5.潜水艦発見


    
おことわり


 ふと眼をやると、ドライドックの向こうに、潜水艦が2隻浮かんでいた。陸と平行に係留されて、陸から遠い側の潜水艦には、手前の潜水艦を越えて渡り板が渡されていた。一緒に回っているアメリカ人夫婦の奥さんの方が、感に堪えないと言うような声で「So small!!」と言っていた。確かに、映画やテレビでお目にかかる米軍の原子力潜水艦に比べるとだいぶと小さめではあるが、「そこまで言うかい?」と、とろねこと顔を見合わせて苦笑いしてしまった。だって、それは、日本の海上自衛隊の潜水艦で、艦尾に旭日旗があがっていたし。旦那さんが、そっと、「これは、日本のジエータイのものだよ」(ジエータイの発音は、「エ」にアクセントがある)と教えてあげていた。ガイドをしてくださる国際交流ボランティアの方からも、「この潜水艦は、潜ったままアメリカまではいけないんだよ」とお話があった。なんだか、ちょっとだけ、「ウチ(日本)は大丈夫かなあ?」と言う気持ちがよぎったので、とろねこにその話をすると、けらけらと笑って説明をしてくれた。
 それによると、日本の自衛隊の専守防衛というコンセプトから考えて、はるばる太平洋を横断してアメリカまで行ける必要もないし、小さいということは、小回りが利くと言うことだし、エンジンの音もスクリューの音も小さいと言うことだ。海中を航行して作戦を遂行する事を前提とする潜水艦の場合、音が小さいということは、イコール敵に探知されにくいということだ。また、日本の潜水艦のソナーは実に高性能だという。「山椒は小粒でぴりりと辛い。いいでしょ、自衛隊らしくて」と、とろねこは自慢げである。そうか、でかいばかりが能じゃないのね。
 潜水艦と言うと、男性ばっかりの勤務と相場が決まっているが、開かれている米軍はどうかなと思って、C氏に聞いてみた。ちなみに我らが海上自衛隊では、男性ばかりである。すると、米軍も、潜水艦勤務は男性のみ、という。日本では、潜水艦乗り(サブマリナー)は、一般にエリートと言われる。内容はよくわからないが、狭いところに詰め込まれて、何日も太陽も拝めない勤務に耐えられ、多くのタスクをこなせる強靱な神経の持ち主だという事なら、本当にその通りだと思う。潜水艦の大きな米海軍の潜水艦暮らしでも、個室を与えられているのは艦長のみという。海自の潜水艦は規模が小さいので、さらに空間的にはシビアなものがあるだろう。
 ちょっと意地悪な気持ちになって、「本当に、乗組員同士、淡い気持ちが芽生えたり、なんて、あるのかなあ」と聞いてみると、C氏は少し顔を曇らせながら、「冗談ではない問題なんだよ。潜水艦は大変な職場だから」と言っていた。それ以上、何かを聞くのは少しばかりはばかられた。

ミニコラム 基地内のドライバーマナー
非常用ゴング
昔懐かしい
非常用ゴング
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 基地の中は、本当にドライバーのマナーがいい。横断歩道では、必ず横断歩行者優先が遵守されている。私たちの50人ほどのグループは、この徒歩移動の間、縦にだいぶ長い列になって都合3度道を横断したが、そのたびに、車のドライバーたちは、嫌な顔もせず長い時間ずっと待ってくれた。それは、横断している私たちの方が気がさしてしまうほどだった。この現象からも、小さなコミュニティとして自分たちの空間に対して愛情を持っている基地の人たちの気持ちが透けて見えるようだった。

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米海軍横須賀基地見聞記 目次


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