起きで、6時半出発で、敦煌へ走ります。午後から莫高窟の観光をする予定だったので、どうしても1時頃までに敦煌に到着する必要があるのです。敦煌まで、440キロ。だいたい6時間くらいかかる計算です。このところ移動距離が長いので、400キロとか450キロとかには余り驚かなくなりました。実際、とにかく、バスの揺れに身を任せて、ひたすら耐えていれば、いつかはつくわけですから、それほど大変というわけでもないかも知れません。ただし、それが、毎日でなければ。明日に至っては、敦煌から玉門関へ行くのですが、それが、ゴビタンの道のないところを片道55キロ往復110キロも走るため、片道100キロほどの道のりを6時間かけて行くことになっています。とても疲れるので、今日は早めに寝てほしいと、繰り返し現地ガイドのトウさんからインストラクションがありました。
 今日のメインは、この旅のメインの一つでもある、敦煌莫高窟の見学でした。写真で見るのとは違って、平面のはずの壁画に立体感が感じられたり、塑像の窟全体とのバランスで作り出すハーモニー的なものを感じたり、本当にあっと言う間に予定の2時間半が過ぎてしまいました。今は492ある窟のうち、30ほどを公開しており、さらに一つの窟ごとに決められた追加料金を支払うと特別に見学出来る窟がいくつかあります。今日は11の窟に特別拝観の窟を2つのあわせて13の窟を見せてもらいました。
 特に私が以前から楽しみにしていた釈迦の前世のおはなし、ジャータカの「鹿王本生図」の壁画のある257窟と、法隆寺の玉虫の厨子の台座にも書かれている「捨身飼虎図」のある428窟に入れたのは本当にうれしかったです。いくら写真で見ていても全体の位置関係や、実物の大きさ、薄暗い窟の中の独特の雰囲気など、本当に見なければわからないこともたくさんありました。将来の希望としては、もっと仏教の勉強をして、色々な壁画の意味がよく理解できるようになったら、また出直してきたいと思いました。
 今日も早かった上に、明日が大変そうなので今日はもう休もうと思います。

ミニコラム あこがれの敦煌
莫高窟の壁面
フェンスの中は
撮影できないから
茂みに潜って
フェンス越しに
とりました。
 とうとう、敦煌までやってきた。あこがれの敦煌である。元々、仏教系の宗教美術を見ることは私の趣味の一つで、日本国内でもあれやこれやと機会を見つけては、足を運んでいる。しかし、ここはあの敦煌だ。
 井上靖の小説『敦煌』も読んだし、平山郁夫画伯が、敦煌の壁画の保存に力を注いでおられることも耳にしている。長年あこがれ続けて、今日やっと現地に足を踏み入れ、現在公開されているいくつかの窟のうちのわずかな数を見ただけだが、でも、写真や文章で見聞きするのと、実際の壁画や塑像を見ることはやはり全然ちがうことだった。まさに、百聞は一見にしかずである。
 だから、この文でもいかに壁画が素晴らしかったかについてはもっと素晴らしい表現のものがあまたあるので、それにはふれない。
 今、心から望むことは、この壁画にあこがれ、世界中からたくさんの人が足を運んでくる。その人達、未来の来訪者のためにも、どうぞ、この壁画を少しでもいい状態で残してもらいたいということだ。私自身も、もう一度仏教的な勉強をして、また敦煌を訪れたいと熱烈に思う。今回の旅全体を通して、自分の勉強がもっと進んでいればもっとたくさんのことを感じられたのではないかということが悔やまれてならないが、今日も、釈迦の前世の物語であるジャータカの知識がもう少しあったら、いくつかの壁画の感じ方がずいぶん違ったのではないかとほぞをかむ思いだった。出来ることなら、国外に持ち出された壁画や、塑像も元の場所に戻してあげたいとも思う。今の中国の技術なら、きっと保存も出来るだろう。もとあった場所で見るのが、やはり一番いいように思うからだ。
 話は変わるが、今回のツアーでは、全体に、シルクロードを全線走破する事が最大の目標という人が多く、遺跡や歴史にまつわる観光の方は、余り盛り上がらない。私などは、そういうものへの興味で頭が破裂しそうになって、想像もりもり、イメージざくざくで出てきているので、つくづく色々な人がいるなあと、認識を新たにしたくらいだ。今日の莫高窟の観光も、前に来たことがあるからと、出かけない人もあった。こうした旅にでると、色々な価値観があることがわかることもまたおもしろい。
 あっと言う間に2時間半が過ぎて、敦煌莫高窟の観光は終わった。莫高窟自体は写真機の持ち込みが認められていないので、フェンスのこちらから取った写真しかないけれど、この小さな入り口の一つ一つに美しい御仏の世界が構成されていると想像しながら、ご覧あれ。ほうら、あなたも敦煌に来たくなる。

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